璃人VSマリアンナ
璃人は、マリアンナの間合いに踏み込めずにいた。
マリアンナの周囲を目に見えぬ何かが渦巻いているのだ。
何か禍々しい気配だけを璃人は感じていた。
何て恐ろしい魔力だ…。
璃人は背中の毛が逆立つようなゾクゾクする女から溢れ出る魔力と戦っていた。
「攻撃してこないのかい。それじゃあこちらから行くよ。」
マリアンナはにんまりと微笑むとおもむろに両手を前方に差し出した。
璃人に高圧の大気が吹き付けた。
日本刀を十字に構え大気を受け止めようとする。
だが、大気は日本刀など無いかのように吹き抜け、璃人の体に叩きつけられた。
璃人は大きく息を吐くとまっすぐと後ろに吹き飛ばされた。
璃人の来ている作務衣の上半身はぼろ布のように切り裂かれていた。
「わざと後ろに飛んで、ダメージを最小限に抑えたようね。一緒に飛ばなければ
あなたの体がぼろ布になっていたわ。」
「全くやりづれえ女だな。こりゃあ気合入れなきゃマジでヤバそうだ。」
璃人が、ぼろ布になった作務衣を脱ぎ捨て立ち上がった。
そして、日本刀を逆手に持ち変えると前傾姿勢を取った。
璃人は一気に間合いを詰めると、マリアンナの間合いに入る直前に真横に
跳んだ。先には船のマストがあった。
マストを5メートル程垂直に駆け上ると、さらに斜めに跳んだ。
マリアンナの背後には、甲板に立ち並ぶ客室があった。
その壁に足を着くと、ちょうどマリアンナの背後を取る形になった。
璃人は、ちょうど背後の斜め頭上から一気に逆手の日本刀で切りつけようと
した。距離にして高さ約5メートル。
「台風の目。頭上からの攻撃に私が気づかないとでも…。」
マリアンナは、全く振り向きもせずに呟いた。
魔女の腰まである黒い長髪が急に逆立ち始めた。
璃人は魔女の頭上から日本刀を突き通した瞬間、髪の毛の中に黄色く光る目を
見たように思えた。日本刀の刀身を含めた璃人の両腕には髪の毛が幾重にも
巻き付いていた。
まるで髪の毛が生きているかのように1本1本が蛇のようにのたくっている。
しかも長さや体積も見違えるように増えている。
次の瞬間、璃人は船の甲板に叩きつけられていた。
両腕を塞がれているにもかかわらず、体を捻り、何とか受身を取ったのは、
奇跡の体術と言えよう。
しかし両腕には大量の髪の毛が巻き付き、腕は紐状の剃刀にでも切られた
ように血だらけになっている。璃人は両手に構えた日本刀を未だ離さずに
痛みに耐えていた。
「舐めたまねしやがって…。」
両手に握った日本刀が風車のように回転すると魔女の鋭い髪を寸断した。
「ほう、思ったよりしぶとい奴じゃな。もう少し雑魚であれば苦しまずに
済んだものを…。」
次の瞬間、璃人は眼球に鋭い痛みを感じると、視界が真っ赤になるのを感じた。
何か鋭い針のようなものを無数に両眼に突き刺されたかのようだ。
璃人の眼球にはマリアンナの毛髪が無数に突き刺さっていた。
「油断したのう。私の髪の毛は切り離されようともしばらく自在に動くのさ。」
「しくじった…。爺い、お嬢を頼んだぞ。」
閃光弾が頭上に上がると、視力を完全に奪われているにも関わらず、真っ直ぐに
マリアンナに向かって突進した。
「愚かな…。侍魂か…。」
横殴りの突風が吹き付けると、次の瞬間、璃人の首は宙を舞っていた。




