あの一瞬を忘れない
進まなくてごめんなさい。駄文ですが、どうぞ。
「マリア、もう終わった」
紅い瞳が少女をとらえる。
そして物足りないと訴える瞳に、マリアは目を見張った。
「カイル…あなたって子は…」
「え、なに?」
なにか悪いことをしたのかと狼狽えるカイル。
しかしマリアは、うっとりと微笑んだ。
「天才だわ!!!」
きらきらと、むしろ眩しすぎるほどの笑顔を向けられて、カイルは頬が熱くなった。
「天才って…おおげさな」
「いいえ間違いないわ!だって、基本しか教えていないのに応用問題を数秒で解いてしまったんだもの!」
「あれだけ教えてもらえれば、あとは同じだろう?別に…難しいことなんて考えなくても解けたけど…」
「ああ、デヴィット!わたし、素晴らしい子を見つけたんだわ!」
興奮したのか、デヴィットの手を握って頬を紅潮させるマリア。
「ふん、たかが計算問題だ」
崇拝する女神にべた褒めされるカイルがちょっと面白くないので、デヴィットは鼻で笑ってやった。いい気になるなよガキが。
「そういうあなたは、腕をふるしか能がなさそうだね」
笑顔で毒を吐くカイル。
「お得意の計算とやらでマリアが守れるのなら、ご立派だがな」
カイルが来てから数日。
ずっとこんな感じで火花が散っている。
「あらあら。わたしは剣も勉強も人並みだから、二人とも素晴らしいと思うわよ」
どちらも素晴らしい才能よね、と微笑むマリア。
ふたりは喧嘩など忘れ、その美しい笑みに見惚れた。
「それにデヴィットが屋敷に来た当初は、よく計算を間違えてばかりだったわよ」
「……あんなもの、解けても強くならないだろう」
「それにカイルは、あまり剣術が好きじゃないみたいだしね?」
「……面倒だし、汗臭くなるからね」
クスクスと笑うマリア。
「それでいいのよ。ふたりとも、それで」
だって、それでバランスが取れているんだもの。
「ねえカイル。あなたの頭脳は、本当に目を見張るものなのよ?」
「ありがとう」
「信じてないのね?そうだ、文字の勉強をした日のこと、覚えてる?」
「覚えてるよ。一昨日、初めての授業で文字を勉強したことだろう?」
「あなた、文字の表を一瞬で覚えたでしょう」
「それだけだよ。それを使って単語まで書ける訳じゃないし」
「単語だって、一度書いて練習すれば絶対に覚えてるわ。テストはいつも満点だもの」
「……それが普通じゃないの?」
「みんな何度も何度も書いて覚えるの。それでもすぐに忘れちゃって、間違えるのよ」
「やっぱり僕は人と違うんだね……」
「悲しい顔をしないで。その違いは、才能というものなのよ」
貴方は異常なんかじゃない。特別なの。
そういってマリアは、カイルにふわりと笑いかけた。
「特別……、」
「ええ。ここ数日で私は驚いてばかりだもの」
「それは知ってたよ。いつ目が落ちるかと心配だったからね」
「ふふっ。ねえカイル、これからもっと勉強して、出来ればその頭脳で私を…孤児院の成長を、助けて欲しいの」
「……僕は、そんなにすごい人間じゃないよ。期待されても困る」
「出来れば、でいいのよ。この孤児院は建ったばかりで、まだあなた以外に子供はいないし、ゆっくり考えて?出来ればデヴィットのように、職員としても私の側にいて欲しいわ」
あなたの才能を見込んでお願いしているのよ、と微笑んだマリア。
カイルは、恥ずかしそうにうつ向いた。
「…、ありがとう」
誰かに初めて認めてもらえた。
その喜びをどう表現すればいいのか分からなくて、カイルは、ただ震える声で答えた。
次回はデヴィット&カイルside