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10年ぶりに戻った東京は、思ったよりそれほど見慣れなかった。

長い間アメリカで勉強していた私が日本に戻ると言ったとき、両親はあまり快く思わなかった。

特に母は強く反対した。

しかし、私は両親の反応が理解できる。

私だって、異国の地での成功を捨てて日本に戻ると言う子を簡単に受け入れることはできないだろう。

投資したお金が問題ではない。

心配が先行するからだ。

これは私の両親も同じだっただろう。

しかし、私は自分の決断に確信があり、両親を説得することに成功した。

そして幸運にも私は好きな分野で仕事を得ることができ、今は美しい妻と一緒に甘い人生を送っている。

妻の名前はヒマリ。

ちょっと陰気な性格の僕には、あまりにももったいないくらい明るく可愛い女性だ。

何をするのか予測がつかず、僕を疲弊させるが、そういうところがとても愛おしい。

問題は、私は彼女から一つだけ隠している事実がある。

それは私の職業だ。

私はどんなことがあっても私の職業を彼女に伝えることができない。

純粋さに満ちた彼女の笑顔が幻滅感で歪むことを考えると、とても怖い。


1月23日。

まだ冬の寒さが残る風が吹く春の日。

日差しの暖かさと涼しい風が出会い、昼寝に最適な気温を与えてくれる今。

私は妻と二人仲良く横になって昼寝をしたい気持ちを抑えて、秋葉原の街を歩いている。

東京で趣味を持っている人なら、それが何であれ一度は訪れたことのある場所、秋葉原。

常に賑わいを絶やさないこの街の雰囲気は、果てしなく続くお祭りの饗宴のようなものだ。

そんな平和な場所を私は今、仕事から逃げたあるバカを捕まえるために街を探索している。

人混みの中を注意深く見渡しながら、奴に似た人物を探すのは思った以上に大変な作業であった。


「ハ...こいつ...! 捕まえたら、絶対に許さないぞ...!」


歯を食いしばり、灼熱の目で周囲を見渡す私を見て、通りすがりの通行人が思わず身じろぎした。

余計に申し訳ない気持ちになったが、仕方ない。

すでに忍耐力の限界に達した私の心の中には、もう他人を思いやる余裕はなかった。

対策もなく秋葉原の街を歩いていたその時、見覚えのあるシルエットが目に留まった。

それは間違いなく私が探していたターゲット。


(黒いフードに黒いレギンス…!あいつだ!!!)


普段のファッションスタイルを変えない奴なので、すぐに見分けがついた。

ある建物に入るターゲットの姿を見た私は走り出した。

あちこち人の間を縫って建物の中に入った私は、壁に貼られた巨大なポスターを見て、彼がなぜここに来たのかがわかった。

ポスターは新しく発売されたゲームの情報を伝えていた。

そしてそこに書かれている日付は今日。

1月23日...!

普段からこのゲームに期待を寄せていた彼だからこそ、私は次の行き先を決めることができた。

左側に設置されているエレベーター。

ほぼ全ての階をキスして味わいながら、降りてくるエレベーターは待たされない。

私は直ぐに階段を駆け上がり、ゲームを販売している最上階へ疾走した。

足の筋肉が破裂しそうだったが、奴への怒りが麻酔薬になってくれた。

一気に7階まで全力疾走した私を迎えてくれたのは、ゲームを買うために並んでいる人だかりだった。

怒りに満ちた目で周囲を見渡した私は、ある女性と目が合った。

かなり離れた距離にいたが、少し開いた彼女の口から飛び出した言葉が分かったような気がした。


「あ。」


そうだ。こいつならきっと開いた口から出る言葉はこれくらいだろう。

私は勢いよく奴に近づいた。

自分が近づいてくるのを見た奴は、逃げ出したいのか周囲を見回したが、ゲームを買いたいという自分の欲望に勝てず、列から離れられず、ただただ俺を見つめるだけだった。

奴の前に屹立した私は奴の頭を殴りたかったが、公共の場で奴の体面を考えるとそうはいかない。

汗でびっしょり濡れてイライラが上がってきたが、妻の顔を思い浮かべながら、できるだけ怒りを抑えた。


「え...ここはどうやって....」

「修平に捕まえて来いと言われたから...!」

「え? なぜですか?」

「だって、今日が締め切りだから!! 今日が締め切りだってわかってるのに、こんなことしてどうするんだよ!?」

「えっ、仕上げ作業を終えたのマネージャーさんに あげたんですけど?」

「えっ...?」

「確かにメッセージ残してきたんですけど、もしかして...何も言われなかったんですか?」

「......。」

「ちょっと待ってください! 私がマネージャーさんに連絡してみますね。 朝に渡したはずですが....。」

「いや、俺が連絡してみるから、まずはそれを買ってきてくれ。」

「あ、はい!」


私は彼を放っておいて、しばらく階段の方へ出て修平に電話をかけた。


「あ、見つけたか。」

「お前... ひよりから仕上げたファイルをもらったの?」

「あー、今朝受け取ったよ。


修平の言葉に再び血圧が逆流した。


「......、それなのに、なんで捕まえろって言ったんだ?」

「私はこうやって工場まで行ったり来たりしながら苦労しているのに、あなたたちは遊んでいるだろうと思うと、ちょっといらいらしてそうした。」

「もしかして...狂ったのか!?」

「冗談だよ。実は今回、新しく制作している作品に関して変更があったんだ。 今日5時までに直してくれって言われて断ろうと思ったんだけど、追加料金を払うっていうから承諾しちゃったんだ。」

「ああ...。」


私はなぜだかわからないが、めまいがしてきた。

敢えて理由を予想するならば、修平のヒステリーにまたやられたことによるストレスが原因だと思う。


「とりあえず分かった。 ひよりを連れてすぐ作業室に行くよ。」

「変更に関する書類は作業室に置いてきたから、わからないところがあったらメールで残しておいてね。私はもうすぐ工場に着くから、当分は連絡が取れないからさ。」

「はあ··· わかったよ。」


電話を切った私は、再び頭を上げて天井を見上げ、ため息をついた。

修平の手に翻弄されたのは少し腹立たしいが、彼も結局は自分の仕事をしたのだから、彼を責めることはできない。

とりあえず今は急な依頼を解決することが一番大事だ。

作業内容を思い浮かべながら時間計算をしていたその時、レジからひよりがバタバタと歩いてきた。

彼女は私の前に立ち、路上に捨てられた子猫のような哀れな目で私を見上げた。


「ど、どうしましょう...。」

「どうしたの?」

「カードが使えないんです...現金もなくて、今計算できないんです...! 助けてください!!!」

「はー...。」


私は仕方なくレジに向かい、財布を取り出した。


*


作業室に向かう道。

ひよりは鼻歌を歌いながら、軽快な足取りで先を行く。


「ふっ!ふふふ〜! 初回限定版〜! 初回限定版〜!」。


彼女はゲームの入った紙袋を抱きかかえ、フィギュアスケート選手のように空中を一周して着地した。


「興奮しすぎじゃない?」

「あー....」


ひよりははしゃぎすぎたのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしてじっとしていた。


「あまりにも··· 格がないように見えましたか?」

「いやいや、そんなことはないんだけど...。」

「それなら結構です...。」


ひよりは再び振り返り、今度はおとなしく歩き始めた。

小柄で痩せた体型のひよりは、着ているパーカーが特別にオーバーサイズスタイルのために作られたデザインではないにも関わらず、オーバーフィットのような印象を与える。

恥ずかしがり屋で内向的な性格なので、流行に敏感でないだろうと思っていたが、案外流行に敏感に身を包むので、かなりおしゃれで可愛い子だ。

一つだけ問題点といえば、ひよりは自己批判的な性格が強すぎて、彼女をよく知らない人が彼女を見たときに、陰気だと思われやすいということくらい。

私も彼女と働き始めた当初は彼女のこの傾向が理解できなかったが、この問題は時間が解決してくれた。


「私たち... お昼はどうしましょう?」


ひよりが尋ねた。

確かにもうすぐ昼食の時間であることは確かだ。

私とひよりは仕事の途中で立ち止まって昼食をとるのがあまり好きではないので、食事は作業に入る前に済ませる。

私は周囲を見渡したが、やはり目に入るのは牛丼屋さんだけだった。

意見を聞こうと再びひよりに視線を向けると、彼女はすでに私がどんな質問をするのか知っているかのように首をかしげる。


「牛丼··· 持ち帰りましょうか?」

「そうしようか。」


*


両手一杯に詰め込んだ食べ物を抱えて到着した私たちの作業室。

部屋の片隅に置かれたディフューザーのおかげで、香ばしい香りが私たちを迎えてくれた。

もともとは活気のない灰色の部屋だったが、ひよりが来てから、ここの雰囲気は大きく変わった。

退屈していた机から壁の装飾まで、全てがひよりの手が届いた瞬間から変わり始めた。

初めてここを見たときの、見るも無残なものを見たような絶望感に満ちたひよりの表情は今でも鮮明に覚えている。


「冷蔵庫に飲み物はある?」

「昨日買ってきたんです。」

「よかったね。飲み物を買うのを忘れてたんだ。ひよりにはいつも助けてもらっているわね。

「急に変なこと言わないで、封筒とかこっちにください!」


ひよりは突然の褒め言葉に恥ずかしかったのか、顔を少し赤く染めていた。

僕から食べ物の入った封筒を奪うように受け取ったひよりは、包みを一つ、二つと破りながら食事の準備を始めた。

私は、その間に隣に置かれていた修平が残した資料と思われる封筒を開けてみた。

封筒の中に入っていたのは、数十枚の絵が描かれた紙。

その中に赤いポストイットが貼られた一枚の紙が存在感を放っていた。


「あ、この場面ならすぐ終わりますね。」


私の肩越しに絵を見たひよりが言った。


「では、まずご飯を食べてからすぐに作業しましょう! 元の速度なら··· 2時間ほどかかりますが、今日はゲームを早くしたいので、1時間以内に殺してしまいます。」

「殺すのはやめろよ...。」


ひよりは闘志を燃やし、ギュドンを吸い始めました。

電子レンジで一度温められ、再び暖かさを取り戻し、湯気が立ち上る珪藻土。

その上に並べられた木製の箸を半分に割って、私も食べ始めた。

食事をしている今この瞬間、私の横に置かれた紙の上には絵が描かれている。

人体の屈曲した曲線が過激かつ大胆に表現されている絵。

それは全裸の女性の絵である。

これは私とひよりが熱心に作業した作品。

そうだ。

私はエロマンガ作家だ。

それもかなり有名な...。

そして、かなり高水準の物語を表現する...。

エロマンガ作家だ。

そして私はこの事実を絶対に妻に知らせるつもりはない。

純粋な彼女がそれを受け入れられるはずがない。

いつも僕に太陽のような暖かい笑顔を向けてくれる彼女が僕の職業を知ったら、きっと爽やかな笑顔があった場所に幻滅感でいっぱいになるだろう。

最悪の場合、ひまわりを失うかもしれない。

だから...。

私は絶対に

どんな手を使っても

私の職業を彼女から隠すつもりだ。


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