第7話:公爵令嬢と真の役目
「ヴァルダート、どういうことなのアレッ!?」
結界に群がっている魔物の群れを空から見下ろしながら、私は問い詰める。
「クハハ、見ればわかるだろう? 吾輩という天敵がいなくなった隙を突いて、この付近の魔物たちが一斉にあの国を襲っているのだ」
「――!!」
そんな……。
「長年あの国が平和だったのは、ヴァルダート様がいたからだケル!」
「ヴァルダート様に怯えて、魔物たちは手が出せなかったんだベロ~」
「スッスッス!」
つまりヴァルダートは、実質我が国の守り神だったということ……?
「で、でも、聖女様の無敵の結界があるんだから、大丈夫よね……?」
「……どうだろうな。あの結界も、長年の酷使で大分ガタがきているだろうしな。ああ、あそこなど、そろそろ破れそうだぞ」
「――!」
ヴァルダートが指差した方向を見ると、その先の結界に、ピシピシとヒビが入っていくところだった――。
くっ――!?
「お願いヴァルダート! こんなこと頼めた義理じゃないのは承知で言うけど、この国を助けて! あなたの力ならできるでしょ!?」
「……何故そこまでして、この国に尽くそうとするのだ? この国の王族は、お前を捨てたのだぞ?」
「……そうね。でも、国民の中には、良い人もたくさんいるのよ。――それは私が、この身をもって知っていることだわ。だからこそ私は、どうしてもみんなを助けたい! お願いヴァルダート。助けてくれたら、私はあなたに何でもしてあげるから。きっとこうしてあなたに助けを求めることこそが、私の真の役目だったんだわ」
「――! ホホウ」
ヴァルダートのルビーのような紅い瞳が、怪しく光った。
「クハハ! クハハハハハハハハハ!!! つくづく役目を果たすのが好きな女だな! ――よかろう、今の言葉、忘れるなよ」
「っ! ヴァルダート!」
「吾輩にしっかり掴まっておれよ!」
「キャッ!?」
ヴァルダートが魔物の群れに向かって高速で突っ込んでいった。
私は振り落とされないよう、ヴァルダートの逞しい身体をギュッと抱いた。