第6話:王太子と義妹
「サイラス様、実は私ずっと前から、サイラス様のことをお慕いしていたのです」
「フフ、そうだったのか」
僕の私室で二人きりになりソファに座った途端、ジャスティーンが僕にしなだれかかってきた。
「凛々しいご尊顔、聡明な判断力、そして圧倒的なカリスマ性、あなた様は王となるために生まれてこられたお方ですわ。あなた様のようなお方の婚約者になれて、私は世界一の幸せ者です」
僕の左腕を、ジャスティーンが両腕でギュッと包み込んでくる。
僕の腕に、ジャスティーンの豊満な胸が押し当たる――!
ククククク……!
「僕も君のような美しい女性を婚約者に出来て幸せだよ。一生幸せにするからね」
「はい! 嬉しいです!」
ヘレンは顔こそ綺麗だったものの、如何せん色気も従順さも足りなかった。
その点ジャスティーンは百点満点だ。
ヴァルダートと共に追放できたし、つくづくヘレンとの婚約を破棄したのは正解だったな。
「ジャスティーン……」
「サイラス様……」
僕とジャスティーンは互いに見つめ合い、そして唇を――。
「し、失礼いたしますッ!!」
「「――!!」」
その時だった。
ノックもなしに、護衛が大層慌てた様子で部屋に入ってきた。
チッ!
「ノックもせず無礼であるぞッ! 不敬罪で処刑されたいのか!?」
「ヒッ!? で、ですが、サイラス様! この国に、夥しい数の魔物の群れが向かっているのです――!!」
「……なっ」
なにィイイイイイイ!?!?
「な、何だあれは……」
護衛に連れられ国境付近まで来ると、結界を覆い尽くすくらいの、数え切れない魔物の群れが結界に何度も体当たりを繰り返していた。
「どういうことなんだアレは!? こんなこと、建国以来一度もなかったじゃないか!?」
僕は護衛に怒鳴りつける。
「は、はい、仰る通りです……。考えられるとしたら、ヴァルダートをこの国から出してしまったことが原因かもしれません……」
「――!!」
そんな……まさか――!
「だ、大丈夫だよな? この結界は、何百年もこの国を守ってくれてたんだものな!?」
「そ、そうだといいのですが……」
何だよその、自信のない感じは!?
もっとちゃんと保証しろよッ!?
「サイラス、何がどうなっておるのだこれは!?」
「サイラス様、これはいったい……」
「っ!」
その時だった。
僕の父上と、ジャスティーンの父親もこの場に駆けつけた。
「いや、その、僕も何が何だか……」
ここは何としても、ヴァルダートを追放したことが原因だということだけは隠さねば――!
「あ、サイラス様、あれ……」
「え?」
ジャスティーンが指差した方向を見ると、その先の結界に、ピシピシとヒビが入っていくところだった――。
なっ――!!?