Another prologue
………忘れないで………
燃え盛る炎を背にして、一人の青年が、自身の腕の中にいる少女にそう囁きかけている。
その言葉に合わせる様に、二人の背後では炎に包まれた屋敷が、悲鳴に似た音を立てながら崩れて行く。
青年の腕の中から、彼を見上げる少女の、大きな瞳には涙が満ちている。
その涙は、屋敷の中に居るであろう家族に向けてか。
それとも、きっともう二度と会えないであろう恋人に向けてか。
どちらにせよ、悲しい物であるのには変わらない。
それでも、彼女は涙を必死に堪えていた。
そんな彼女を安心させようとする為か、青年は優しい笑みを浮かべ、言葉を続けた。
………何度生まれ変わっても、俺は必ず君を見つけるから………
………だから、--は、俺の事を待ってて欲しい………
彼の言葉に合わせ、雨に濡れた桜の花びらが、炎に照らされながら、はらはらと舞い落ちる。
屋敷が燃え落ちる音と、雨音が彼の言葉の一部を消す。
愛しい人に名前を呼ばれた少女は、彼に向けて首を縦に動かす。
その仕草で、必死に堪えていた涙が零れ落ちる。
それでも気丈な声で、
………私 は、絶対貴方の事を忘れません………
………幾千の時が巡っても、私は貴方の事を待ちます………
………ですから、必ず私を見つけてくださいね………
そう言った。
涙で濡れた可憐な顔に、精一杯の笑みを浮かべて。
雨に濡れた桜の花と同じ表情で。
………ああ、必ず見つける………
彼はそう言い、彼女の小さな唇に、自身の唇を重ねる。
互いの体温が重なり、二度と叶わない逢瀬の瞬間 を温める。
青年は、少女の華奢な身体から腕を離し、燃え盛る屋敷の中へと走って行った………