魔王様、日本征服に失敗した理由が“同人誌”だった件
※冒頭で前作の内容に軽く触れています。
先日行った、大規模睡眠魔法による日本征服計画は失敗に終わった。
「おのれ、“腐”の者共め……」
玉座で頬杖をつく魔王は、重々しく言い放った。
「ならば、内部から崩すのがよろしいかと」
側近の提案はシンプルだった。
異世界にて、文明が発達し、心も体も軟弱になった国……“日本”。
まずは精神体を送り込み、人間に憑依し、内側から屈服させるのだ。
かくして、先行部隊として精を糧とするサキュバス、インキュバス達の精神体が送り込まれた。
◆
サキュバスのリリスは、一人の女性に憑依した。
「ギャッ!」
その次の瞬間、リリスは膝から崩れ落ちた。
左右の肩、腕、両手が異常に重い。
原因は、その細身な体につり合わないサイズの大きな紙袋とフリルの付いた鞄をいくつも抱えていることだった。
一つ一つがあり得ない重さで、その負荷が体に食い込んでくる。
「な、なんなのこれ……枷?」
宿主の記憶を辿る。
「……同人誌……? 痛バ……?」
意味が分からない。
だが、このまま路上で潰れるわけにもいかない。
リリスはよろめきながら、記憶を頼りに宿主の自宅を目指して歩いた。
◆
部屋は異様な光景だった。
誰かを祀る祭壇。
壁一面の絵画と本棚。
床に積み上がる箱。
「……狂気か?」
自分を苦しめた荷物の中から、とりあえず一冊の薄い本を手に取る。宿主の記憶によって、言葉は自動的に理解できた。
「……魔王……×……側近……?」
恐る恐るページをめくる。
「………………」
バタン。
リリスは、意識を失った。
――描かれていたのが、“畏れ多い魔王様”と“憧れの上司”そのままだったからだ。
そして何より、サキュバスやインキュバスでも引くほどのドスケベBLが描かれていた。
「無理ぃ……」
初めて覚えた羞恥心に、心が耐えられない。
魔界基準でも、これはキツすぎる。
その時、体が勝手に動いた。
「戦利品を読むまでは……死ねぬ……!」
宿主の意志は、リリスの支配を押し返した。
「な、なんなの!? この執念は……!」
身体の主導権を奪われ、宿主は次々と同人誌を読み始める。
――気づけば、数時間が経っていた。
「あー! 魔王×側近、最高ー!」
「……あの話は良かった」
ぽつりと、リリスが言った。
「でしょ!でしょ!」
「最高濃度の精力が溢れてくるわ。今までのやり方はなんだったの……」
作者の性癖が剥き出しになった、熱量の塊。
それを読むことで、魔力へと変換されていく。
「……なるほど」
ゆっくりと、口元が緩む。
「このまま、アナタの体に住むわ」
「えっ?」
「アタシは“腐女子”になる!」
「やったあああああ!!同士!!同担大歓迎ーー!!」
◆
後日。
派遣したはずの一部の魔族達が戻ってこないという報告に、魔王は眉をひそめた。
「解せぬ」
机の上には、どこからか転移してきた分厚い一冊の本。
表紙には、こう書かれていた。
『魔王×側近 再録集』
――魔王は、しばらくそれを見つめていた。
そして。
そっと、開いた。
──魔王は卒倒した。




