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最強聖母伝説  作者: 翡翠
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カイルは人間不信なので、デヴィットのようにはいきません。


「ここは…、」



目が覚めるとベットにいた。

とても豪華なベットだった。


あたりを見渡す。

白を基調とした品のある部屋だ。


「天国にしては、人間らしいな…」

「天国じゃないわよ?わたしの部屋なの」

「――っ!!」


最後に見た彼女だ。


「ふふ、おはよう。よく眠れた?」


ドアをそっと閉め、とろけるような笑みを浮かべる美しい女。


でも僕は、そんな仮面に騙されやしない。


「よく眠れたか…?僕は二度と目覚める気はなかったんだ!!」


なのに目覚めたら、この女の部屋だ。

冗談じゃない。


僕は目の前の女を睨み付けた。


「ええ、そうね」


温室育ちのお嬢様のくせに。

ちっとも怯まない。


「つまりあなたは、僕を殺してくれなかったワケ?」


「いいえ」


「僕は生きてる」


「あなたは死んだわ」


「……意味がわからない」


「あなたは死んだの。昨日、わたしが殺したのよ」


「ふざけるのも大概にしなよ。死んで感覚があるわけないだろう?」


彼女の甘い香り、のどかな鳥たちのさえずりさえも、嘘だというのか。


「死んだわ。わたしが殺したの。昨日、あなたは死んだ」



「……」



「昨日までのあなたは、ね」


「え?」


「望み通り殺したわ。今までのあなたはね。そして目覚めた」


「……」


「あなたは、生まれ変わったの」


「!」


アメジストの瞳が僕を射抜く。


「これからのあなたが欲しい」






「僕が、欲しいだって?」


今まで消えろとなじられていたのに。


「過去を捨てろなんて、簡単に言ってくれるね」


傷は、魂にまで刻まれている。

過去を捨てるときは、この命を捨てるその時。


「僕は…化け物だよ」


生まれ変わった?なにも変わらないじゃないか。


「この瞳があるかぎり、僕に生きる価値なんてないんだよ!!!」


ほんとうに、勝手なことをしてくれた。


「僕は信じない。あなたは化け物なんて扱いきれないと捨てるだろう」


「あなたが化け物だと思うなら、私が否定し続けるわ」


その赤い瞳が好きだといったでしょう?

そう言って、ふわりと笑う美しい女性。


どうして……


「……きっと、後悔するよ」


「ふふっ、なら勝負しましょう。あなたが今までの過去を捨て、生まれ変わって良かったと思えるか、わたしがあなたを殺せばよかったと思うか」


「バカなひとだ……」


しばらくは付き合ってあげるよ。


「わたしを憎んでもいい、だから一度、生きてみて」


差しのべられた手を、取った。


「あなたを必ず守るから」


「っ、」


「幸せになるのよ。あなたにはその権利があるって、証明してみせるわ」


「……」


なんてあたたかくて、愚かなひとなんだろう。


「あなたの、名前は?」


「わたしはマリア。あなたの名前は…」


「昨日まで僕は化け物と呼ばれていたけど?」


「あっ、そうよね、生まれ変わったんだもの。失礼だけど、私が名付けてもいいかしら?」


今までの母のような立ち振舞いが嘘みたいに、しおらしくなった。……可愛いなんて思ってない。



「どうぞ、お好きに」


あなたに拾われた命だ。

それに、あなたは純粋で愚かなまでに優しい。


「じゃあ、……カイル。カイルはどう?」


「カイル…うん、良いんじゃないかな」


化け物じゃない。それだけでも充分だ。


「よろしくね、カイル。ふふっ、今日からわたしの子よ」


「……なんだって?」


どうみても嫁入り前の乙女にしか見えないのに、子供?

母というより、姉のような若さだ。


「あらあら、気絶する前に言ったでしょう?わたし、孤児院をはじめたばかりのマザーだって」


「ほんとうだったんだ」


「まぁっ、信じてなかったのね?」


頬を赤らめて怒る彼女に、先ほどまでの凛々しさは微塵もない。

それから、怒っても全く迫力がないことに気づいているのだろか。


「そういえば、あなたじゃないね。僕を気絶させたのは」


「ダメですよ、カイル。母さんと呼びなさい」


「マリア、他にも職員がいるの?」


「……(呼び捨て)。あっ、デヴィットは職員ではないの。わたしの騎士よ」


「へぇ、やっぱりお嬢様だったんだ」


みずからマザーとして運営するなんて、おかしなひとだ。

一生遊んで暮らせば良いのに。


「夢だったの、子供たちを救うことが。そのためにたくさん勉強して、貴族の地位まで捨てたの」


「貴族!?」


ほわほわと笑って、そうなのよーと答えるマリア。

仕草には気品があると思っていたが、まったく傲慢さがないから驚いた。


「デヴィットは、そんなわたしに着いてきてくれたの。とても優しいひとよ。後で紹介するわね」


「ありがとう」


あまり興味ないけど。

人にも自分にも無関心な性格はなかなか変わらないだろう。


「さぁ、そろそろ横になりましょう?カイル、あなた栄養失調の上ケガもひどいのよ」


優しく胸に手を当てて、僕をベットに横たえさせた。


「あっ、ありがとう…」


こんなに優しく触れられたことがないから、戸惑ってしまった。


「これからのことは何も心配しなくていいのよ。衣食住も保証するし、教育もさせてもらうわ」


「教育?市民の、しかも孤児が?」


受けれるはずがない。教育は貴族階級の子供たちの特権だ。


「いいえ、将来の可能性を広げてあげたいの。学があれば、管理職も夢じゃないわ!才能があれば、学者にだってなれる」


子供たちの将来が今から楽しみね、と笑うマリア。


「僕は、」


化け物だから、きっと才能があっても……


「わたし、貴族なの。しかも、公爵家の次女」


「!??こっ、」


「地位は捨てたけれど、血は捨てられない。つまり、わたしには相当の権力があるわ」


イタズラっぽく笑って、こくびをかしげた。


「あなたの後ろ楯はバッチリよ!」


こういう時に権力を使うのってズルいんだけど、才能ある子が埋もれてしまうのはダメよね?と楽しそうに語るマリアに、苦笑した。







マリアのそばにいれば、僕は変われるかもしれない。









すみません、ヒロインの名前を間違えるというあり得ない失態を……アリスではなくマリアです。気づかれた方も気づかなかった方も、本当にすみませんでした(´;ω;`)

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