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ベットの上で大の字になって寝ていると、右側のローテーブルの前で座っていた悪魔が言った。
「まだ死にたいですか」
「うん、相変わらずね」
「そうですか…」
「もう人生が悪いって決まったんだから、ここまでで終わりでいい気がするんだよね。所詮、この世は弱肉強食だから弱いものは淘汰されるんだよ。長く生き続けてもこの先辛くなるだけ」
「何が失敗だったんでしょうね…」
「そんなこと今考えたって遅いよ。このままだと、若い子に嫉妬する人間まっしぐらだ。そんな人間になりたくないから、早めに死なないと」
「そんな人間にあなたはなりませんよ」
「わからないよ、自分よりいい人生送っててむかつくって思わないとは限らないもの」
「悲観的ですねえ」
そういったあとだった。悪魔が私の上に顔を持ってきて、見下ろす形になった。目が合う。青い美しい目が羨ましい。
「なによ」
「ドキドキも必要かと思いまして」
「あんたなんかに性的な魅力抱いてたらきもいって」
「潔癖ですねえ」
「私わかったことあって」
「なんでしょう」
「性的な満足を得られない人間は、どんどん退化するってこと」
「?」
「つまり、私みたいなブスはどんどん退化してって、順応できない人間になるってこと」
「どうしてそう思うのですか」
「今の状況がそうだから」
「それはあまりにも偏った考え方では」
「いつまでも必要とされる人間は老いないよ」
「でもそのために犠牲者を作ってるかもしれませんよ。蹴落とされる人間が生まれてしまう」
「他人より秀でてることを証明しないといけないから、それはしょうがないよ。多分人生ってそういうもの。必要とされないと、どんどん腐っていくんだと思う」
「腐っていく…」
「自分じゃないなら悪魔になったほうがいい。私もそう思う。自分じゃない誰かを演じて生き長らえるとしても、それは死にながら生きてるようなもんでしょ。だったら、悪い悪魔になってずっと罵倒されてたほうがいいと思って」
「短い命でも?」
「多分そうなんだよ。それで死んだほう格好いいでしょ」
「死の恐怖には怖気づくのでは」
「そうだろうね、でもそれで永遠に自分じゃない人間になって生きるのは死ぬのと同じだよ」
「自分じゃない自分」
「好きな自分ならずっと生きたいって思うのかな。それじゃあ私は選択を間違い続けたわけだ、だからこんなに死にたいのか、無様で情けなくて」
「…」
「自分で選んだ結果ってわけか」
「もうやめましょう。どんどん死にたくなるのではありませんか」
「そうだけど、やめられないんだ」
私は目の前にある、悪魔の顔に再び顔を向け、その顎を手で掴んだ。悪魔はビクッとして、私と目を合わせる。
「青い目がほしい」
「それを得られれば幸せになれると?」
「そう思う。その目が得られれば、愛されるんでしょ」
「愛が欲しいのですか」
「欲しい」
「あなたの目は誰よりも青い」
「うそつけ」
「あなたが私の青い目を得ても、根本の問題は改善しないでしょう。生きるしかないのです、どうにかしてでも毎日を」
「けっ。面白くないねえー。生き続けたって地獄みたいなもんじゃないか」
「慣れるものです。慣れるまでの辛抱ですよ」
「愛があれば、きっと違う人生だったんだろうなぁ。君には分からないよ、受け入れられない人間の気持ちが。いじめられた時に誰にも話さず、自分の中だけで解決するしかない人間の気持ちが」
「私は愛って感じではありませんから」
悪魔はそういうと悲しげな顔をして、私の手を顎から離した。
「冷たい家族だったから、こういうふうになったのかな」
「家族のせいにするのですか」
「私思うんだけど、家族が優しい家庭の子は人間好きだと思うんだよね。だって周りがみんな自分に優しいんだったら、そりゃ好きになるよね」
「…」
「でも、嫌いってことはさ、自分に対して冷たい反応を多く見せてたってことだと思うんだよね。それで周りの家族も自分に優しくしてくれないから嫌いになると思うんだよね。結果、人間嫌いになる。だって一番多く子供の頃に接するのは家族でしょ」
「…」
「生まれたときから決まってるんだよ」
「そういう事を言って楽しいですか」
「楽しいと思う?全然だよ
ただ、これは本当のことだと思うんだよね」