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プラスワン!  作者: とん★ちん
プラスツー!
12/13

プラス12!

楓さんによって愛美が無理に普通であろうとした理由が明かされます。

図書室は異様な静けさに包まれていた。



まるでこの空間だけ世界から切り離されてしまったみたいに。



さっきまで、今井君とようやくいい雰囲気になれていたのに。



もしかしたら、お互いあのまま付き合ってください、と告白できたかも知れないのに。



私は突然の乱入者を見つめる。



彼女はまだ憐れむような視線を投げ続けていた。



やめて。



そんな目で、みないで、下さい。



楓さん…。



「工藤先輩は一ノ瀬の知り合いだったんですか。」



私達が続ける無言の空気をやぶったのは今井君だった。



彼は私の動揺を察知したのか、私を庇うような口調で楓さんに話しかける。



「あまりいい関係だったとは思えないんですけど、一ノ瀬になにか用なんですか?」



楓さんは、ふぅ、とため息をした後、ゆっくりとしゃべり出した。



「…そうね。用、というか、私は彼女に謝罪したいのよ。」



「…どういうことですか。」



今井君の声が驚くほど低くなる。



それに臆した様子もなく、楓さんはしゃべり続ける。



「正確には、私の弟が彼女に与えた影響に対して、私の方から謝りたい、ということかな。」



彼女の声が静かな図書室に響き渡る。



楓さんは何を言っているんだろう。



なぜ私が謝られるのだ。それも楓さんから。



「…意味が、よくわかりません。」



私の言葉を受けても、楓さんは目を逸らすこともなくこちらをじっと見つめてくる。



今井君はさっきから何か口を挟みたそうにしていたが、楓さんが手で制していた。



「…本当にわからないの?…私の弟、司のこと、もう覚えてないのかしら。」



覚えてない方がおかしい。



彼は私が中学時代に好きになった、3分間だけ付き合った相手だもの。



もっとも、たった3分間を付き合った、と表現するのはおかしいのかもしれないけれど。



それでも私にとって、到底忘れられない人であるのは確かだ。



「もちろん、覚えています。一度好きになった相手ですから。」



私は当然とばかりに言い切った。



今井君が少し暗い表情になった気がしたけれど、嘘をつくことは出来ない。



「今のあなたならわかるんじゃなくて?私は、司があなたを一度変えてしまった事について、謝っているの。」



私を一度、変えた?



確かに彼に好きになってもらおうと努力したこともあったし、彼から受けた影響というのは小さいものではないと思うけれど。



それはそんな大事おおごとだっただろうか。



彼と付き合い、そして振られた私という事実がそこにはあるだけで。



彼の姉である楓さんに謝られるほどのことじゃないと思う。



「やっぱり理由がわかりません。振られたことを謝っているのならそれはちょっと違うと思います。」



だってそうでしょう?



この世の中、上手くいく組み合わせと全くかみ合わない組み合わせが存在することは当然のことで、私はたまたま後者だったのだから。



もちろん、私自身の問題がそこには少なからずあるのだけど、そんなことまで謝られていたらキリがない。



しかし、楓さんは相変わらず憐れむような表情のまま話し続けた。



「やっぱりね。あなたは自分がどうして司に振られたか覚えてない。いいえ、覚えてないってことはないわね。あなたは文字通り自分自身を作り替えて変わることで、忘れようとした。事実あなたは忘れているようだしね。今まではそれでよかったかもしれないけれど、あなたはまた変わったわね。自覚しているのかしら。あなたは生徒全員にその存在を再認識されているわ。有り体に言えばすごく可愛いってところね。あなたが思っている以上に、それこそ異常にあなたは可愛いのよ。見た目は勿論だけれど、容姿に合わせたようなその空気、オーラとでも言えばいいかしら。それをあなたは一度自覚したはずなの。私の弟、司の言葉でね。」



楓さんは畳み掛けるように言葉を紡ぐ。



私も今井君も、今は楓さんの言葉を待つばかりとなっている。



「司はあなたにこう言ったはずよ。」



あの時の記憶が…。



私の記憶が開けられていく。



――――。








「す、好きですっ私と…その、付き合って下さいっ」



私自身、電話で告白した理由が未だに不明なのだけれど。



確かに私はこう言った。



「ま、まじで!?俺…えと…」



そう、彼が困っている気がしたんだっけ。



「あ、だ、だめならいいのっ、だめならほんとに…」



彼は慌てた様子で返してきた。



「あ、違うよ!うれしくて…驚いただけ…」



「じゃ、じゃあいいの…?」



「…う、うん…。」



「…!あ、ありがとうっ」



この時私は飛び上がりそうになるのを必死にこらえていた気がする。



この時この瞬間、冗談でも大袈裟でもなく、工藤司という男子は私の心の中で大きな存在になったのだ。



他愛のない話をして、お互いの呼び方とかを恥ずかしがりながら決めたりもした。



そんなやり取りをしていると、彼が急に黙ってしまった。



「…?つ、司君?」



「…ごめん。」



「…え?」



「やっぱり無理だ。愛美とは付き合えないよ。」



頭が…真っ白になった気がした。



いや事実、私の思考は停止したに違いない。



それは受け入れたくない、聞きたくない言葉だったからだ。



「ど、どうして…?」



決して認めたくない言葉。



ついさっきまで舞い上がっていたのが嘘のようだった。



司君の言葉の思惑がわからないし、理解できなかったのだ。



「だって、



――――。








「・・・なぜなら、アナタが可愛い過ぎるから。」



楓さんはきっぱりと言い放った。



今井君が息を呑むのがわかった。



沈黙を貫いていた私達だけど、今井君が私の代わりに質問する。



「可愛い過ぎる…?それがいけないことだって言うんですか?」



「そうね。例えば今井君、あなたがなんと言おうと私は、アナタ自身は彼女の容姿に釣り合うだけの『モノ』を持っていると思うわ。それが容姿であれ人柄であれ、ね。うん、正直に言えば今井君は前者ね。」



「…それは正直過ぎますよね。」



今井君は表情を堅くする。



楓さんは気にした素振りもなく続ける。



「でも、司は今井君と違ったの。あくまで司自身が出した結論だけど、自分は愛美さんと釣り合うだけの『モノ』を持っていなかったと判断したのね。」



「でも弟さんの言い方だとまるで一ノ瀬が可愛いのが悪いと言ってるようなものじゃ…!」



そこで今井君は、はっとして私を見る。



「そう、愛美さんは今井君が今言ったように考えたんじゃないかしら。司に振られた原因は『可愛い過ぎる』点にあるんだ、てね。でもおそらくあの時の司は、愛美さんと付き合うことで自分が置かれる環境を考えたのね。彼女に釣り合うだけのモノがない自分は、一体周りになんて言われるのか。自分に自信が持てなくて、臆病になってしまったのでしょうね。」



「つまり、私が一度変わったというのは…」



司に言われて自ら普通であろうとしたアナタになった時ね、と楓さんはため息混じりに言った。



「だから、私が謝りたいのは、司の言い方が悪くて、アナタを悪い方に変えてしまったこと。まぁ、今のアナタは今井君と出会って変わったようだけれどね。私が言うのもなんだけど、アナタはもっと自信を持っていいと思うわ。司が『まだ』本気でアナタを好きなのだからね。」



楓さんは遠い目をしていた。



いや。ちょっとまった。



「…いま、なんて…」



楓さんはムスッとしてはき捨てるように繰り返す。



「だから、司はまだアナタの事が好きなのよ。こんど会う時はアナタに釣り合う男になってから、告白するって言ってたわ。」



司君が。



私を振った司君が。



私が好きだった司君が。



私のことを、いまでも好きでいるって?



「アナタはどうなのかしら。司が今アナタに告白してきたら、どうするつもり?」



楓さんは私から目を逸らすことなく聞いてきた。



今井君はさっきから黙ってしまっている。



今井君の方を見たのだけれど、少しも目を合わせてくれなかった。



私は―――――。



「司君に直接言われた訳でもありませんし、それを楓さんにお答えすることはできません。」



これでいいはず。



司君はたしか私とは全く違う場所の高校に行ってしまった。



もう会うことはほぼ皆無と言っていいだろうし。



いつまでも過去の恋愛を引きずるのは・・・もうやめたんだ。



「嘘をつき続ければそれは真実にもなる、ってところかしらね。まぁいいわ。」



嘘だって?



私が嘘をついているということだろうか。



「どういうことですか?」



いいの気にしないで、と楓さんは図書室から出て行った。



残された私たちの間に、微妙な空気と沈黙が訪れる。



「・・・帰ろうか。」



今井君の後ろを少し離れて歩く。



なんでこうなってしまったのだろう。



本当なら、もっと別な気分でこの廊下を歩いていたはずなのに。



そう思っていると今井君が急に立ち止まっていた。



それに気がつかなかった私は彼の背中にぶつかってしまう。



「あっ、ごめんなさい!」



一気に彼との距離が近くなったことで私は焦って離れようとした。



「一ノ瀬!」



「ぇ・・・」



男の人特有の空気。



厚い胸板。がっちりとした腕。



彼に抱き締められているのだと気がつくのに私は数秒を要した。



「・・・ごめん、順序がおかしいのはわかってる。でも、できればこのままで聞いてほしい。」



私は彼の胸のところに顔があるので声が出せなかったため,なんとかして頷いてみた。



「俺がはっきりさせないままだったから、今まで友達みたいな関係だったけど・・・俺は、正直このままでもいいのかななんて思ってたんだ。でも、今日工藤先輩の話を聞いて、すごく悔しいって思った。その・・・なんで俺じゃないんだって。一ノ瀬と出会っているのがもっとはやければよかったって思ったんだ。これは俺の我がままだけど・・一ノ瀬の一番近くにいるのは俺であってほしいんだ。出会って間もないし、長い間好きだったわけでもないし、ほんとこんなに好きになるなんて思ってもみなかったよ。一ノ瀬は・・・俺にとってもう変わりなんていないたった一人の人なんだよ。」



彼の抱きしめる力が強くなるのを感じた。



しかしすぐその力は弱くなって、ばっと私から彼が離れる。



腕は相変わらず掴まれたままだ。



「だから・・・俺と、付き合ってください。絶対大切にするから・・・い、一ノ瀬?!」



頬を何かが流れた気がした。



「・・・あ、あれ?なんで・・・。」



なんで泣いてるんだろう、私。



今井君に告白されて、なんで私泣いてるの?



「あ、えと、ごめん!もしかして痛かった!?」



あわてて彼が私の腕を離す。



掴まれていた感覚は、ずいぶんと名残惜しい気がした。



答えは、決まっているはずだ。



今井君は私のことが好きで。



私も今井君のことが好きだと思う。



「あの・・・私っ」



「愛美!」



突然名前を呼ばれた私は、えっ、といって声の主の方を振り返る。



「おいアンタ、愛美から離れろよ!・・・なに泣かせてるんだ!」



懐かしい声。



見慣れない制服を着ている彼のことを、私はよく知っているつもりだ。



「な、お前こそ誰だよ!見たところウチの生徒じゃなさそうだし。」



顔こそあの頃とほとんど変わらないものの、表情からはあの頃と比べ物にならないものを感じる。



彼の名は――――。



「俺か?工藤司、2年だ。明日からここに転校するからよく覚えておけよな。」



to be continued.

司登場。

展開が急すぎますが・・・がんばってついてきてね。

今井君の存在が薄い気が・・・。

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