表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強聖母伝説  作者: 翡翠
6/23

寄り添うには遠すぎる

デヴィットside

生きるためには、身を売るしかなかった。

別にそれが不幸だとも幸せだとも思わない。


親のいない無力な子供にできることといったら、それしかないからだ。このスラム街に生きる学のない子供たちにとっては、当たり前の現実だった。


でも、ひとつ幸いだと思うのは、この顔だ。

美形だと女によく言われる。

もし不細工に生まれてたら、客は選べないし、金にならないやつらに抱かれるだけだからな。


この美貌を使って可愛くお願いすれば、貴族のアホな女どもは喜んで俺を買う。

美少年を翻弄している快感が堪らないらしいな。


俺には理解できない。

こんな汚らわしい行為のどこが楽しいのか。


それが生きるための唯一の手段だからやってるだけだ。

じゃなきゃ、やってない。こんなこと。利点があるからしてるんだ。




けど、今日は最高にツイてなかった。




俺を気に入って何度も屋敷に招く、貴族の婦人がいた。はっきりいっていい年した色欲ババァだ。そいつがいたく俺を気に入って、囲おうとか言い出した。まったく冗談じゃない。


親も庇護も家も財産もないんだ。


こんな荒んだ生活で、せめて自由だけは奪われたくなかった。だから拒絶した。すると身のほど知らずと罵られ、部下を使って俺に制裁をくわえた。


そしてご丁寧にも、ボロボロの俺の体を人気のない路地裏に連れ、打ち捨てて去っていった。ガシャン!!と大きな音を立てながら倒れる。血は酷いし、今のでたくさんアザが出来ただろう。



「ああ…」


なぜ生まれたのだろう。

なぜ生きるのだろう。


こんな人生を定め、こんなどうでもいい人間を生み出した神の気が知れない――。そんなことを考えながら、俺はゆっくりと意識を手放した。












***********




「ねぇ、ねえ、わたしの声が聞こえる?」


ふと、柔らかな声が俺の意識を引き上げた。

誰かが俺の頬を、やさしく両手で包み込む。


なんて柔らかくて、あたたかいのだろう。


「…、ん…」


うっすらと、腫れあがった目を開けてみた。

すると目の前には……


「良かった。死んでないわよね?」


とてもうつくしい少女がいた。まるで春のような、あたたかい笑顔を浮かべる少女。

彼女は女性なのに、デヴィットが知る女のように汚らわしくなかった。清廉なひとだった。



「うん。あのね 、わたしは今から誰かの助けを呼んでくるから 、君は絶対にここから動いちゃダメよ?あ、そ うだ…」


こんな薄汚いストリートチルドレンなんか、放っておけばいいのに。

彼女はいそいそと、カバンから水の入った水筒を取り出して、ハンカチを濡らした。それで俺の顔を優しく撫でるように拭いてくれる。


「あ…」


今まで一人で生きてきた。

だからこんな、優しい触れ合いなんか、しらない。


無意識にうっとりと目を閉じる。夢のように幸せだった。


すると少女がクスクスと笑う。目を開けて少女を見る。

すごく、すごく無邪気に笑っていた。見ているこちらまで、やさしくなれるような、あたたかくて美しい笑みだった。


こんな状況なのに、今の俺には、彼女の全てが特別だったのだ。

彼女の全てをこの目に納めたいと思った。



「さぁ、キレイになったわよ」


ふわりと俺に笑いかける彼女は、まるで遠い記憶にしかない母よりも、母のようだと思った。俺よりも幼い顔立ちの少女の、全てを包み込むようなオーラのせいだ。



「それじゃあ、ここで待っててね?絶対よ?」


「っ、…!」


この存在を、失うわけにはいかないと思った。

今離れれば、一生会えないのではないのかと。


ふと、実の母が、俺をこの場所に捨てた日の光景が浮かんだ。


そして、あの時には感じられなかった絶望が、俺の胸を締め付けた。

だから必死に少女のスカートを握る。まるで、母親に置いていかれまいと、 必死に縋る子供のように。


そんな俺を安心させるように、少女は優しく笑いかけた。






「大丈夫、かならず迎えにくるから。かならず助けにくるから」


縋る手を優しくほどいて、少女はギュッと握りしめた。

そして泥と血で汚れたその手のひらに、羽のような、優しいキスをしてくれた。




「大丈夫よ」


彼女の神秘的な紫の瞳に、希望を見た。

でも怖い、信じたいのに。


だって、こんなにもうつしくて、あたたかい人を知らないから……














もしもこんな俺が、そばにいたいと言えば、彼女は拒絶するだろうか。






次もデヴィット→→→ ←マリア、な話。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ