78.ユアン殿下とのお茶会(3)
「……殿下のお考えは理解致しました。このことは父にも……?」
「いや、まだだ。先にディアナ嬢の反応を見ておこうと思ってな。どうやら渋っているように見えるが、もしかしてリリアのことを気にしているのか?」
それもあるし、私が月属性を持っているというのがわかった時の王家の対応とその後の展開が読めなくて、何も選択できない。いっそスキルで未来がわかる魔法でも創っちゃう?
「もしくは、ディアナ嬢には誰にも知られてはならない秘密がある、とかか?」
……!
考えていた内容とタイミングが良すぎて驚きを顕にしてしまった。
どうして私に秘密があるということに思い至るのよ。
そこで私ははっとした。
まさか殿下が……? でも殿下のスキルは魔力増幅だ。誰もが知っている。でも殿下がこう言うということは、何かのスキルで私とお兄様の会話を知ったとしか思えない。……まさか殿下には他にもスキルが? 魔力増幅はそのスキルを隠すためのカモフラージュだとしたら、あり得ないこともないわ。
ああ、鑑定の魔法創っておけば良かったなぁ。そうしたら殿下のステータスが見られるのに……でも人への鑑定は相手の許可もなく行うのは罪に問われる。鑑定スキルを使われた人は鑑定されているってわかるらしいから。ましてや相手は王族。処刑もありえるから創ってあってもできないわね。
もしかしたら今この時も、殿下はその隠されたスキルを使っているかもしれない。お父様が実験したから機能に問題はないけど、このネックレスのせいでピアスとネックレスからの魔力が隠蔽されてスキルを無効化しているのが自分ではわからないのがネックだわ。ネックレスだけに。……やばい、私ったら動揺して頭がおかしなことを言い始めているわ。
落ち着いて。殿下は私にカマをかけているだけかもしれないし。
「秘密なんて、誰にでも一つや二つあるものですわ」
私は動揺を悟られないように平常心を総動員して紛らわした。秘密=私の力と考えているとは限らない。
「……」
しばらく殿下は私を見つめた。探るような紫の視線に私はできるだけ心を無にするよう努めた。
「……わかった。今はそういうことにしておこう。その代わり、ディアナ嬢が私を振った言葉は聞かなかったことにする」
私は唖然としてしばらく何も言えなかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「陛下、この処理済みの書類は各所に持っていってもよろしいですか?」
「……」
「……陛下?」
「……ん? なんだ?」
「こちらの書類を届けに行ってもよろしいですか?」
「……ああ、頼んだ」
補佐官のセオドールが書類を手際よくまとめた後、俺を伺うような目を向けた。
「どこかお加減がよろしくないので?」
「いや……少しぼうっとしていただけだ」
「休憩を挟みますか?」
「いや……ところでヴィエルジュ伯は今どこにいるか知っているか?」
「辺境伯様はご自身の執務室にいるはずですよ。先程書類を持って行った際、黙々と机に向かっていらっしゃいました」
「……そうか。もう行って良い」
怪訝な顔をするセオドールを見送った後、椅子の背にもたれ、両耳にかけていた髪を下ろした。
……どういうことだ。何も聞こえない。試しに他の場所に向けて使ってみたが問題なく文官たちの話し声が聞こえた。ジュードが一緒に庭園にいるのかとも思ったがそれも違う。何故ユアンとディアナ嬢の会話が聞こえない。
……まさか、ディアナ嬢にもジュードと同じ「スキル無効」のスキルが……?
そう思うとそれしか原因がわからない。ユアンには身体強化と魔力増幅しかないことは洗礼式で知っている。
ディアナ嬢にジュードと同じスキル……スキル無効は紛れもなく特殊スキルだ。
「ふっ」
思わず笑いが漏れた。
ジュードめ、ディアナ嬢にスキルを発動するよう助言でもしたか。今までディアナ嬢に特殊スキルがあることを隠していたようだが、この間のパーティーでそうもいかなくなったか。
だがこれがパーティーで聞いたディアナ嬢の秘密なのかというと、薄い気もする。ディアナ嬢が王宮に来る度にジュードが「スキル無効」を発動してまでずっと隠してきたんだ。ディアナ嬢の秘密はそのスキル以外にも何かあるはず。だがまだ確信を得るための材料が足りない。
材料を集めるのに王家の影を使ってもどうせヴィエルジュ家の影が邪魔をする。
リリア嬢の「見破りのスキル」を使って探る手もあるが、ディアナ嬢のスキル無効で無効化され無駄に終わる。そもそも俺はリリア嬢と関わりたくない。
彼女の見破りのスキルは俺にとって鬼門だ。俺が王宮内のどんな声も聞くことができると彼女のスキルで見破られ周りに知られれば、母のように皆は俺を忌避するだろう。貴族や国民からの信頼も支持も低下し王家は失墜する可能性が高くなる。あれ以来俺には一度も使っていないようだが、なるべく関わりたくはない。
ジュードは親友である俺の鬼門をユアンの婚姻相手に推している。俺にとってリリア嬢は要注意人物であると知っているのに、だ。
俺よりもディアナ嬢を守るということか。娘だから当然だろうが、悋気を起こしてしまうぞ。
ヴィエルジュ家が権力を持ちすぎると懸念しているのは建前で、真の理由はディアナ嬢には俺のように誰にも知られてはならない何らかの秘密があるからだろう。まだ確信はない。だから今行われているディアナ嬢との茶会でユアンに探らせているが……
執務机に肘を付き、手で髪をくしゃりとしながら頭を支える。
ふ、自分の秘密は暴かれたくないくせに他人の秘密は暴こうとするのか。愚かで滑稽だな。
だがパーティーで聞いてしまったんだ。ジュードが俺だけでなくディアナ嬢にもスキル無効を発動させている理由が知りたくて試しに「遠耳のスキル」を向けたら……。ディアナ嬢の秘密が王家にとって有益なことなら、探りたいと思ってしまう。
ジュードが俺よりも守る必要があるディアナ嬢の秘密……婿養子を取るつもりであることを考えると秘密は……属性かスキル関係か? もしそうならそれは他家には渡してはならない程の貴重なもの……「スキル無効」の他にまだ貴重な特殊スキルを持っているか、もしくは属性なら……四大属性全てを持っている、か……
再び背もたれに体を預け、天井を仰いだ。
荒唐無稽なことだ。全属性など、未だ嘗て一人もいない。可能性は低いがもしディアナ嬢がそうなら、ディアナ嬢を王家に取り込めば我が王家は揺るぎないものとなる。もし俺のこのスキルが誰かによって暴かれたとしても。
次回は1/27(月)に投稿致します。




