09
もりが巨大なマグロの腹を貫いている、かなり刺激的な形の看板。
お昼にひまりが作ってくれたお弁当を食べたので、お腹が空いてはいなかったが、私は今ひよりが言った寿司屋に到着した。
「ここはきっと···.」
私はこの店の看板を調べた。
かなり人気があるところなので、予約をしないと席が取れない上に、その予約さえも取れない超人気の寿司屋。
この前ひまりが一度は行ってみたいと言っていたあの食堂だ。
「ここ有名ですか、先輩?」
「うん。きっと奥さんが行ってみたいって言ってたところだよ。」
「へえ~そうですか?」
「すごく有名で場所取りが難しいところなのに、今日は人が思ったより多くはないね。」
「今は曖昧な時間帯ですからね。」
今の時間は3時10分。
確かに昼食や夕食をとる時間帯ではない。
「ところで、ここがお前のおじさんが経営する店なの? すごいね......。」
「ええ、まあ... とはいえ... 私も来たのは初めてなので、先輩がおっしゃったように名声があったとは知りませんでした。」
「ところが... 何も言わずに突然訪ねてきても大丈夫なの?」
「え?だめなんですか?」
「…… 普通は事前に知らせて訪ねるんじゃないの?」
「……私も知人が経営する店に立ち寄るのは初めてなので…… でも入ってもいいんじゃないですか? そもそも招待されたんだし...。」
「確かにお客さんなのに、追い出すわけないでしょ?」
「そうですよね? それに叔父さんは京都人じゃないし、きっと私が知らない意味を込めた言葉ではないでしょう。」
私たちは店の入り口に向かった。
(できればひまりと先に来てみたかったけど…。)
寿司屋を一緒に行こうというひよりの提案は、実は断るべきだった提案だ。
ひよりが嫌いだからではない。
結婚している男が他の女と二人きりで高級レストランに入ること自体が、余計な誤解を生む可能性があるからだ。
親交がかなり積もった私たちの間でこの程度の仕事を断るとしても心に傷を残すことはないだろうが、なぜか今回は断ることができなかった。
これは論理で説明できない第六感の領域。
私がなぜひよりの提案を断れなかったのか理性的に理解できない。
しかし…。
(ひより野郎… いつも一人でご飯を食べるんだよな... 最後に一緒に夕飯を食べたのも何ヶ月前か...。)
東京で一人暮らしをしているひより。
友達も家族もいないここで、彼女は私と一緒にする昼食を除いては一人で時間を過ごす。
人間は社会性を持った動物。
忙しい現代人にとって、一人でいる時間は大切だが、ずっと一人でいるのはちょっと違う。
それにひよりは思ったより寂しさに弱い。
だからひよりの精神的健康のためにも私の時間を割いてくれた方が先輩として後輩のための配慮だと思う。
「いらっしゃいませ!!!!」
力強い挨拶が私たちを迎えてくれる。
迫力溢れる勢いに押された私たちは、同時にびくびくしながら周辺を見回した。
長く垂れ下がった高級な食卓。
そしてその前に料理人たちが直接材料を手入れして料理する姿を見ることができる食堂構造。
どうやらおまかせ食堂のようだ。
お客さんがいなかったので、幸いこちらに視線が集まることはなかった。
「あの...。」
私が席をどうやって探せばいいのか聞こうとした瞬間、険悪そうなおじさんがのれんを反らして後ろにある厨房から出てきた。
片目には漫画に出てくる侍のキャラクターのような剣で切られた傷跡が...。
そして、袖を引きちぎったようなラフなデザインのトップス。
真っ黒に焼けて野性味あふれる彼の姿は
まさに野生のビースト...!
「このバカども! 俺がランチタイムが終わったら営業しないって張り紙を貼れって言っただろ!!!」
「すみません!!!!」
ビーストの叫びに料理人たちは一斉に仕事を止め、気をつけの姿勢で立って謝罪の言葉を叫んだ。
(雰囲気怖い...!!!)
ビーストはため息をついた。
「はあ...すみません、お客様。今は閉店時間なので、お客様を受け付けられません。 申し訳ありませんが、夕方の時間帯にまた来てく...。」
その時、ビーストの目が輝き始めた。
「ひより!!!!!!!!!!!!!!!」
咆哮のような叫び。
挨拶のために持ち上げたひよりの手が震えている。
「あ、こんにちは、おじさん...。」
(え!? あの人がおじさんだよ...!?)
どうやらさっきのその咆哮は挨拶だったようだ。
私は前に立っている料理人の中にひよりの叔父がいるのなら、かなり困った状況だろうと思っていたので、かえってあのビーストがひよりの叔父だという事実に安心した。
もしひよりの叔父さんがあのビーストの下で働いている人だったら、どんな雰囲気になったか想像したくない。
「ウハハハハハハハ!!! これは誰だ!!!うちの可愛いひよりちゃんじゃん!!!!」
顔に咲いた乱暴な微笑。
あれはきっと喜んでいることだ。
「あ、あの方がシェフが言ってたあの甥っ子さん......!!」
「おおおお!!!」
一斉に湧き上がる静かな歓声。
料理人たちの視線が気になったのか、ひよりが私にしがみついた。
「おいおい、お前ら!!!何でそんなに感心して座ってるんだよ!!!早くお客さんが来ないように店のドアを閉めろよ!!」。
「はい!!!」
ビーストは突然、どこからか刀のような長い包丁を取り出した。
(あれは一体どこから出したんだ!?)
「ふふふふ...ちょっと待っててね、ひより...!一度も食べたことのないような最高のお寿司を作ってあげるよ!」
*
軽い気持ちでひよりについてきたが、目の前に広がるのは普段なら手もつけられないコース料理。
箸を持つ指が重い。
「さぁ~!最後は完璧に熟成が終わったマグロの腹肉だ!」
もう最後の皿だという話を4回は聞いた気がする。
途中からお腹がいっぱいで限界だったが、何とか口に詰め込んだ。
しかし、きれいな紅色に輝くビーストが出した皿の上に乗せられた脂っこいマグロの刺身。
指が本能的に動く。
「先輩...お腹いっぱいになったら、無理しなくていいですよ。」
「あ、いや...まだ大丈夫。」
「私...もう無理......。」
「ハハハ!どうだひより!今日の料理は気に入ったか!?」
「あ、はい··· ところで、あの… 簡単に食べようと思って来たのに...。」
「うちのひよりが遊びに来てくれたんだから、当然この程度は出してこそこのおじさんの心が楽になるんだよ!」
「ところでおじさん...これの値段は...。」
「値段!?ハハハハ!!! それは当然...。」
ビーストの視線が私に向かった。
「ここにいる紳士が3ヶ月ぐらいお皿でも拭けばいいんじゃないか。」
「え!?」
「ハハハハ!!!」
さっきの話は冗談だったのか,ビーストは豪快に笑った。
「ひよりが東京に住んでいるのに、ちゃんと面倒を見てあげられなかったおじさんの謝罪だと思ってくれ。 ところで… ずっと隣にいる男性の方を先輩と呼んでいましたが... 職場での先輩なのか?」
「はい。はると先輩と申します。」
「そうなんだ......。」
ビーストは意味深長な笑みで私を見た。
「ひよりは最初に得た甥っ子で、自分の娘のようでいつも気になります。 初めてひよりが東京に来たと聞いた時はびっくりしました。 田舎に住んでいた彼女が、果たしてこんな大都市でうまく適応しているのか、とても心配でした。 ところが、このようにひよりが連れてきたのを見ると、いつも優しく接してくれるのでしょう。」
温かい。
やや荒々しい声から感じられる優しい温もり。
今この瞬間、私はひよりが少し羨ましいと思った。
人々が思っているより幸せな家庭は見つけにくい。
ましてや、いとこ同士でここまでお互いに寄り添う温かさを見つけるのは難しい。
普段一人で過ごすひよりの精神健康を心配したが、余計な心配をしたようで良かった。
ビーストは私が座っている方向に頭を下げた。
「どうぞこれからもうちのヒヨリをよろしくお願いします!」
「え!?はい、わかりました···!」
私も席を立って、腰をかがめて挨拶を受け入れた。
叔父の行動が恥ずかしいと思ったのか、顔が真っ赤になったひよりは、私と目が合うのを拒否した。
そうして無言の約束を背負ったまま食事の席が仕上がった。
約90分間の食べ物との戦いを辛うじて乗り切り、店のドアを出る私とひより。
想像を超える満腹感が私たちの体を圧迫する。
「先輩...今日はお疲れ様でした...。」
「うん...招待してくれてありがとう。おかげで高級料理を堪能できたよ...。」
「ふふっ...これで、この前買ってくれたゲームの代金は帳消しにしてくれるんでしょね?」
「お前...まさかそんな目的で...!」
「ふふっ...!じゃあ、また明日ね、先輩!」
「ちょっと待って。」
「え?」
「私はタクシーに乗るけど、私と行く道が重なったら相乗りする?」
「え··· 大丈夫ですよ。 私が住んでいるところはここから歩いて行けば着く距離ですから!」
「本当に大丈夫かい?」
「……もちろんです!私は先輩のように老けていませんから!」
ひよりはおどけて笑って,足を引きずりながら走り去った。
ひよりの後ろ姿が消えるまで彼女が走って行った方向を眺め、私もタクシーに乗った。
私は寿司の詰め物を見て、これを見て喜ぶひまりの顔を想像した。
(きっと大喜びだろう?)
しかし、それまで私は知らなかった。
家に着いたとき
何が待っているのか。