07
週末の朝。
目を覚ますと、さわやかな朝日が私を迎えてくれた。
私は週末の暖かさが好きだ。
出勤するために急がなくてもいいという事実一つが私を落ち着かせる。
何よりも愛する妻と一日中一緒にいられるのがいい。
結婚するまでは知らなかった。
週末がこんなにも待ち遠しいという事実を。
小鳥遊ひまり。
見返りを望まない好意を親ではなく他人から期待できるという事実を教えてくれたひまりは、いろいろとありがたい存在だ。
彼女の明るい笑顔が私に向かう時、私は日差しに沿って首を回すひまわりのようにそれに従う。
ひまりが私に向かって笑ってくれることこそ最大の幸せ。
だから何があっても私は彼女の笑顔を守りたい。
でも……。
「何かあったの?」
朝ごはんを用意したひまりは、周囲を警戒する猫のように目をキョロキョロとさせながら私を待っていた。
私は急いで食卓に並んだメニューを目でスキャンした。
脂肪層がゆったりと分布したベーコンと白いご飯。
そして私が好きなポーチドエッグ。
まさに幻想的な朝のお膳立てといえる。
私が好きな食べ物を準備したのを見ると、私に怒っているわけではなさそうだったので、私は安心して質問を投げかけた。
「別に」
(ウハッ…!!)
これは回避的な答え...!!
まさかひまりにこんな難題を出されるとは思わなかった!
でも、これくらいは問題ない。
なぜなら、私は女性の心理を完璧に征服したスペシャリストだから!
昔ひまりと付き合っていた頃、私は密かに女性の心理について勉強していた。
幼い頃にアメリカに渡った私....。
アメリカの私立高校に入学した時、私の年齢は14歳だった。
そして当時学校に在学中だった日本人はゼロ…!
しかも大学に在学中の時にも会った日本人はいなかった…!
たった一人も!
そのせいで、大学を卒業するまで、日本の女性と一度も恋愛をしたことがなかった。
だから、ひまりと付き合い始めたとき、異文化圏で育った私の無神経な行動が彼女を傷つけるのではないかと心配だった。
アメリカと日本の雰囲気は違ってもあまりにも違う。
だから私は日本の女性たちの心理を勉強するしかなかった。
知彼知己百戦百勝だと古代中国の誰かが言っていた。
したがって、その時の私は必死に勉強した。
たとえひまりは理解が深くて彼女と戦ったことがあまりなかったので、この時勉強した知識はあまり役に立たなかった。
でも今!
あの時読んだ女たちの心理に関する本が建て前ではないという事実を証明する時が来た!!
「あなたがそうなら幸いですが…··· もし何かあったら必ず言ってね?」
フッ···
ゲームオーバーだ。
私が勉強したところによると、男性の方が先に配慮してくれるスタンスを取れば、女性の心が落ち着くそうだ。
最上位の捕食者である人間であっても、結局は有機体に過ぎない。
したがって、彼らの行動はホルモンの影響を受けるしかない。
そのため、これを土台に男性と女性の心理をある程度分析することができる。
私が読んだ書籍は膨大な研究資料に基づいて類推した科学者たちの結論が盛り込まれたマスターピース···!
限りなく正解に近いといえる!
(ふふふ...ひまり...悪いけど、私はあなたが思っているように優しいだけの夫じゃない...私はかつて生物学に携わっていた人··· つまり、サイエンティストでもある! でも、このような鉄壁な私の考え方にあまり怖がらないでね? 私は誰よりも君を愛する夫なんだから!)
私が投げたのは非の打ち所のない完璧な答え。
私は少し暖かくなったひまりの声を期待して、私の言葉に答えるために、開いたひまりの口を見つめた。
「うん。」
(え?)
少しは暖かくなったトーンの答えが出るだろうという私の予想とは裏腹に、ひまりの冷ややかな反応。
ひまりは相変わらず鋭い表情で食事を続けていた。
(え...どうして!? 科学が...間違ってるのか!? あの時読んだ本は...建前だったのか!?)
今の状況を受け入れられない私の頭は混乱していた。
確かに··· 私が投げた言葉はひまりに対する理解度を土台に私が勉強した知識を代入して考え出した最高の対処だった。
でも…··· どうしてひまりの反応が相変わらず冷たいの?
私はまた頭を回転させ始めた。
(もしかしたら...心理的な要因が問題じゃないかもしれない。つまり、物理的に何かがひまりを苦しめているに違いない。 それは何だろう... 。)
その時、何かが思い浮かんだ。
(まさか!!「あの日」なのか?)
女性なら誰でも経験するという苦痛。
周期的に戻ってくるので回避することもできないという血の嫌がらせ···!
確かだ···
今ひまりがこんなに敏感になっている理由は···…
生理のせいだよ!!!
原因を突き止めることに成功したが、まったく嬉しくない。
なぜなら···
生理の苦痛を経験している女性を相手に、男性が勝利できる確実なプランはないからだ。
生理のせいでストレスが極に達した女性は、予測できないランダム即死記を乱発するボスモンスターだ。
だから、男たちは持っている札を使ってその方法が通じることを祈るしかない。
しかし、今日の僕は運がいい。
その理由は……
週末にひまりと一緒に見るために用意したドラマのDVDセットがあるからだ!
先日、ひよりを捕まえるために秋葉原をうろうろしていたら、昔、ひまりが見たかったアメリカドラマの全編が収録されたDVDセットを見つけた。
昨日これを買わなかったら今のような状況をカウンターできなかっただろう···!
これは手元に残っている最後のカード···
私はこれが通じることを祈ってカードを使った。
「ところで…··· 今日はプレゼントを用意したけど、一度見る?」
「......プレゼント?」
「うん!食事が終わったら見せてあげる。」
「......、わかった。」
ひまりの声から微かな温もりが感じられた。
私は急いで朝食を済ませ、用意しておいたお土産を取りに私の書斎に向かった。
「ふぅ··· ひまりがこれを気に入ってくれればいいのに···。」
シーズン一つの内容をすべて盛り込んだセットなので、その厚さが相当だった。
実は、このドラマは「ナットリックス」と呼ばれるオンラインプラットフォームに入れば、いつでも視聴が可能だ。
しかし、私たち夫婦は二人ともレトロな感性が好きなので、たまにこのようにDVDプレーヤーを利用して映画を上映する方だ。
私はわくわくした気持ちでリビングに向かった。
「あの··· ひまり?」
私の呼びかけにソファーに座っていたひまりが首をかしげた。
「今はナットリックスで検索すれば全部出てくると思うけど··· 私たちが恋愛する時のようにこんな感じのデートも悪くないと思って準備してみた。 どう?あなたが見たいって言ってたあのドラマだよ。」
私の手に持ったDVDセットを見たひまりの凍っていた表情が一気に溶け込んだ。
「キャー!こんなの一体どうやって手に入れたんだ!? これを全部見るには今日一日中見なければならないけど、大丈夫?」
「もちろん!」
「やっぱりあなたは最高だよ!」
思いっきり歓呼していたひまりは、いきなり咳払いをして後ろに退いた。
「ごほん! おやつを用意してくるね。」
台所に駆けつけるひまり。
今まで雰囲気を整えてきたくせに、突然喜ぶ姿を見せて恥ずかしくなったに違いない。
(かわいい...。)
ひまりがおやつを取りに行く間、私はDVD視聴のためにテレビセッティングを始めた。
*
ひまりと仲良く並んでソファを背もたれにして床に横になってDVDを視聴し始めてから3時間。
そろそろ足がしびれてきた。
でも、ひまりと一緒にいる今、この程度のもどかしさは耐えられる…···と思ったが、やはり無理だ。
トイレでも行ってこないかと聞こうとしたその時、ひまりが胸に顔を埋めた。
ひまりとともに近づいてきた香ばしいにおい。
少しは慣れたこの匂いの出所が香水なのかシャンプーなのかは分からないが、ひまりの好みが気に入る。
しかし、今は感傷に浸っている余裕はない。
もう少しこのまま座っていたら足が壊死しそうだから。
「疲れた? ちょっと休もうか?」
「あ、いや··· 大丈夫。あなたはどう? トイレでも使ってくる?」
「そうしようか?じゃ、ちょっと待ってて。」
機会を逃さず、私は飛び起きて足を引きずりながらトイレに向かった。
冷たい水で洗顔をし、私はメールをチェックした。
幸い、誰も私を探してない。
仕事の性質上、週末も仕事をしなければならないことが多く、頭を悩ませる。
でもこれは私が選んだ道。
誰にも文句は言えない。
少なくとも自分が好きで得意な仕事ができることに感謝して生きている。
「今日はこのままずっとひまりと一緒に遊べそう。」
仕事から解放され、ひまりと一緒にいられるという思いで、口角が自然に上がった。
「ところで今日のひまりは何かおかしいんだよね··· 理由は分からないけど、生理のせいで敏感になっていたわけではないと思う。 何か他の理由があるようだが、それは何だろう···。」
ひまりが生理の時には必ずする行動がある。
うどんを作ってほしいとか…
甘いものを食べてしまうとか…
布団をかぶってベッドの外に出ないとか···。
しかし、今日の彼女の反応はただ敏感になっているだけで、全く普段生理の時の反応を全く見せなかった。
単純に生理だと信じたいのだが、これさえも間違っていたら、彼女に何かが起こったのかもしれない。
その時、不吉な考えが頭をよぎった。
(まさか...危険な人間に巻き込まれてしまったのか!!!)
エロマンガによく使われる素材がある。
それはまさに結婚した若い既婚者が思いがけない弱点をつかまれ、危険な人たちに脅されながらあれこれ要求される話…。
かなりファン層が厚いジャンルなので、多くの作家が愛用する素材だ。
もしひまりがそんな状況に置かれているのなら···。
(ど, どうしたらいいの!?)
今見ているドラマの主人公のように、華麗に敵を倒してひまりを救出できるはずがない。
私はそんなイメージとは全然逆な人間だから!!
私は暴力を遠ざける平和主義者だ。
運動といっても体重調節のための軽いランニングくらいだ。
だからスペクタクルなアクション作戦は棄却だ。
それでは私に残った一つの数は···
すぐにお金で解決すること...!
では、私に残された一つの手段は
それはお金で解決すること...!
仕事をしながら貯めたお金は結構ある。
私は贅沢な趣味はしないので...。
だからひまりがどんな弱点を握られたとしても、その弱点をお金で解決すれば良い。
ほとんどの危険な人々はお金が目的だから…!
ひまりのためなら、今まで貯めてきたお金を全部使ってしまってもいい。
だから... 私がやるべきことはひまりを追及して…。
(あ、ちょっと待って。)
その時、理性の紐を離さなかったまた別の私が妄想の世界に陥ってしまった私を起こした。
(妄想が過ぎるだろ...純粋なひまわりがそんな危険な連中に巻き込まれるわけないだろ? ひまりはいい子で、バカじゃないからね...。)
私は普段ひまりの姿を思い浮かべながら、自分の不吉な考えに反論し始めた。
今、頭に浮かぶヒマリを困らせるような状況なら…
通りすがりの不法商人のカリスマ性に耐え切れず、変な物を押し売りされたとか…
自分を乞食だと偽って近づいた詐欺師に3千円を奪ったとか…
近づいてくるチンピラたちを振り払えなくて困っていた状況で、たまたま通りかかった警察に助けられたとか…
(やっぱりひまりなら悪いやつらが掘った罠にかかってしまったのかも…?)
ひまりとちゃんと話をする必要があると思った私は、急いでリビングに駆けつけた。
「ひま...!」
「オエー!! 何だこれ。」
最初に私を歓迎したのはひまりが吐き気を催す音だった。
ひまりは口に含んでいたルートビアを再びカップに吐き出し、ルートビアが入っている太ったペットボトルをあちこち見て味に対する不平を吐露していた。
その姿はとても可愛くて写真に残しておきたいほど。
この時、私はかわいいひまりで悪い想像をしてしまったようで罪悪感が心を締め付けてきた。
(はぁ...何考えてたんだろう...ひまりが...そんな人たちと関わるはずがないだろ... 。)
私はため息をつきながら自分を責めた。
(何か悪いことがあったんだろう...友達と喧嘩したとか...ゲームで良いアイテムが出なかったとか...。)
そうだ。
ひまりなら、もし困ったことになったら、私に相談していただろう。
現実は漫画とは違うから。
これだけ妄想が激しくなるのは職業の影響かもしれない。
(休暇でも取るべきか…。)
私は再びひまりの暖かさに体を温めるためにリビングに向かった。