ゆめみたいにしあわせだった
今回は兄と姉が登場。
今回の講義で、わたしは自分の無知を痛感しました……。
「お兄さま、お姉さま」
「どうしたんだい?そんなに暗い顔をして」
「そうよ、マリア。お食事中にそんな顔をしてはいけません」
「だって、本当に悲しいのよ…」
兄さまは、おや?と首をかしげた。
「今日は、マリアの大好きな社会の講義じゃないか」
「もしかしてスタンリィ先生に怒られたの?」
姉さまは心配そうにこちらを見る。わたしはそれに、力なく首をふった。
「ううん。違うのよ。今日ね、魔物についてお話していただいたの」
ああ、と呟いて、兄さまも暗い表情になった。
「僕も小さい頃に習ったなあ。確かに楽しい内容じゃないね」
「あれでしょう?ここ10年で、魔物が急増しているという…」
おそろしいわよね、と姉さまがわたしの頭を優しく撫でた。
「今世界では、たくさんの人々が食い殺されていると聞きました。それによって両親をなくし、路頭に迷う子供たちで街は溢れていると……」
わたしは、今まで、なにも知らなかったの。
毎日毎日、
広いお屋敷にいて
メイドに朝の支度をしてもらって
美味しい食事をして
淑女としての勉強をして
キレイなドレスを着て
ティータイムをする
「世界は優しくて美しいのだと、信じて疑わなかったの」
だから当然、世界中の子供たちも、わたしと同じだと思っていた。
子供は大人に守られるものだと。でも違ったのだ。
大人たちは魔物と戦い、散っていく。魔物と、そんな大人たちへの対応で、国は手一杯なのだ。残された子供たちへの対応にまで手が届かない。となると、見捨てられた子供たちは路頭に迷い、ひとりで生きていかねばならない。
それが、マリアの知らなかった、マリアの時代の常識だった。
「マリア、我々には貴族としての生活がある。残念だけれど、僕たちには世間の状況を変えることはできないんだ」
「そうよ。私たち貴族の娘が、民のためにできることは、少しでも国にとって有益となる結婚をすることです」
「そう、なのでしょうか…」
わたしと同じような子供たちが、今この瞬間、どこかで泣いている。
わたしにも、全ての子供たちを救うなんて、不可能だとわかっているの。
でも、わが領地の民ぐらいは救いたい。
わたしは公爵家の娘。
地位と名誉と財力がある。しかし、今の偏った知識だけでは誰も救えない。もっと民の生活に実用的な知識を学ばなければ……
「わたし、もっともっと学びます。それから、わたしが民のために何ができるか考えます」
もちろん、有益な婚姻関係が「国」のためになることは分かっています。
しかし、それによって「民」の生活が変わることはあまりありません。
「もっと直接的に、民の役に立ちたいの。世界が、とても悲しいことを知ってしまったら、もう知らないふりはできないから」
「マリア……お前は変わってるね」
お兄さまは、困った令嬢だと言って、苦笑した。
「マリアの好きなようにしなさい」
お姉さまは私を抱きしめた。
この温もりを、たくさんの子供たちに知ってほしい。
まだまだ続きます、