魔法陣
濃密な闇がその部屋には留まっていた。
部屋の広さは5メートル四方、中央には赤黒い色で魔法陣が書かれている。
魔法陣の中央には無造作に数十の頭蓋骨が山のように積まれている。
時折、軽い揺れと波の音が聞こえる。
船倉付近にある一室である。
漆黒のドレスに身を包んだ女が一人、魔法陣に向かって低いが良く通る声で
理解できない言語で詠唱を続けている。
額には汗が滲んでおり、長い黒髪がほつれて顔に張り付いている。
妖艶な顔つきの女は、一見20代だが、全てを見透かしたその瞳には深淵が
広がっていた。
女は、不意に鈍い金色のゴブレットを取り上げると頭蓋骨の山にその中身を
振りかけ始めた。
赤黒いねっとりとした液体が頭蓋骨を染める。
詠唱の声が高まり、唐突に終了した。
魔法陣の描かれた床が歪み、頭蓋骨が動き始める。
文字通り頭蓋しかなかったはずの骸に取ってつけたような苔むした骨でできた
体が備わっていた。
錆び付いた鎧を着た明らかに数百年前の遺骨とわかるものから、まだ土葬して
から間もないようなもの、はたまた明らかに人骨ではない獣の遺骨が備わった
ものまでどれ一つ取っても似通ったものはなかった。
唯一共通しているものは頭蓋骨の目玉の部分に赤い鬼火が燃えていることで
ある。
女は自分の魔術の結果に満足したのかゴブレットに残った液体を飲み干すと
口を拭い、笑みを浮かべた。
「かわいい、我が下僕たちよ。日本国侵略の尖兵として存分に働くが良い。」




