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【新版】リンドウの花  作者: マキシ
プロローグ
1/13

ハナの章 第一節

 初めまして、皆様。私はハナと申します。当年、46歳になります。


 私はこれまで、そして今も、ずっと幸せに暮らせております。この度は夫を含め、私の周りの方々への感謝の意味を込めて、私のこれまでのことについて少しお話をさせていただこうと思っています。


 私はとある地方の村に生まれました。子供の頃には両親がおりましたが、山での落石事故で亡くなりました。私は家で留守番をしていたので、事故に遭わずにすんだのです。


 両親には兄弟筋の親戚もいたのですが、私をどの家が引き取るかというお話になった時、どの家も私の面倒を見るほどの余裕はないと断ったそうです。無理もありません。少なくとも当時、一つ一つのお家はまだまだ貧しかったのです。


 そんな私を奉公人として雇ってくださったのは、村で一番の商家だったお家でした。村でそのお家より大きなお家は、村長さんのお家くらいでした。その商家には小さな男のお子さんがいらっしゃいました。


 その商家のご夫婦は、とてもやさしい方々で、両親が亡くなったばかりの私を気遣い、色々と世話を焼いてくださいました。

 奉公人として雇われるということだったのですが、そのご夫婦は私に対してはっきり奉公と言う言葉を使わず、家の家事を助けて欲しい、慣れてきたらお(たな)の仕事も手伝ってくれるとありがたい、何、無理のない範囲で、できることをやってくれればよい、何も心配はいらないのだよ、と仰ってくださいました。私は、なんと一人部屋までいただいて、このご夫婦のお家で生活することになったのです。


 両親の生前、私は村立の学校に通っておりましたが、お手伝いとして働くことになったとき、もう学校に通うことはできないだろうと諦めておりました。しかし、学校に行かずに家事を手伝おうとする私を見て奥様は不思議そうな顔をなさり、お前はなぜ学校にいかないのだ、まだ卒業をしてはいないだろう、と仰いました。


 私が働かないといけませんから、と申し上げたところ、奥様は静かに首を振って、お前には学校へ行くことが必要なのだ、手伝いは学校へいく合間にでもやってくれれば充分なのだよ、と仰ってくださったのです。奥様は子供が教育を受けることについて、深い関心を持っておいでのようでした。


 それと恐らく、お家もお(たな)も、元々ご夫婦だけで切り盛りできていたのです。それを引き取り手のいない私を哀れに思ってくださり、引き取って面倒を見る口実として奉公人という形としただけなのだろうと思います。

 私には学校で仲良くしている女の子がいましたので、その子とまた勉強ができるとわかって、とても嬉しく思ったことを覚えています。


 そういった成り行きで、私が学校を卒業するまでの間は、学校へ通わせていただきながら、合間にお家のお手伝いをするという生活をしておりました。学校にはお(たな)の坊ちゃん、誠志(せいじ)坊ちゃんと一緒に通っておりましたが、誠志坊ちゃんはとても利発なお子でいらっしゃいました。


 学校では、読み書き、算盤(そろばん)など、様々なことを学びました。先生は年配の女性の方で教育熱心な方でした。学校の運用費もけして多くなかったと思うのですが、教科書や筆記用具などもきちんと生徒の数だけ揃え、何冊か教室に教科書以外の本も置くようにもなさっていました。


 私と友達の女の子、さっちゃんは夢中になって本を読みました。さっちゃんはサチと言う女の子ですが、みんなからさっちゃんと呼ばれていました。先生は、私とさっちゃんがその中にあった本、赤毛のアンに登場するアンとダイアナのようだとにこにこしながら仰っておられました。


 やがて私とさっちゃんが学校を卒業するころ、さっちゃんは高等学校に進学するため、町で暮らす親戚の家に身を寄せることになりました。

 さっちゃんは村長さんのお家の子でしたので、町に親戚がいると聞いても驚きませんでしたが、お兄さんの浩一さんが外国に留学することになったと聞いた時にはさすがに驚きました。


 本で読んだことはあっても、身近なお話として外国のことを聞いたのはその時が初めてでした。何でも随分お父様から反対されたそうですが、お兄さんが押し切って決めてしまったそうです。

 村では中々見目の良い男性として評判だった浩一さんですが、そんな頑固な一面があったとはと、村中が驚いていたようです。


 私は学校を卒業してようやくお(たな)で働くことができると、少し嬉しく思っておりました。お世話になりっぱなしのご夫婦にご恩返しがしたかったのです。


 さっちゃんは、私と離れ離れになることをとても寂しがりました。私もさっちゃんと同じようにとても寂しかったのですが、頑張って笑顔でさっちゃんを送りだしました。


 そうして私はお(たな)でも働き始めました。読み書き、算術そろばんなど、学校で学んだことはお(たな)で働くことにとても役に立ちました。


 その頃くらいからでしょうか。誠志坊ちゃんが私に様々ないたずらをしてくるようになりました。私の着替えにかえるを忍ばせておいたり、私のそばにねずみを放してみたり……。


 一緒に学校に通っていたころは、そのようなこともなかったように思います。他にご兄弟もいらっしゃらなかったのでお寂しかったのかもしれません。私も自分に弟がいればこのくらいだろうかと、坊ちゃんを可愛く思っていたのですが、利発でいらっしゃるだけに、それはもう工夫を凝らした様々ないたずらには中々に閉口いたしました……。


 一度ご夫婦に、私は誠志坊ちゃんに嫌われてしまったようだとご相談申し上げたことがありました。そうしましたら、ご夫婦はお笑いになりながら、そんなことはない、あの子はきっとお前のことを好いているが、どうしたらよいかわからなくなっているだけなのだ、だから今はそのままあの子の好きなようにさせてやってはくれまいか、何、ゆきすぎるようなら遠慮なく叱ってやって構わない、私たちも気を付けるようにするから、と。


 どうも私には男の子のことは難しくてよくわかりませんが、ご夫婦がそう仰るならと、坊ちゃんのいたずらを見守るようにしておりました。ただ、ねずみだけはどうかやめていただきたいと、切に思っておりました……。


to be continued...

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