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あの後から悪魔がやけに活発に動くようになった。

1日中外に出ず、私を待って家にいるようだったのが、私が仕事に行く前にどこかへ行って、夜も私が帰った後に帰る日々が続いた。毎日、ご飯は1食夜に作ってあげているが、好き嫌いは特にないらしく、食べてくれた。


「はい、今日はサラダチキンとトマトだよー

  食べなね」


「ありがとう。鶏肉は好物なんですよ」

パクパクとフォークを使わず手づかみで食べる姿に、私はあきれ、注意したが、悪魔はやめる前に食べてしまい、終わってしまった。


「またパワーアップしたの?」


「ええ、記憶が鮮明になってきました。

僕の考えも確固としたものに固まっています。

僕は汚いやつが大嫌いなんです」


「それじゃあ、私も嫌いじゃん。変な仕事してたし」


「それは、自分が食うのに困って手を出した仕事でしょう?そういうのじゃないんです、人を利用して自分の利益になるようなことをしている奴らが嫌いなんです」


「それは皆嫌いだよ、自分が損して相手が得するんでしょ」


「でも、自分がそういう行為をしていると理解していないやつがいるもんですよ。それが僕には腹立たしい」


「悪魔のその嫌いな人は皆嫌いだから大丈夫だよ」


「僕は人の感情の機微を利用して、性的な行為をしようとする人間も嫌いなんですよ。金をあげるから俺のものになれみたいなものです」


「それもみんな嫌いだよ。だってずるいもんね」


「でも現実世界は、そういうのがまかり通ってしまうことのほうが多いのです。弱いものの声が届かない。本当の社会的弱者は声を上げることすらできない。だから、声が上げれる僕みたいな存在が気にかけてその人たちを助けなければいけない」


「それは素晴らしいことだと思うけど、誰も君に頼んでないんだよ」


「ここで僕がそれをやめてしまえば、社会的弱者はさらに埋もれて殺されてしまうかもしれない。僕はそれが悔しいんです」


「きみは自分のことだけを考えればいいんじゃないの?幸せな結婚ができるように好きな人に好かれる自分になるとか、お金をたくさん稼いでいい暮らしにしたいと思ったら、自分のスキルを磨くとか」


「そうですよね…。自分が幸せになってから、周りを助けよと。でもその結果、それに気を取られるばかりで状況が良くなるのは自分だけではないのですか。自分だけが良くなってから、相手を助けるのは遅いと思うのです。そう思った瞬間から相手を助けねば、助けられたものも助けられないと思って」


「君の言ってることはいいことだと思うよ。人を助けれる人って少ないもの」


「でも、悩みがあって」


「悩み?」


「僕は自分より不幸な人間しか助けれないのです。少しでも自分より幸せな人間を見ると、激しく憎んで突き放してしまう。感情的になると助ける力が倍増するのですが、気分が乗らないまま助けると無関心になってしまう」


「それはみんなそうなんじゃないかな。私だって羨ましい人はいるし、金持ちいいなって思うよ」


「見返りなしにたすけれないというか、そういう自分が小さい人間に見えてしまうんです」


「それは誰しもだと思うよ。恩返しを期待するもんだし、期待することが悪いことでもないよ。それである程度は社会は成り立ってるわけでもあるし」



「もし、僕がある先生から気に入られて、特別な授業を教わったとします。僕は先生になにかを与えなければならなかったのでしょうか」


悪魔は深刻な表情をして聞いてきた。思った以上に深刻な表情をしてきたので何かあるなと思ってしまった。


「先生は、見返り求めるような人間じゃないでしょ。いいのよ、その教えてもらった授業を楽しめば」


「そういうものではないみたいです」


「僕らが、相手に教えるときには相手からの何かを求めているものです」


「それは君がそう思っちゃうだけなんじゃないかな。私は特に求めたりしないよ。考えるのが面倒だから」


「そう!それです。それに行き着くんです」


「え?」


「僕たちは考えすぎると、面倒だから考えないようになってしまう。自分が卑小な男だと気づいてしまうのが嫌で、考えるのを止めてしまうんだ」


「考えすぎだよ。私の鶏肉もう1個あげるよ」


「ありがとう。そうなんだ、僕たちはそれだから考えるのをやめてしまう」


悪魔はぶつぶつと独り言を言っていて、自分の考えにぶつかっているみたいだった。私はそれを尻目にトマトとチキンサラダをゴマダレで食べる。


「僕は性的搾取で困っている人間に手を差し伸べれる人間になりたい」


「いいことだよ。君のしたことによってその人は苦しみから解放されるよ」


「それならいいのですが…」


もぞもぞと悪魔は居づらいような表情で、一切れの鶏肉を食べた。


「僕の母親は本当は父親ではなく、違う男として僕が生まれたような気がしてならんのです」


爆弾発言だった。悪魔は私以上の生々しい話をしてしまった。私は何をいえばいいのかわからなくなってしまった。ていうか、悪魔にも父親とか母親いるの?


「父親が僕を生まれてから叔母に育てるようにお金を送って面倒を見せたのは、きっとその思いがあったからなんだ。僕が他の男と母親の間でできた子供だったから面倒を見ずに2回しか会わなかったんだ」


「やめなってそんな話」


悪魔は呆然とした様子で独り言のように話し始めた。


「そう思えば辻褄が合う。誰も自分と血のつながらない子供なんて面倒を見たくないはずだ。僕は親の乱交から生まれた子供だったんだ」


「そんなこと言わないでって」


「だから、父親にああしたってよかったんだ!

僕は母親を恨むね。この世界を憎む。実の父親も恨むし、あの父親も恨む。この世界は僕にとって、生きる価値のない虚像でしかない。違う親から生まれた子供が幸せに生きれる世の中ではないこの世が憎い。虚無だ。僕には何もない。積みかさらないんだ、何もかも。愛情がまるで分からないんだ」


彼の悲痛な叫びのように聞こえた。母親にも父親にも愛されないこの悪魔を生み出した社会が彼に与えたのは、ただ生きながらえるだけの金だけだったのだ。


「僕はどう生きたって虚しいだけなんだ。そうだとしたら、誰かを助けるために一生懸命に命懸けでその人を助けるために何かしてもいいだろう。たかが、この命、不幸せと決まっている人生でも汚らわしい人生でも誰かのために生きたという思いがあるだけでよかったと思いたい。それまでもこの世界は奪えないだろうよ」


それは悪魔の願いのようだった。この世の中でつながりの薄い親を持ち、愛情もなく育てられた彼が輝くことができる最後の場所。


「僕は思うのです。僕が悪魔に生まれた理由はこういう経緯があるからだと。じゃないと辻褄が合わない。僕はこの世界を憎んでる。だから悪魔として生まれてきたんだと」


「そうかもしれないね。君も大変な状況から生まれてきたのか」


私は彼の肩に手をおいた。悪魔が振り向くと、悲しそうな顔で微笑む。


「僕は最初から欠陥品だったんです。この世界でうまく生きられない存在。僕はそういう人間を増やしたくないのです」


「だから、性的搾取を止めたい?」


「はい。自分の利己的な考えで産むような母親も産ませる父親も抹消させたい」


「君がいうことだから、説得力があるね」


私は悪魔を優しく抱擁した。

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