プラス11!
愛美が手紙を受け取ってからひと月。
誰が見ても明らかに相思相愛なのに、今井君との関係は未だはっきりしないまま。
そんな彼らに転機が訪れます。
私が今井君から手紙を渡されて、一カ月が過ぎようとしている。
気がつけばもう梅雨の時期が始まり、連日のように雨が降り続ける中、高校2年生の私たちは、中間テストの時期を迎えていた。
「あー、もー!はやく終わってくれないかなぁーテストぉ~」
HRが終わり、千夏がうなだれるように私にもたれかかってくる。
「そうだねぇ~、ま、仕方ないし、がんばろぉよ~」
私はそんな千夏を背中で支えながらカバンの中に教科書を詰め込んでいく。
「メグはいいよね~、この間の実力テストだって、学年順位12番でしょ~?」
あーんもう、神様は理不尽だ~っ、と千夏はさらに体重をのせてきた。
「そんなこといわれても・・・毎日復習だけでもしてればこれくらいは出来るよぉ」
「だからぁ~、その復習を出来るメグがうらやましいのぉ~」
だめだこりゃ。
千夏は本当、勉強だけが出来ないんだよね。
「今日も帰りに図書室寄っていくけど、千夏も一緒に来る?」
「あ~パスパス。あの空気の中にいたんじゃ私の身が持ちませんよ・・・。」
そっか、と私は頷いた。
心の中で、ほんのちょっぴりだけど喜んでいる自分がいる気がして、千夏に申し訳なく思う。
「あ~、メグったら喜んでるでしょ~?」
どきぃっ!!
ち、千夏ってば・・・油断も隙もあったものじゃないっ
「そ、そんなことないよっ!」
「はいはい、うれしいのもよくわかるけどね。あんたたち、どうせ一緒に勉強するのならもう少し楽しそうにしなさいよね~。」
余計なお世話だよっ、とだけ言って私はさっさと教室を後にする。
楽しいもん!今井君の成績は私なんかよりもっと上がっているんだからっ。
私は英語と国語が得意で、今井君は数学と物理を得意としている。
まさにベストカッ・・・いやいや、ナイスタッグじゃない!?
わからないところを聞ける相手がいるという事は、最高の勉強環境になるし!
それが誰もいない図書室なら、なおさらはかどるよね!
・・・うん。ほんとあそこって誰もいないよねー。
私と今井君は、そこで毎日放課後に勉強を教えあっている。
お互いが、それぞれの得意科目を勉強するときは先生役に徹するのだ。
千夏には、普通あんな人気のないとこで若い男女が2人っきりなら何かが起こってもおかしくないのにねぇ、とか言われたこともあったけど、そんな雰囲気になったことは一度もない。
・・・うん。ほんと一度もないよねー。
今井君はぶっきらぼうなところもあるけどほんとは優しいし、私が苦手な数学や物理も丁寧に教えてくれるし、放課後も一緒に帰るし、すごくいい友達だ。
・・・うん。ほんといい友達、だよね・・・。
私はもう恒例となった図書室のいつもの席に座ると、頭を抱えて唸る。
ひと月ほど前、私は今井君に手を引かれて図書室にいき、そこでお互いのことをしばらく話し合った。
彼や私の住んでいる場所のこと。
お互いの家が結構近かったので、うれしかったのを覚えている。
他には、彼がサッカーをやめた理由について。
もちろん、私の苦い思い出の話もした。
そんな他愛のない話のあと、彼からの提案で放課後、一緒に勉強するようになった。
最初は、もっと話をする時間を増やそうとのことだったのだが、今では真面目に勉強を教えあう時間になっている。
そんなこんなで私たちの成績が跳ね上がったわけだが、対して私と今井君の関係は進みも戻りもせず、まぁちょっとだけ進んだかな、くらいの所で停滞している。
彼が私に好意を寄せていることは、直接もらったあの手紙からすでに伝わっているし。
私も・・・今ではたぶん、彼のことが好きなのだけれど。
でもあの手紙には私に好意を伝えるのと同時に、こうも書いてあったのだ。
『いきなり、付き合ってくれとはいいません。』
そんな訳で、今に至る。
・・・って、どんな訳だっ!?
こ、この状況って私から、付き合いましょう、って言うパターンなのっ!?
「あ、それはちょっとおかしくない?」
「・・・だよねぇ。」
いつも通り今井君との勉強が始まって、一時間。
数学の日なので、今井君が先生役だ。
今日の私は簡単なミスを連発し、どうも勉強に身が入らない。
っていうか、さっき考えたことが頭から離れないっ!
今井君はいつものように真面目に勉強をしているのに、今日の私は一体なにをやってるんだろうか・・・。
すると今井君が心配したように話しかけてくる。
「一ノ瀬、今日何かあった?」
「う、ううん、とりたてては何も。」
うわっ、今井君も千夏並みの洞察力を持ってるの!?
もしかして顔に出てたかな・・・。
「そう?俺には何か考え事してるように見えたんだけど。」
「あ、えっと、ね。さっきから、なんか変だなぁって考えてたの。」
隠せないと思った私は、仕方なく思っていたことを告白する。
「へ、変かな?」
今井君は少しびくっとする。
あわてて私は言いかえる。
「あ、その、別に今井君が変というわけではなくて、変なのは私の方なの。」
「え、全然変なんかじゃないよ!今日もすごく・・・その。」
彼が突然顔を真っ赤にするので、私もつられて真っ赤になってしまう。
そういう意味じゃなかったのだけれど・・・。
「そ、その、すごく可愛いと思うし・・・。」
「い、今井君・・・」
あ、あれ。
なんだこの空気。
今まで一度たりともならなかった空気に、この図書室が包まれているような気がした。
「一ノ瀬・・・。」
彼が私を見つめてくる。
自然と、彼との距離が近くなった気がした。
彼の手が、私の手にそっと触れてくる。
――――――。
「ハイハイそこまで!」
「うわぁああっ!」「きゃあっ!」
図書室への突然の乱入者に私たちは思わず叫び声を上げてしまった。
な、なんなのいきなり!
「あなたが一ノ瀬さんね。」
上級生だろうか。長身のすらっとした女性がそこには立っていた。
女の私でも思うほどに、すごく綺麗な人だ。
「く、工藤先輩!?」
今井君の予想外の反応に私は言葉が詰まる。
今井君、この美人と知り合いなの!?
ズキ。
あ、あれ。
ズキズキ。
なんだろう、この胸を締め付けるような痛みは・・。
まさかこれが、いわゆる嫉妬ってやつかな。
いや・・・違う。
この胸の痛みは。
私は・・・この人を知っている?
工藤、先輩。
たしか名前は・・・。
「工藤・・・楓、先輩?」
今井君がこちらを振り返り、えっ!?、と驚きの声をあげた。
「ずっと引っかかっていたのよ。一ノ瀬・・・どこかで聞いたことがあるかもって。」
納得した様子の彼女は、私に憐れむような表情を向けてきた。
だめ・・・この人は・・・。
「やっぱりあなただったのね、愛美さん。」
ついさっきまで、今井君のことで頭がいっぱいだったのに。
今の私は、中学時代の、あの苦い経験を思い出していた。
to be continued.
まぁ、始めからラブラブなのもつまんないので、とりあえずまだ付き合わせてません。
中学時代の例の男を踏み台にしようかなと思ってm(ry