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1月23日。
暖かな春の日差しとまだ冬の名残りの涼しい風が出会い、完璧な気温を形成する今日のような日、恋人との団欒のピクニックではなく、身分を隠すための変装をして都心を歩いている私の名前は小鳥遊ひまり。
どこにでもいるような普通の主婦だ。
そして私は今...怪しい夫を追いかけている。
私はたいした職業はないが、とりあえず小説を書く作家として活動している。
人気は当然最下位。
インターネットにアップした私の小説は、ほとんど誰も読んでくれない。
小説家としての活動は結婚前から続けていた。しかし、収益性がゼロに収束したため、結婚が決まってからは小説家としての夢は捨て、家庭に貢献するために就職先を探し始めた。
しかし、夫は私が小説家としての活動を続けてほしいと願っていたし、私はそんな夫の声援に応えるために、以前以上に頑張って文章を書き始めた。
そもそも、夫が稼いでくるお金は思ったより多く、二人で生活するには十分だった。
いや、多すぎた。
最初に彼が私を説得するために見せたのは嘘だと思われるほどの金額が書かれた通帳。
生まれて初めて見る金額の多さに私は恐怖を感じた。
自分を平凡な会社員と紹介した彼に、どうやってこれだけのお金を集めたのか尋ねると、運良く株式投資に成功したとのことだった。
金融に関する知識のない私としては、なるほど...と感心するばかりで、それ以上のことは考えられなかった。
豊富な資産。
豪華な家。
優しい夫。
無名の小説家に過ぎない僕にはあまりにも過分な人生だと思ったし、今でもその思いは変わらない。
私、何かとてつもないチートをしてしまったのでは...と思うほど、今の私は幸せな人生を送っている。
しかし、私はいつからか...夫が怪しいと思うようになった。
その理由は、彼がなぜか本当の職業を隠しているのではないかと思うようになったからだ。
ある日の夜。
喉が渇いて目が覚めた私は台所に行こうと席を立ったが、隣で寝ているはずの夫がいなかった。
その時、部屋の外から聞こえてくる男の声。
彼は部屋の外で電話をしていた。
いくら夫とはいえ、彼の会話をこっそり盗み聞きするのは悪いことだが、静けさに乗って聞こえてくる声を遮るのは無理がある。
そして電話の向こうの相手に伝える夫の答え。
「じゃあ...仕方ないね。縛っておいて、拷問するほうに行こう。」
普段は優しすぎる夫の口から発せられた言葉とは思えないほど残酷な言葉。
私はまだ眠りから覚めきっていない私が何か勘違いしているのだと思った。
しかし、次に聞こえてきた夫の言葉は、私の疑念に楔を打ち込んだ。
「じゃあ仕方ないな...嫌だけど、今回は少し血を見る必要があるんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、鳥肌が全身に走った。
(なんとなく過分な人生を送り始めたと思った!!!)
しかし、私は身内のせいにしている余裕はなかった。
夫の携帯電話から通話終了を知らせる終了音が鳴り響いたからだ。
早くベッドに戻らないと、夫にこっそり話を盗み聞きされてしまう。
しかし、恐怖で麻痺した足は言うことを聞かなかった。
だんだん近づいてくる足音。
恐怖に勝てない私は、結局、その場に腰を下ろした。
ホラー映画で殺人鬼に追われるヒロインが愚かな行動をするたびに、バカバカしいと思ったものだ。しかし、もし私の人生が一本の映画だとしたら、この映画を見ている観客の一人は、過去の私と同じことを考えているはずだ。
少しずつ開く扉。
私のまぶたは、まるで私の人生の終わりを告げるカーテンコールのように、私の意志とは関係なく勝手に下がった。
ああ...これで終わりか...私の最後は愛する家族に囲まれて遺言を吐きながら穏やかに目を閉じることでこの世を去ることにしたのに...何だこれは!!!
「......ひまり?」
床に座り込んでいる私を見て、夫は首をかしげました。
「床で何してるの?」
「その、その...あ、悪夢を見たから、目が覚めたんだ....」
「.......」
切羽詰まった状況で思いついたお粗末な言い訳だった。
当然、それを信じてもらえるとは思っていなかった私は絶句した。
小説家ならもっとちゃんとしたアリバイを思いつくはずだ!!と自分を責めても何の役にも立たない。
今、ここは人生のどん底。
もうすぐやってくるエンドクレジットを迎える準備をしなければならない時点で、作品の主人公にできることは、自分の運命を受け入れることだけだ。
(あぁ...バカな言い訳だったか...確かにこの歳でどんな悪夢で目が覚める......! 悪夢は年齢を問わない!かなりもっともらしい言い訳だったよ!)
夫は私の言い訳を聞いてため息をつき、ゆっくりと近づいてきて、震えている私の前に片膝をついて座った。
私に差し伸べられた手を見た私は、今まで映画で見たキラーがターゲットを排除する方法を思い浮かべ、目をギュッと閉じた。
(首を折るのか? それとも窒息? とにかく痛いのはいやだ!!!!)
私の背中を包み始める夫の手。
それには、なぜか彼の手からは生気が感じられなかった。
次の瞬間、私は自分の体が持ち上げられるのを感じた。
「かなりひどい悪夢だったようだねか? 眠るまでそばにいるから安心して。」
お姫様抱っこで私を抱き上げた夫は、優しい笑顔で私に囁いた。
(え? なんで? 私を殺さなきゃいけないの? まさか...気づかなかったの? 私の言い訳が通用したの!?)
その夜、戸惑いながらベッドに横たわった私は、隣で抱きしめて抱きしめてくれる夫の腕の中で眠りについた。
「バカみたい!!!!!!!!!」
翌朝、夫を見送った後、一人で残って昨夜の出来事を思い出しながら、私は自分を責め始めた。
「確かに聞いたよ··· 誰かを拷問して血を見なければならないと言ったんだよ。」
頭を抱え、あちこち体をくねらせたが、どうすればいいのか、どうすればいいのか、全くわからなかった。
何よりも、夫がプロの殺し屋だと疑わなければならないこの状況がまだ現実味がなかった。
「どうしよう、今からでも逃げようか?」
夫と結婚する前の恋愛期間は2年。
私がよく行くカフェやレストランはもちろん、幼い頃よく使っていたアジトまで教えてくれた以上、この世に私に隠れる場所はない。
それに、このまま逃げ出したとしても、夫婦としてお互いのことを知っている以上、すぐに追跡されるだろう。
つまり、逃げるという選択肢を選択した瞬間に、私が勝つ確率が圧倒的に低いチキンゲームが始まるのだ。
したがって、無闇に逃げるのは愚かな選択である。
「いや、やっぱり逃げるのはバカバカしいな...もっと確実な方法はないのか...あ、そうだ!!今のような状況では公権力の力を借りるんだ!」
携帯電話のナンバープレート画面に一度もかけたことのない3桁の数字を入力した私は躊躇し始めた。
「でも、もし私が誤解したのなら···? 最近のゲームはリアリティがすごいから余計な誤解をするのかもしれないじゃん··· 私が勝手に誤解したせいで、彼を警察に引き渡すことはできない…。」
無闇に夫を警察に通報してしまったら、夫婦関係はそれだけで終わってしまうかもしれない。
何よりも、私にとってとても優しい夫を、むやみに通報したくなかった。
「もし彼が本当に恐ろしいことをしている人なら··· 妻になる人として彼と対話をしてみなければならないだろう···!」
今一番大事なのは、夫の職業を知ること。
私はその日から、夫の職業を知るために様々な方法で彼を探り始めた。
Take1.
「あなた!今日は私が車で送ってあげるよ!」
「え? そんなことしなくていいわよ。」
「今日はどうせ約束があって出かけなきゃいけないんだ!だから、出かけるついでにあなたの会社まで送ってあげればいいじゃん!」
「約束の場所はどこ?」
「うーん、池袋にあるサンシャインシティのショッピングモール....」
「はっはっはっは、私の職場とは真逆の方向でしょ? 私は大丈夫だから、あなたは友達と遊んできてね。」
そう言って、夫はいつものように私を一度抱きしめ、家を出て行きました。
Take2.
「ねえ、今日は迎えに行こうと思うんだけど、会社の場所ってどこ?」
「えっ!?え、お迎えはなぜ急に....」
「あのね...私たち新婚なのに、今まで一度も迎えに行ったことないじゃん、悔しくない?
「いや、別に...?」
「あ....」
「もしかして早く会いたいから?」
「あ、まあ、そうだね...!」
「じゃあ、今日はすぐ戻るから、ちょっと待っててね。」
「あ、わかったよ....」
Take3.
「今日の晩御飯は君の好きなハンバーグを食べてみたよ!」
「えっ!ハンバーガーって...!チーズも乗ってるじゃん!?やっぱり夕食を家で食べることにしたのは最高の選択だったよ!」
「ところで、今日は仕事で何かあった?」
「特に?」
「ドラマや映画を見ると、悪辣な上司とか...部長とか...こういうキャラがよく出てくるよね。 あなたもそういう人に悩まされてるんじゃないかと思ってね....」
「ふふっ、私の心配してくれるの? 心配しないで、私は大丈夫だから。」
「でも気になるでしょ! 普段何も言ってくれないから。 あなた、もしかして何か......あれ、急にどうしたの、泣いてるの?」
「ひまりちゃんが心配してくれるなんて...感動しちゃったよ....」
「えっ!?泣くほどじゃないでしょ!?やっぱり何かあったの!?」
Take4.
「お弁当を持ってきてあげようと思ってるんだけど....。」
Take5。
「夕方にお酒飲むって言ったでしょ?迎えに行くけど、どこだ!?えっ、タクシー? もしもし、ハニー、聞こえる?」
Take6。
「あなた!今日は...。」
結局、色々な方法で夫の職場を聞き出そうとしたが、夫は巧妙に答えを避けていった。
特に会社まで迎えに行くと言ったときの彼の困惑した顔が今でも忘れられない。
「結局...全部失敗した...。」
思いつく限りの方法を尽くしても、夫の秘密は聞き出せなかった。
ここまで意図的に答えを避ける夫の姿を見た私は、きっと彼が何かを隠しているに違いないと確信した。
だから今、幸せな結婚生活を送っていた私、多田舎ひまりは、普段着ないスタイルの服を着て、レンズが巨大なサングラスで顔を隠しながら、夫を追いかけているのだ。
(ところで、さっきから人が なんでこんなに多いの...!?)
急激に増えた人混みのため、人混みをかき分けながら走ってやっと夫を追いかけることができました。
すると、夫が突然走り出した。
「え?」
パニックになった私は、とりあえず走って夫を追いかけ始めた。
しかし、夫が姿を消した角を曲がったとき、彼の姿は見当たらなかった。
たくさんの人混みと建物。
あまりにも多くの変数があったため、彼を逃した今、私にできることは次を期待することしかない。
その時、走った余波で汗で濡れたシャツが風に当たって肌に触れると、不快な冷たさが私を苛立たせた。
「マジうざい!!!」
汗で濡れた服も不快だったが、何よりも夫を逃したことが悔しかった。
「もしかして... ひまり?」
その時、聞き覚えのある声が私を呼んだ。
振り返ると、そこには大学時代からの友人が立っていた。
「えっ、ミオ?」