暗い道のむこうがわ
やっとキャラ登場。
今日は初めての町。
それに、お忍びで来てるんだから、口調も気にしなくていいわよね?
うふふっ。護衛の騎士たちは普段着で気づかれないように少しだけ離れて護衛してくれてるの。
わたしも町娘が着るような、質素なドレスを着たから大丈……、
「あら?ここはどこかしら?」
後ろを振り返っても誰もいない。
「うーん…なんだか暗いわね」
どうやら、カルシューガ(豚肉とチーズのミルフィーユをレタスで巻いた軽食)に夢中で、人気のないところへ来てしまったようだ。食べながら歩くなんて初めてだから、つい気が緩んだのだろう。
裏路地は危険だと習った。それに、この裏路地には人ひとりいない。
「早く戻らないと…」
ガッシャーン!!
「きゃあっ」
突然の物音に、思わず持っていたカルシューガをおとしてしまった。
「誰かいるの…?」
誰にも遭遇しないうちに、ここから出なければならない。だか、マリアは何故か、あの音のもとに行かなくてはならないと思った。
裏路地をさらに奥へと進む。左右の分かれ道になっていた。
右の路地をちらっと見ると、そこには……
「そんな…っ」
ボロボロの少年が、うつ伏せで倒れていた。
急いで駆け寄り少年のそばに膝をつく。
ゆっくりと体を仰向けにすると、全身に打撲のあとがあった。
「ひどいケガ、…」
少年の顔にかかった赤い髪を、そっとすいてやる。あらわれた顔も痛々しかった。
酷く殴られたのだろう。顔は腫れ上がって、頭や口からは血が出ていた。
「ねえ、ねえ、わたしの声が聞こえる?」
晴れ上がって血だらけの顔を、やさしく両手で包み込んだ。初めて血生臭い現場に遭遇したが、マリアはあまり気にならなかった。
「…、ん…」
うっすらと、少年が目を開けた。
「良かった。死んでないわよね?うん。あのね、わたしは今から誰かの助けを呼んでくるから、君は絶対にここから動いちゃダメよ?あ、そうだ…」
マリアはいそいそと、カバンから水の入った水筒を出して、ハンカチを濡らした。それをしぼって、少年の顔を優しく撫でるように拭いてやる。
「あ…」
少年は(ケガのせいで表情はあまり分からないが)うっとりと目を閉じた。可愛らしい反応に、マリアはこんな状況にも関わらず、クスクスと笑ってしまった。屈託なく笑うマリアを、少年はじっと見つめている。
「さぁ、キレイになったわよ」
じっとこちらを見つめる少年に、ふわりと笑いかける。
「それじゃあ、ここで待っててね?絶対よ?」
「っ、…!」
少年は弱々しい力で、必死にマリアのスカートを握った。まるで母親に置いていかれまいと、必死に縋る子供のように。
そんな少年を安心させるように、マリアは優しく笑いかけた。
「大丈夫、かならず迎えにくるから。あなたを助けにくるから」
縋る少年の手をほどいて、ギュッと握りしめた。そして泥と血で汚れたその手のひらに、羽のような優しいキスをした。
「大丈夫よ」
不安、孤独、期待、歓喜、そんな目を向ける少年にもう一度笑いかけて、マリアはその場をあとにした。
やっと登場…?