骸
璃人は、背中に手をかけると日本刀を抜き放った。
左右二本の長刀を左を上段、右を中段に構える。
得体の知れぬ敵に対し、かなり警戒していることが傍目からも見て取れた。
「ギジッ。」
骸がぎこちない動きをしながら立ち上がる。
起き上がった骸たちも各々両刃の西洋刀、槍、斧といった錆び付いた武器を
手にしている。
不動と名乗った身長が2メートルはありそうな大男も、六角棒を取り出すと
脇に構えた。桐生 霞を前後で挟んで守るような形である。
一方霞のほうは、傍目から見ると何も手にしておらず、構えようともして
いない。
骸骨は、息を合わせたかのように一斉に3名に襲いかかった。
璃人が、日本刀を一閃すると、先頭の骸の頭蓋骨が胴体から寸断されたが、
何もなかったかのように錆びた洋刀で斬りかかってきた。
避けるという動作がない分、スピードに躊躇がない。
ギンッ
璃人は、片方の日本刀でその洋刀を辛うじて受け流すと今度は刀を握る手を上段から払い落とした。
「璃人、ここは俺に任せろ。」
不動は、そのように叫ぶと、長大な鉄の棒を横殴りに振り切ると骸の3体程が、
玩具のように横に吹き飛び、海に落下していった。
それを見た璃人は、骸たちは不動に任せたほうが有利と納得したのか頭上に
飛び上がると、骸どもの頭を使って、一気に骸の群れの背後へ降り立った。
目の前、5メートル程前方に漆黒のドレスに身を包み、ぬばたまの黒髪を持つ
女が立っている。
「マリアンナとやら、日本侵攻を謳ったからには捕らえて、全て喋ってもらうぞ。」
璃人は、その勢いで一気に女との間合いを詰めようとした。
しかし、日本刀の間合いに入る手前で、一陣の風がマリアンナの周りに吹いた
かと思うと、璃人の胸が裂け、血が吹き出した。
「ほう、辛うじて致命傷は免れたようだな。」
マリアンナが口元だけで、にんまりと笑みを浮かべた。
璃人の裂けた胸には3本の鉤爪の痕のような傷が浮かび上がっている。
あと数センチ止まるのが遅ければ、致命傷になったであろう傷である。
「可愛い使い魔たちが私を守ってくれているので、そう易々とは近づけないよ。」
璃人は、マリアンナの周辺を殺気を帯びた風が吹きすさぶのを感じた。




