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アンダーコントロール

作者: 網笠せい
掲載日:2026/06/05

 時刻が来ると、機械仕掛けの椅子がいくつも並ぶ部屋の中に、ちらほらとホログラム映像が映し出された。会議には実際に出席する者もいれば、遠距離通信で出席する者もいる。


 会議の長であるリチャード氏はかくしゃくとした足取りで部屋に入ってきて、ゆっくりと椅子に腰掛ける。少ししてから椅子は自動でテーブルに寄り、座高が調節された。特殊合金でできた部屋は外部からの攻撃を通さないようになっている。


「それでは、本日の会議をはじめます。議題については先日資料をお配りいたしましたが、性犯罪の抑制についてです。性犯罪が、未婚率や出生率の低下と関係しているのでは? といった疑問によるものです」


 おもむろにリチャード氏が口を開くと、会議に参加している面々が渋い顔をした。リチャード氏はテーブルの上のボタンを押して、グラフを表示する。テーブルの上にホログラムのグラフが映し出された。


「我々人類は、性欲を制御しなくてはなりません。性犯罪が増えたことで、女性が男性全般を嫌うようになってしまっては、後々まで禍根を残すことになります。……このグラフは、女性からの男性への嫌悪感と未婚率、出生率の推移を示したものです。年々増えている。大変深刻です。性欲を暴走させた人物に対する処置を考えなくてはいけない。……おっと、誤解しないでいただきたいのですが、男性が多いというだけであって、女性にも対象となる人はいます。……今は男女平等の世の中ですから、片方の性別だけをどうこう言うのは、いけません」


 会議に集まった老若男女は、腕組みをしたり、うなったりとめいめいの反応をした。


「大変由々しき問題ではありますが、人類が地球上に生まれてからというもの、この問題は解決した試しがありません」

「『英雄色を好む』などという言葉もあるほどですからな。スキャンダルで失脚してきた方も多い」


 軽口を叩いた出席者に、会議の面々は肩をすくめたり、失笑したりした。理知的な印象の女性が挙手する。リチャード氏が「どうぞ」と水を向けると、女性は口を開いた。


「具体的には薬物療法などが、一部の国で行われています。しかしこれは、本人が薬を飲むのを忘れてしまうことがあり、万全の対策とは言えません」

「できるだけ、女性に肌を露出しない格好をしてもらうようにするとか……」

「肌を露出していない人々……制服姿の学生も、会社帰りのOLも、病院で働く看護師も、被害に遭っています。つまり、服装ではありません。世の中にはさまざまなフェチがあり、どのようなフェチを持っているかは人それぞれです。服装で一律に対応するのは難しいでしょう」

「……となると、性欲の数値化が必要でしょうかねぇ」

「プロフェッサーらしい意見ですな」


 遠距離通信で参加していたプロフェッサーに、他の参加者たちはくすっと笑った。ホログラム映像がわずかに揺れて、プロフェッサーの姿にノイズが走った。


「いやはや、心拍数や呼吸、脳波、血液の循環などから測定は可能です。一定の数値を超えたときに、アラームが鳴るように設定してですな……」

「技術的には可能ということですね。……しかし、人権の面ではどうでしょう?」


 若い男性が懸念を表明すると、初めて会議に出席した若い女性が緊張した面持ちで意見した。テーブルの上に乗せた手が、かすかに震えている。


「被害に遭う女性の人権も考えてくださいね。これまで深刻な性犯罪をした者……具体的にはレイプ犯ですね……そういう人々の手首や足首に、着脱のできないGPSを装着するといったケースが他国でありました。測定器を装着するというのは、決して非現実的ではありません。しかしなによりもまず、性犯罪者を生み出さないための教育が必要だと私は考えます。不同意と同意についての」


 これまで会議を黙って聞いていた年嵩のいった女性が、ゆっくりとうなずいた。眼鏡の奥の瞳は険しい。


「教育は行なっていますが、いかんせん、市場に流通しているアダルトコンテンツの内容を真に受ける者が多いのです。そういったコンテンツには年齢制限をつけていますが、その年齢に達しても、まだ現実と架空の世界の区別がつかない者がいる……試してみたくなるような者がいる……というのが現状です。嘆かわしい」


 初老の男性出席者が、ぽつりと思いつきを口にした。


「古代では、慎ましいサイズのものが、理知的であるとされていた時代もある。大きいものは粗野で下品である……と。広告代理店に依頼して、そのようなムーブメントを再び作り出すとか……」

「いけません。そのような身体的特徴は、本人の意思で変更することができないのですから」


 会議は全く進む気配が見られない。秘書がやってきて、リチャード氏にそっと耳打ちする。時間が来たようだ。出席者たちが深々と悩ましいため息をつく中、リチャード氏はテーブルの上で指を組み替えて、結論をまとめた。


「今すぐにできることといえば、性犯罪の厳罰化でしょう。しかし性犯罪というのは、ときに考えられないような事件が起きるものです。私が子供の頃にも、自転車のサドルばかり盗む者がいた。尻を乗せるというだけでです。ときに理解に苦しむ」

「まったくです。私もスカートの縫い目を撫でる痴漢がいたという話を、家族から聞いたことがあります」


 会議に集まった男性たちがうなずく。女性たちは胸の内で、この会議に集まった者の中にも、特殊な性癖を持つ者がいるのかもしれないと曖昧に目を伏せた。


「今日集まった意見をまとめて、議会への提言を行います。本日はお忙しい中、ありがとうございました」


 会議は解散となり、遠距離通信で参加していた人々のホログラム映像が消えた。実際に出席していた人々が、ゆっくりと席を立つ。


 後年、この国はさまざまな性犯罪対策を打ち出したが、その後ながらく、出生率の低下に悩むこととなる。

 法律を気にかけるようなまともな男性は、性犯罪を起こさないからである。


<おわり>

【参考資料】

藤村シシン様

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