溢れるくらい水をあげる
読みたい!と言って下さる方がいらっしゃったので、まだ頑張ろうと思います。
「マリア様ー!お歌うたってー!」
「リジーお姉さん、レオンが私のリボン取ったぁ!」
「おいデヴィット!勝負しろ!」
「カイル先生、解けたよー!」
創設から一年。
ここは、子供たちの笑顔で溢れていた。
「さぁさぁ、みんな!ご飯にしましょう♪」
マリアの一言で、騒がしかった子供たちは一斉に食堂に集まる。
「お野菜はすべて畑で採れたものですよ。みんな、よく頑張りましたね」
マリアがほわりと笑えば、子供たちは照れながら、誇らしげに笑い返した。
「「いただきまーす!!!」」
この時代の子供たちとは思えないほど幸せそうな光景。
でも、育てるだけではダメだとマリアは考え、
成長した子供達に様々な職場も準備している。
貴族の子息とまではいかないが
しっかりと教育を施した我が子達なら
このご時世、引く手あまただろう。
そして金銭的に自立した子供達に
施設の支援をしてもらうことによって、
次の子供達をまた育てて行ければと思っている。
マリアが死んでも永続的に運営できるように。
それが、いつかの王妃様との約束でもあったから。
「ああマリア、パンくずがついてるよ」
ふと、隣に座っていたカイルがマリアの頬に触れた。
「あらやだ、ほんとに?」
恥ずかしそうに頬を赤らめたマリアに、カイルが蕩けるような笑みを返す。
「ふふっ、もうとったよ」
出会って一年。
カイルは、まだ少年であるにも関わらず
どこか色気のある美少年へと成長していた。
「騙されてはいけません、マリア様。それは、ただあなたに触れたかっただけですわ」
なんて汚らわしい男……、と。
儚く透き通った美貌を歪ませたエリザベス。
彼女もまた美しく成長していた。
しかし、相変わらずカイルとは犬猿の仲だ。
「君ってほんと、男ってものを毛嫌いしてるよね」
早く適当な男にでも嫁いで、ここから消えればいいのに、とため息をつくカイル。
「いやよ、男に嫁ぐくらいなら神と結婚するわ。それから二代目マザーになって子供達を愛している方が、何倍も幸せよ」
「ずっとここにいる気?冗談じゃ…」
「まぁまぁまぁ!リジー、それ本当なの?」
「ちょっとマリア…!」
「どうなの、リジー!」
「は、はい。そうできれば、と思っていますが…」
「ぜひ二代目になってちょうだいな!」
子供のように無邪気に笑うマリア。
「なにそれ!断固反対する!僕だってこの施設の職員としてマリアのそばにいるんだよ!こいつはいらないだろう!?」
「でも、それぞれ役割が違うでしょう?」
困ったように微笑むマリアに、カイルはグッと不満を飲み込んだ。
「カイル、その辺にしておけ」
「デヴィット……」
食事をしながら静観していたデヴィットだったが、鋭くカイルを睨む。
「マリアをあまり困らせるな」
相変わらずのマリア至上主義である。
いや、正確にはここ1年で悪化していた。
「我が女神の言葉は絶対」と子供達に吹聴し
「女神に背くもの邪魔するものは排除せよ」という戒律を教え子たちに叩き込んだ。
おかげでデヴィットを師と仰ぐ少年達は
立派な忠犬騎士になりつつあった。
「マリアさま〜私もずっとここにいたい〜」
子供達が次々に甘え始める。
「ふふっ、夢が見つかれば、きっと旅立つでしょうね…」
たおやかに微笑むマリアに
「そんなことないもんー!ずっと一緒だよー!」と駆け寄る子供達。
「貴方達が幸せになってくれれば、いいの…それだけよ…」
子供達を抱きしめながら、マリアは祈った。
幼い命が犠牲になる暗黒時代。
せめて、この手の届く範囲だけでも、救いたい。
世界が変わる、その時まで。