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ランチのひととき

女子社員は、ご飯を食い尽くされる?!

作者: 幻邏
掲載日:2026/07/10


 今日の俺、夏になって職場のエアコンで体が芯から冷えるように……。年齢をひしひし感じる。

 社員ダイニングで、カミさん特製のお弁当にて、癒しの時間を堪能する。ここはエアコンが効きすぎて無いので、ほんとうに嬉しい。

 そしていなり寿司がうまい。

 エアコン見越してなのか、今日はおでんっぽい煮物系が多い。あったまりそう。


「伊藤さ〜〜ん! きたよー! 聞いてよ〜〜!」


 あれ、いつもの声じゃないぞ?

 お昼に聞こえる声は、営業部の宮原が定番……あ、そうか、宮原午後から出張だった。

 伊藤はいつもの、パーテーションを隔てた俺の後ろにて、ランチタイムをしているようだ。


「どうしたのよ、オグちゃんが愚痴らせてなんて珍しいわね」


 オグちゃん……ってことは、小椋(おぐら)か。珍しいな。

 がんもどきが沁みる……。じゅわっと出てくるダシがホッとする。


「うちの旦那、『食い尽くし系』かもしれない……」

「げっ、マジで?!」


 うん? なんだ、その食いしん坊の亜種みたいなやつ……。伊藤には通じているな……。ってことは、解説がなさそうだ。

 ちょっと気になる。教えて、ゴーグル先生。


 食い尽くし系、検索っと。


 えっ、ウォッチぺディアに言葉が載ってるようなヤツなの?! どれどれ……。


 ………………。

 ……………………。

 …………………………ねぇわ。


 いや、ありえないだろ! 子供の分のご飯も横取りとか、ないないないない!!!

 買い置きの物や作り置きまで食べちゃうとか、ありえねぇだろ。他の家族の食事がなくなっても平気って……そんな事が……いや、実際あるから、小椋は愚痴ってるんだよな……。


「でも食い尽くし系にしては、なんかおかしいの。スーパーとかでお弁当買う時は1人前きっちり食べるし、お腹いっぱいとか言うのに。大皿とかフライパンを食卓にのっけると、こっちの分考えずに自分の取り皿へ、だばだばーってのっけて、ガツガツ食べるのよ……」


 あれ? ウォッチぺディアに書いてあるやつと、パターンがちょっと違うぞ……。

 取り分けられていないと、加減ができないタイプか??


「今までわからなかったの??」

「先に各々の分をお皿に取り分けていたから……。でも、洗い物増えるし、旦那ほぼ家事やんないし……取り分けるの面倒だし……」


 あ、問題旦那が此処にも……いや、すでに起きている。


「え、共働きで家事やんないの?」


 伊藤の旦那、ちょっと前までそうでしたね。ウチの旦那もだけど、って言わないから、今のところ旦那も家事をやっているようだ。


「生活費で手を打った。9:1」

「おぉ、やるわね!」


 お互い納得してるならいいが。ってか、納得できてない事態がいま起きてるんだよな……。


「んで、めんどくさいから、小分けをやめたらこんな事に……。食卓に小分けされずにドーンと載っていると、ひたすら食べる。ちなみにカレーは、よそってもらった自分の分だけ食べるし、自分でおかわりはよそわない」

「イミフ……カレーは鍋の中なら無事なのね……」

「うん、だからますますわかんなくて……」


 ほんとに、意味がわかんないな……。ウォッチぺディアの食い尽くしよりは控えめ食い尽くし。うん、意味わからん。


「この間、旦那側の法事に行ってきて、その時になんか、ひたすら自分の目の前にあるお皿の料理を食べているから、もしかして……って思って大皿にしてみたら……」

「オグちゃんの分は考えずに、食べちゃったわけね……」

「そうなのよ。なんでアタシの分まで食べるの? って訊いたら、アタシの分があることを理解していなかったのよ……」

「えー?! 一緒にご飯毎日食べてるのに?」


 いやいや、それはないだろ。

 お皿に載ったら全て俺のものって、ジャジャイアン思考する奴が……いるんだよな……。

 ウォッチぺディアに、言葉が出るようなカテゴリって事だもんな……。


「家事やらせていないから、わかんないんじゃない?」


 お、伊藤。経験者は語る。

 伊藤の旦那は、家事を伊藤に押し付けていたけど、最近はいろいろ不慣れながら頑張っているもんな……多分。


「でも、やらせたら、食器は油でギトギト、掃除は床を掃除機で撫でるだけ。お風呂は浴槽だけしか掃除しない。ゴミ捨ては家にある一番大きいゴミ箱のだけ。他の部屋にある小さなゴミ箱使っているくせに」


 小椋の旦那……どこかで訊いたことある、とある人たちの旦那の行動そのまんまだな……。


「とりあえず、週の半分くらいご飯の用意させたら? 惣菜でもレトルトでもインスタントでもいいから」


 伊藤のアドバイス。手作りで用意させるわけじゃなく、出来合いや簡単に用意できるものを提案したぞ。


「あー、そっか。惣菜買ってくるとかすれば、ご飯炊くだけでいいもんね。味噌汁はインスタントにすればいいし」

「そそ。そんな感じで、オグちゃんのご飯を用意させることを覚えたら、食い尽くすこと、なくなるんじゃないかしら?」

「いいね、やってみる!」


 食い尽くされるって、ストレスすごそうだよな。

 気遣いゼロってことだろうし……。

 小椋と小椋の旦那はまだ若いから、気にならないかもしれないけど、そんな暴食していたら、糖尿病まっしぐらだからな……。この歳になると、美味しい食べ物が時々怖くなるんだ……。

 無事解決するといいな。



――2週間後。


 今日の俺、昼休みのランチタイムを満喫すべく、ランチバッグからお弁当を取り出す。

 夏な分ちょっとだけ濃いめなお弁当。いつも通り社員ダイニングのレンジでチンする。

 最近のレンジはチンって言わないとか聞くけど、弊社の電子レンジはもれなくチンと鳴る。なのでレンチンが若い世代に通じやすい。


 本日の癒しはケバブ丼風の弁当。

 お肉とご飯のタッパーをチンする。野菜はノーレンジ。野菜を敷いて、お肉をかけてから、ケチャップとマヨネーズのオーロラソース。

 スパイスが効いたケバブな肉を、まろやかにしてくれるんだよな。

 これを、写メ用にパシャリ。よしっ、OKだ。


「伊藤さーん、宮原さーん!!」


 この声は小椋……? あ、前に旦那がご飯を食べ尽くすって、言ってたの思い出した。


「オグちゃんだ。おつかれー」


 宮原の気さくな挨拶。


「お疲れ様、どうしたの?」

「こ、こないだのやつ、進展あったの!」

「お? なになに?」


 小椋の旦那の事情を知らない宮原は、きっと小椋と伊藤を交互に見ているんだろうな。

 ガタガタっと椅子が動く音がする。小椋も一緒にランチタイムのようだ。


 そういやあのあと、食い尽くし系のネット記事見てみたけど、スパッと離婚してたんだよな、俺が見たやつ。漫画仕立てになってたから、事実なのか作り話なのかわかんないけど。



 伊藤と小椋は2週間前のやり取りを、宮原にかいつまんで伝えたようだ。


「マジで?! 目の前にいるのに、そんな事起きるの? 人としてどーなの!?」


 宮原容赦なし。


「しかも、オグちゃんの旦那さんて鈴木でしょ?」


 あ、それだよ伊藤。小椋の旦那の名前……!

 絡み無いからパッと出てこなかった。ごめん2週間前も出てきてない。社内にいたなーっていうぼんやり程度。

 小椋は旧姓のまま仕事してるんだよな、あまり意識してなかったけど。

 社内に鈴木がそれなりにいるから、正式な書類は鈴木表記だけど、みんなに呼んでもらう名前や、メアドも名刺も小椋だもんな。


「……えーと、どの鈴木だっけ」


 そうなんだよ、宮原! 鈴木多いんだよ、弊社!

 佐藤より多いんだよ。

 実は俺も、小椋の旦那の鈴木が、どの鈴木なのかわからない。


「えーと、ヒョロい鈴木」

「3人は浮かぶ……」


 小椋、旦那の説明それでいいのか……。

 そして宮原、俺も同意だ。3人浮かんだ。


「経理部のヒョロくて、丸いメガネかけてて、いつもニコニコしてる鈴木が、オグちゃんの旦那さんよ」


 お、さすが伊藤!

 いろんな部の仕事してるから、きっと社内でダントツにみんなの顔と名前を覚えてるよな……。


「あ、そんで鈴木どうなったの?」

「なんとか治ったのよ」

「「なんとか……?」」


 なんとか、って何だ……。


「まず、食い尽くし系かもな事を、コンコンと説明したの。そしたら意識してなかったらしくて、青ざめていたの」


 青ざめるよな、それ。言葉聞いて調べた後、きっと俺すごい顔してたと思うもん。


「フツーにヤバいじゃん。オグちゃんの分見てないなんてー」


 な。俺もそう思うよ、宮原。

 俺が家でそんな事したら、カミさん・娘から一生口きいてもらえないと思う。


「でも、青ざめるなら、まずいって自覚は、鈴木にあったのよね?」


 伊藤の言うとおり、ダメなことをしたのは理解したんだな。


「そうなの。まだそこが救い。ってか飢えさせるような食べ方させて無いってのに、ほんとに不思議で……ついでに本人も首を傾げてたの」


 無意識って怖いな……。意識してやってたら、人間性終わっているとか食い意地オバケに分類されるだろうけど。


「ってかさー、鈴木はなーんも考えてないんじゃない? オグちゃんに家事任せているから、自分は出されたご飯食べるだけ。そこに、2人の分とか考えず、出されたら自分のもの。みたいな。子供かっ!!」


 宮原セルフツッコミ! あり得る……。ってか、そうなると鍋とかの場合、どうしてたんだろうか。


「その、ただのバカなのかもしれないけど、もしかしたら根底に何かトラウマある、とかだったら、ガチガチに責めても逆効果かもだから、一応意識させつつ、カウンセリング受けてみようって言ったら、素直に頷いて予約入れることが出来たの」


 鈴木はニコニコしてるのもあって、結構穏やかなんだよな。俺が感じる雰囲気では。


「なんかスムーズに事が進んでいるわね、すごいわ!」


 伊藤が感嘆の声を出している。


「うんうん、すごい! うちらの旦那なら、まず逆ギレしてくるよー。『おれが病気だって言いたいのかー!』ってー」

「ね。家族(わたし)が用意した食事なのに、私が見えてないんだから、病気でしょ。ってなると思うわ」


 もしも旦那が食い尽くし系だったら、での予想をする旦那像が、宮原と伊藤では一致しているようだ。

 伊藤の旦那と、宮原の旦那、そんなとこまで似ているように思われるって、不名誉ながらすごいな……。


「ニコニコしてる鈴木って印象だから、食い尽くし予備軍な事に、実はかなりびっくりしてたわ」


 伊藤と同じく、俺も聞こえちゃったのもあり、めっちゃビビった。

 子供とか出来ても、そのまんまな場合、ただのクソ親父になりかねんだろうし。


「ね、逆ギレとか無いからよかったけど、カウンセリングで『ただの考え無しですね』って言われたら、そっちはそっちで恥ずかしいなぁ……って、今はそっちが気がかり」

「そんなダイレクトに言われないから大丈夫だよー」


 小椋の声に力が無い……。

 宮原のフォローの仕方が……。宮原のなかでは、鈴木が考え無しになってるっぽいな。

 だが、力がない声ながら笑って言えるあたり、派手な深刻さはないように思える。 


「でもいるよねー。1から10まで『説明』しないと理解しない人。経験しているはずなのに、自分の周りの流れを、何にも見ていないのー」

「「いるいる!」」


 いるいる! 入ってちょっと経つ頃になると、新入社員も、見ている奴と見ていない奴は顕著に分かれるし。いい歳こいたオッサンなんて、ほぼ見てないし。……ブーメランになってないといいな、俺。


 伊藤、宮原、小椋は別の話題へ移ったようだ。


——ブブブ


 お、カミさんからLINNEだ。


『今日の晩ご飯は、水餃子にします! 残業なく帰ってこれそう?』


 おぉ、カミさんの用意する水餃子は、茹でた餃子に出汁や漬けダレをつけるタイプ。

 コンロをテーブルにセットして、生餃子を湯掻いていく。茹ですぎるとデロデロ餃子になるから、絶妙なタイミングで鍋から出さないといけない鍋奉行が必要なやつだ。大変ながらも美味しいので、昼食後ながらも晩ごはんが楽しみになる。

 えーっと、返信返信っと。


『今日は、会議も客先訪問も無いので、定時で絶対に帰ります。

ケバブ丼美味しかった。おかずが肉と野菜が別タッパーだったの、食ってから感動と理解。レタスシャキシャキ』


 んで、写メ添付っと。

 カミさん、娘に言われてカフェ風ランチを作り始める。そして、ハマる。

 俺の手でカフェ風ご飯を完成させた写メを、送信するとすごい喜ぶ。ちょっと盛り付け気を遣うけど、実は俺も楽しんでいる。


『うわ、パパの盛り付けヤバい。負けた!!

あたしも部活ないからまっすぐ帰るね!』


 家族用トークルームなので、娘からもLINNEが飛んでくる。娘もケバブ写メってくれた。ってか、娘の方が可愛く盛り付けられているんだが……??

 若い子の感性とおっさんだと、可愛いが違うのだろうか?


 さて、帰ってからも、鍋奉行のひと頑張りが決定だが、娘たちがお腹いっぱいになるよう、お父さん頑張るか。

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― 新着の感想 ―
うちの母が、まさしく食いつくし系です。 冷蔵庫にプリン二つあると、全部食べちゃうタイプ。 子どものころに、大人ばかりの家庭で食べれば食べるほど喜ばれた環境ですくすく成長。 配慮しないのが、習慣になっ…
田舎だと、大皿で出て来て、どこまで食べればいいかわからないところがある。お腹いっぱいになるまで食べろ的な感じだし。しかも、人数多いから、ばらばらで食べるみたいな。
食い尽くし系かぁ… ウチも昔大皿だと、豆が調理道具片してる間に炒め物の肉とかほぼ無い、なんてコト続いたんで、今は全部個別にお皿分けてます。洗い物増えるけど仕方ない(*´_ゝ`) 家事の配分… このシリ…
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