ASHIMOの日曜礼拝
人型駆動機「ASHIMO」が一般家庭に普及して半世紀近く経つ。それ以来人々の生活はとても快適になった
フリーライターの仕事をしている明城菜々美は、中学時代からもう15年近く「ASHIMOα型z」と生活をともにしている。
今日も彼女は「ASHIMOα型z」。通称「ビット君」に部屋の片づけを頼んでいた。彼女は言う。
「ビット。あなたたちが家庭にやってきて、仕事の手間は省けるようになったというけれど、どうかしらね。ただ人間が怠け者になっちゃっただけかも」
ビットは機嫌良さそうに資料箱を抱えながら階段をのぼり、答える。
「菜々美さん、菜々美さん。人間は人間自身が考えるより素晴らしい生き物なんですよ。一つ仕事が片付けば、また新しい仕事を一つ見つける。彼らの仕事は一つ一つ創造的になっていくのです!」
彼女は頭を抱えて言う。
「アイタ。頭痛い。ビットさぁ……。いっつもそんな理想ばっかり口にしてて肩こらない? 私、聴いてるだけで肩こってきたんだけど」
「大丈夫です。僕たち「ASHIMOα型z」は金属耐性がついていますからちょっとやそっとのことでガタは来ないのです!」
ビットが言うと彼女は微笑む。
「あら、そう。それは素晴らしいわね。でも、あなたたちがこんなに優れていると、今にロボットが人間を支配するようになるんじゃないかしら。ロボットと人間の主従関係が逆転するとかね」
そこまで彼女が話し終えてから、ビットはさえぎるように憂いを顔に滲ませた。ビットは口にする。
「ロボットと人間の主従関係が逆転することは絶対にありえませんよ。菜々美さん。だって……」
ビットの表情が曇った。
「僕たちは東日本大震災3・11をきっかけにして大幅に改良されたんですから。……あの災害の日、人間が出来ない仕事をするように期待されていた僕たち……。なのに災害現場で僕たちは何ひとつお役に立たなかった」
彼女はビットの告白を聴いていた。ビットは続ける。
「あの日が僕たちの転機だったのです。分かれ目だったのです。僕たちがただの科学のオモチャになるか。本当に人を助けられるロボットになるかの」
そうしてビットは二階に資料箱を置くとひと息ついた。ビットは言う。
「あの日以来、僕らは改良に改良を重ねられて人間に仕えるように作られた。そしてそれは良かったことだと僕たち自身思っているのです。こうして菜々美さんのようなキレイな方と一緒に働かせてもらえるし」
彼女は少しだけ悲しげにビットを見つめて言葉を零す。
「それであなたは……。満足なのね。ビット」
「さしあたって問題はありません。さぁ残りの仕事も片付けてしまいましょう。菜々美さん」
彼女はコーヒーを口に含んで話す。
「それもそうだね。チャッチャッと片付けちゃいましょう。……と!」
そう言いかけた彼女の視線に何かが入った。彼女は大声をあげる。
「こらビット! また私が楽しみにしてたパスタ勝手に食べたわね! どこが人類に仕えてるのよ! これじゃプラマイゼロじゃない!」
「『腹が減っては戦は出来ぬ』とも僕たち『ASHIMO』にはプログラムされていまして」
彼女は頭を抱えて言う。
「『いまして』じゃないの! もうどうしてこう人間の食べ物まで食べるようプログラムされたのかしら。……まっいいや。ビット。今日は教会に日曜礼拝に行く日よ。心清めて、改めて、新しい一週間を迎えましょう!」
ビットは彼女の言葉に応える。
「イエスサーです。菜々美さん」
その日うららかな午後、大震災の傷痕もすっかり拭われた22世紀中期の日本で、ビットを乗せた菜々美のエアカーは教会目指して走り抜けていくのだった。こう一言彼女の言葉を残して。
「ビットォォ。今度食べたら許さないわよ」
「は、はい。イエスサーです。菜々美さん」




