プラス2!
いきなりですが智也視点の話。
俺の名前は今井 智也。
この私立 伯央高校に来たのは家が近かったから。ただそれだけだ。
なんとなく学校に行って、なんとなく授業をうけて、なんとなく帰る。
そんな生活をしていたせいか、俺は常に1人だった。
実は高校に入るまでずっとサッカーをしていたのだが、俺は自覚があるほど人見知りで、無口だ。
チームプレイが重要なスポーツほど、この無口は致命的となる。
まわりから孤立し、ある時からはもうパスがろくにまわってこなくなった。
そして俺は、サッカーをやめた。
TVでみるメッシのように、個人プレーをするのにチームメイトを活かすようなとびぬけた才能もないので、俺はチームに必要のない人間も同然だった。
と、自分なりに考えている。
そんな俺は高校に入学したとたん、たくさんの女子から毎日のように告白されるようになった。
実は中学に入ってしばらくしてからも同様だったのだが、どうも俺はみてくれだけはいいらしく、満足に話したこともない奴だけでなく、顔も知らないようなやつまで様々な女子が連日俺に告白をしてきた。
この告白がまた最悪で、面と向かって、というのはいいと思うがどう考えても見た目がいい、という理由しか思いつかないような言葉なのだ。
『好きです。付き合ってください。』
もうこれで何度めだろう、という入れ替わり立ち替わりやってくる女子を目の前にして、俺は何を思ったのか初対面の女子に話しかけていた。
「俺のどこが好きなの」
「智也君がかっこいいからかなぁ」
「じゃあ、俺の見てくれ以外に好きなとこはないってわけ?」
「え・・・・」
「ほんと、勘弁してくれよ。俺だって毎日断るのにもううんざりなんだ。ほっといてくれ。」
「ひ、ひどい!」
「そうかな。俺は君らと満足に話したこともなければ、君の名前すらしらないよ?そんな人にいきなり告白されるってのは普通ないんじゃないかな。俺はよっぽどそっちのほうが理解できないよ。」
この一言が女子の間でそのままなのか誇張されてなのかはしらないが一気に広まって、ようやく俺は告白されることもなくなった。
同時に俺は「イマイチ君」などとよばれるようになり、2年になってクラス替えをしたばかりの2-Bクラスでは当然周囲から浮いている。
そんな浮いている俺に話かけてくるのは、このクラスの学級委員長、前田健人くらいだろう。
「こら今井!!はやく家庭調査票をださんか!残ってるのはお前だけだぞ!」
この委員長はギャグ漫画からそのまま出てきたやつなんじゃないかと思うくらい濃いキャラをしている。
別にいやなやつではなく、むしろ浮いている奴にまで分け隔てなく接してくるこの姿勢は、ここにいるだれよりも信頼できるやつなんじゃないかと思う。
「・・・ほらよ」
「うむ。結構だ! それはそうと今井。」
「うん?」
「お前噂に聞いてるよりずっとまじめなやつじゃないか」
「さぁな。噂がどんなもんかしらねぇけど、そんなこと気にしてないし」
「見たところ口は固そうだな。」
「あ?」
まぁ口が軽いわけがない。なぜなら俺は無口のイマイチ君なのだから。
そもそもなにか秘密等を聞いたところで、ばらすような人間がこの学校にはいない。
いや、どこにもか。
「それがな今井、いや智也とよばせてもらおう!実は折り入って相談があるのだ!」
いきなり名前で呼ばれたのに、不思議と悪い気がしないのはこいつの堂々とした態度のせいなのだろうか。
ま、どうせやることもないし、暇つぶしにはなるだろう。
「なんだ?」
「うむ、では放課後、図書室にきてくれ!」
HRが終わって、俺はノロノロと図書室へ向かう。
図書室とか、1年の時のオリエンテーション以来足を運んだことがない、と健人に伝えると、
「ばかもん!!学校にいて図書室を利用しないなんて人生損しているぞ!!」
と、一蹴された。
人生損しているかどうかは別として、生徒のために用意された施設だ。
少しは利用してやるとしよう。
そう思って、木製のスライドドアをガラガラとあける。
「・・・・。(人っ子一人いねぇじゃん)」
なにが人生損しているだ。誰も利用してねぇじゃん。
もし健人が言っていることが本当なら、どれだけの人間が人生損してるんだよ。
やれやれ、と思いながら図書室に足を踏み入れる。
古い辞典コーナーが入り口の目の前というのがもう最悪だ。
俺の勝手なイメージだけれど、普通図書館の入り口付近には、新刊コーナーってやつがあるんじゃないのか?
それがなぜ開幕辞書なんだ。
この図書館の造りは相当古いらしく、歩くだけで床がミシミシと音をたてる。
どんだけオンボロなんだよここ。。。
すると扉の開く音がして、健人が入ってきた。
ギシギシギシギシ。
いやもう床抜けるだろこれ。
「はっはっはっ! ようこそ我がベストプレイスへ!!」
こいつはこいつでなにいってるのかさっぱりわからん。
「・・・ベスト・・・なんだって?」
「ベストプレイスだ!!なんたってここは人っ子一人いないからな!」
「・・あ、そう。」
なんだろう。俺が言えた義理ではないが、こいつも相当さびしいやつなんじゃないのか。
あ、なんか急に親近感が。
「さて、そろそろ本題に移ろうか!!」
まださほど話してもいないがな。と頭で突っ込みを入れつつ頷いた。
「何を隠そう、前田健人はとある女子を好きになってしまったのだ!!」
「・・・はぁ。いまいち力になれそうにねぇな・・。」
よりにもよって恋愛がらみとは。。。
先ほどまでこいつに感じていた親近感はどこかに吹き飛ぶ。
入学式以降のことを思い返せば、俺の憂鬱は当然だった。
「そんなことはない!話を聞くだけでいいのだ!!」
「は? どういうこと?」
「つまりだな、俺はお前に話を聞いてもらいたいだけであって、なにかをしてほしいとかじゃあない。いやもちろん、アドバイスがあるのならありがたく受け取るがな!」
「・・・はぁ。」
「まぁ聞け! 始まりはだな・・・」
こいつの話が異常に長いことを俺はここで初めて知ったのだった。
「と、いうわけなんだが」
「おーけー、もうしゃべるな」
こいつは軽く1時間近くもノンストップでしゃべり続けやがった。
おかげで状況はかなり理解できた。
噛み砕いて簡単に説明するとたぶんこんな感じだ。
まず、健人が好きになった相手の名前は一ノ瀬愛美。
現在のクラスは2-Dで健人曰く、見た目をわざと地味にしているが実はすごくかわいい、ということらしい。
きっかけは、休日に健人が本屋で参考書を熟読(そんなことするなら買えよ)していると、一ノ瀬が話しかけてきたとかなんとか。
たしか、『すみません、×××××って本はどこですか?』だったか?
あろうことか店員と間違えられたのだが、健人はそのまま丁寧に場所を教えてやったそうなのだ。
「ふっ、あそこは俺の庭みたいなものだからな!!」
ドヤ顔の健人は置いといて、あまりにも丁寧に教えてくれたせいなのか、目的の本を見つけた一ノ瀬はこういったそうだ。
『あ、ありました! ありがとうございます。 さすが店員さんですね!』
「店員なみの知識を持っていると一目で気がつくとは・・・さすが一ノ瀬!俺が好きになったことだけはある!」
いや健人、一ノ瀬をほめているようで、途中から自分褒めに移行してるからな。
加えてお前、たぶんいまだに本屋の店員さんと思われてるんじゃないか?
あれ、っていうか。
「お前どうやって名前知ったの?」
「お前はばかか智也、目の前にいるんだから本人に聞いたに決まってるだろう!」
バカはお前だ。。。
「そしたら一ノ瀬は普通に教えてくれたぞ?制服着てたからうちの高校の生徒だってことはすぐにわかったからな」
「なるほど・・・」
女子は不思議なことに休日でも制服着て外出することもあるらしいからなぁ。
まぁ、普通に部活だった、という線もあるだろうが。
とにかくその一ノ瀬ってやつ、絶対不審に思っただろうな・・・。
「うん?そうなのか? あの急いで帰った感じはてっきりトイレにでもいきたいのかと思ったのだが」
お前・・・まじ気味悪がられてるってそれ・・・。
そんなこんなで、一ノ瀬愛美という女子の存在を、健人から教えてもらうことで俺は初めて知ったわけだ。
彼女がどんな人なのか知らないので、健人と並んで歩いているさまが、当然全く想像できないのだが。
健人はついで、
「それで、どう思う?」
と聞いてきた。
「どう思うとは?」
「今の話を聞いて、俺と一ノ瀬さんがうまくいくと思うか?」
正直いって思わない。明らかに店員さんに間違えられたうえ、不審に思われたに違いない。っていうかもうあの本屋にいかねぇんじゃねぇの??
「うーん、まぁなんていうか、俺一ノ瀬さんみたことすらねぇしさ。今の状態じゃ情報もすくないし、何とも言えないよ。」
それもそうか、と健人は頷いた。
「じゃあ、明日とある場所にお前をつれてってやる。」
「は?」
「ま、だまってついてこいって。彼女が友人たちとよく行くお店があるのだ!」
「ちょ、おまっ...!」
こいつ、ストーカーでもしたのか?!そんな情報どこから・・・。
「馬鹿もん!この俺がそんな不埒な真似をするか! 順当に、彼女の取り巻きの友人から聞いたのだ!」
「へぇ・・・。」
一ノ瀬さんの友達に話しかけられるんだったら、もう本人に直接話しかければいいではないか。
といっても、俺にはできそうもないので、言わないでおく。
「ではまた明日な!」
「おう・・・。」
暇つぶしのつもりだったが、なんだか首を突っ込まないほうがよかった気がして、憂鬱な気分を隠せないまま、帰宅した俺だった。
to be continued.
時系列的には、1話目の「プラス1!」で、無口な智也君が愛美に手紙を出す前段階の話になります。次回の「プラス3!」では、この「プラス2!」の続きとなります。