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私はスーパーで買ってきた、緑色のメロンソーダを悪魔と一緒に飲もうとしたが、コップが一つしかないことに気づき、彼にコップを渡して、自分はラッパのみにすることにした。


「いいのですか?悪魔は別になにも食べたり飲んだりしなくても死んだりしないのですよ」


「いいのいいの。

 一人で飲んでるより一緒に味わいたいじゃん」


シュワシュワと音を出しながらコップに満ちていくメロンソーダの色鮮やかな緑を見ながら、私は満足そうに悪魔を見た。悪魔は少し喜んでいるような表情を見せていた。


「かんぱーい」


ゴツンとペットボトルとコップのぶつかる音が響く。

ごくごくと飲み物を飲むと、喉がシュワシュワと炭酸で満ちていく爽快感を感じた。


一気に息を吐く。メロンソーダのさわやかな人工的な甘さと匂いが口の中に充満する。


「おいしいですね、シュワシュワして」


「でしょ?時々飲みたくなる」


変わり映えしない日々を少し変えてくれる物。日々売られている商品一つ一つに、日々を彩る力があるのが今更ながら感じられた。


「ちょっと聞いていい?」


「なんでしょう?」


「好きな人と付き合う?金持ってる人と付き合う?」


「僕ならばですか?僕は好きな人ですね

 ずうっと顔を突き合わせるんですよ。好きでもない相手の顔を毎日見て、いい気分になれますかね?」


「でも、幻滅も味わうと思うんだよね。好きな人の嫌なところ見る機会が多くなるわけじゃん?鼻くそほじったりさ、おならだってぶーぶーするかもじゃん?それで嫌いになるかもよ」


「それは、お互い人の前で見せなければいいんですよ。隠れてするものですから、見せる機会はないと思いますよ」


「それってさ、辛くない?」


「私は見せたくないですね」


「あんたの方潔癖じゃん」


「ぼくは悪魔なので何ともいえませんがね。人間だったら、そうかなと思ったまでです」


「私生きててわかったことがあるんだよね」


「なんでしょう」


「際限なく落ちて分かったこと。今っていい時代になったと思うよ。社会的に殺されても生き続けることはできるわけじゃん。精神的に死んだとしても生きれる。でもそれは抜け殻も同じ。人は見えないなにかを大事にしてそれを守っていき続けるだけで幸せになれるってこと。でもそれを破ってしまうと簡単に崩壊してしまうもろい存在」


「抜け殻で生きてもいいんですよ。今はそう生きても受け入れられる世界ですから。昔もそうだったのかもしれません。なにかを大切にして生きるのは、特権階級のある人間だけに許される生き方なのかも」


「人は人間から外れて行き続けていくとどんどん生きづらくなってしまう。獣のように生きたところには虚無しかない。虚しさ、何とも言えない不快感、自分がそばにいない感覚、自分なくていなくていいのではないかという感覚が襲ってくる」


「それは罪悪感がある人間だけが感じてしまうものです。人間から外れた行動をとる本人にははっきりと分からないものですよ。そしてどんどん狭めていく。生の喜びがなくなっていき、死に近い遊びに勤しんでしまう。きっとそれが自分の求めるものだと勘違いしてしまうのでしょう」


「その人はどうすれば救われるの?」


私はすがりつくような調子で悪魔に尋ねた。

悪魔はにやりと気味悪く笑い、言った。


「私は思うんですよ。皆自分だけの人生がある。人にいえないような、説明するにはあまりにも馬鹿げているような、あるいは不道徳的なものを持っている人生があるのかもしれない。でもそれは客観的な見方で判別されるもので、私たちは表面的に話されたその人間の人生しか知るすべはない。その話されたことを本当のことだと思って真に受けても、それが嘘だった場合、最初から見立てが違うことになってしまう。他人から評価される人生などそんなものです。その言葉がその本人を形作っているのはほんの一部分だけしかない。だから、他人からの自分の見え方はその一部分を切り取って評価されたものだと思っていい。だが、自分のやってきたことは自分が一番よく知っているものです。誰かに虐げられたこと、理由もなく八つ当たりされたこと、決めたことから逃げてしまったこと、誰かを見捨ててしまったこと、その出来事でどのような態度でもってそれに対処してきたのかが、その人の人生を彩るんです。良くも悪くも」


「私は逃げてきた。いつも…、めんどくさいと言って」


「大切なことはめんどくさいものだと誰かが言ってましたよ。そういうものです。その結果が自分の人生なのです。自分の人生を良くするのは難しいことだ。あっという間に楽な方に行けば、大切にする価値のないものになってしまう。自分がそう思ってしまったとき、その人生は自分にとって守る価値のないものなになってしまう。それから廃れていくんです。私も思うのです。その事が分かった時にできることは自殺なのではないかと。自分の人生を美しいもので終わらせる方法の一つが自殺だと。これはもう先のことをくよくよ悩まなくて済む。それに自分の人生がこれ以上廃れることがない。悪くなることはない。腐敗から食い止めることができる」


「私たちは人生の選択をずっと迫られていて、その分岐点での自分の行動が自分の人生がいいものであるか悪いものであるか決めてるってこと?」


「そうだと思っています」


「それじゃあ毎日、考えないとね。自分の人生を汚いものにしないように生きててよかったと思えるようなことをしていかないと」


「そう思いますよ」


「それを今さらやるのは遅いのかな?」


「いいえ。遅くはありません。遅くても、そうしてきたという事実が大切なのです」


「私は汚いよ。他の人よりも惨めで、すぐに仕事を辞めて、迷惑かけてしまう」


「それをやめればいいのです。惨めだと思う生き方をやめて、辛くても毎日その仕事に励むのです。その時、見えてくるものがあるでしょう」


悪魔はそういうと、自分が持ってきた分厚い小説を読み始めた。

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