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幕間(12)

いつの間にかディアナとノアが私のスキルの効果範囲から出ていた。


範囲内に入るように移動しようとした時、「やあ、ヴィエルジュ殿。お変わりないかな?」と、私の前に立ちはだかるように桑茶色のマントを羽織ったシュタインボック公が声をかけてきた。その隣には息子もいる。


公爵の傲慢さが滲み出るような笑みに対し、息子はよく部下が私に向けるような輝いた目をしている。


私はシュタインボック公の20m程後方でダンスを眺めているディアナ達に一瞬目を向けた後、内心の苛立ちを抑えながら公爵を見下ろした。


「ヴィエルジュ殿、考え直すことはできないか? 今日初めて噂の銀月姫とやらを見たが、あんな素晴らしいお嬢さんをずっと殿下の婚約者候補のままにしておくのはもったいない。悔しいが、殿下のお相手はベリエ家のご令嬢にほぼ決まっているようなのだから」


自身の後方にいるディアナを一瞥しながら公爵は役者のようにわざとらしく言った。


ローラ王女に変えたと思ったが、まだディアナを……


「……何度もお伝えしている通り、殿下が成人するまでは皆候補のままだと陛下が仰っている以上私にはどうすることもできません。殿下のお相手が決まり次第、私も娘の婚姻相手を派閥から探すつもりです」


公爵が片眉を上げる。侵略派とは結ばないと通じたようだ。


「そうか。いや、しつこくしてすまないね。そうだ、少し小耳に挟んだんだが、近頃貴殿は擁護派と懇意にしているそうじゃないか」


「部下には擁護派もいますので」


「私が言っているのはヴェルソー小公爵ではない。他の領主貴族だ。フィシェ侯爵家の令嬢が殿下の婚約者候補から降りたそうじゃないか。よもや貴殿は中立という立場を忘れてはいまいな?」


もう耳に入ったのか。中立派の私が擁護派と手を結ぶということは、軍事を担う私が黒竜を守る側に立つということ。それは侵略派との敵対を意味している。黒竜の正体を知らなければこんな大胆に動くことはなかったが、公爵が冒険者を使って黒竜の討伐を目論んでいるなら、私はそれを阻止しなければならない。


それにそろそろ影たちが公爵が雇った「黒蜘蛛」を壊滅に追い込む段階だ。さて、どう出るだろうか。


「もちろん忘れてはいません。中立派として、調()()をしているだけです」


「……ほう」


公爵が薄っすらと笑む。


その時私の「スキル無効」に反応があった。


私は内心で舌打ちをした。


陛下……


公爵越しにディアナとノアの様子を窺うと、2人が顔を近づけて会話をしているのが見えた。


何を話している……ディアナに関することでなければ良いが、もしそうなら非常にまずい。周りの雑音で内容が不明瞭なのを願うしか……


「いかがした?」


「……いえ、失礼しました」


「そうだ、ヴィエルジュ殿。息子のエルンストは貴殿のファンでね。良かったら剣の稽古をしてあげてくれないかね? 王国騎士団と一緒でも構わない」


「ち、父上……」


息子を使って私を探るつもりか。だがシュタインボック家の者が近くにいた方が公爵の動向も探れるか。この息子が公爵の思惑とは関係がないとは言い切れないからな。それよりも陛下が気がかりだ。


「構いません。稽古は厳しいですがそれでも良ければ」


「ああ、厳しくしてくれ。良かったな、エルンスト。ほら、いつまでも惚けてないでシャキッとしなさい」


公爵に背を叩かれ、「よろしくお願い致します」と瑠璃色の瞳を輝かせて言う様は公爵と似ても似つかなかった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



『本当は殿下に何て言われたの?』


『……一目惚れをしたようだ、と言われました』


……ほう。ユアンがそのような事を言うとは。お前も月に焦がれたか……ふ、これは好都合かもしれないな。


まさかディアナ嬢の会話の内容が聞けるとは思わなかった。俺の側にいる時とディアナ嬢が王宮に来た時だけジュードはスキル無効を発動するからな。だが今はシュタインボック公のせいで範囲外ってところか? お前がミスをするなんて珍しい。この時ばかりはシュタインボック公に感謝だな。おかげでディアナ嬢のことを探れる。


『ディア………避けて………相手は……貴族……ずい……』


チッ……さらに小声になって聞き取りづらくなったな。周りの声がうるさすぎる。


『………ィアナの役目……国中に露見…………属性……見合う家格………ルジュ家の………手に入る』


これでは何を言っているのかわからないが、「役目」とか「国中に露見」とか「属性」とか、ノア殿の言葉の中にはディアナ嬢には何かがあるような内容だ。ふ、最初はジュードにそっくりだという娘を手元に置きたくて候補にしたが、これは思いもよらなかったな。


すると突如耳の奥の方が針で刺されたように痛み出した。


くっ……耳が……


両手で耳元を押さえる。


やはりこんな大勢の場所では無理があるか。


「……陛下、どうされました?」


隣の王妃が案じるような顔で聞いてきた。


「いや」


『……で婿養子……』


スキルを切ろうとしたところで入ってきた情報に目を剥いた。


婿養子だと? おいジュード、お前婿養子をとるつもりなのか? どこのどいつだ?


玉座からまたジュードに目を向ける。


……ジュードのやつ、何をそんなに苛立っている? 表情は誰から見ても普段と変わらないが、長い付き合いの俺にはわかる。何か公爵に言われたのか? それとも俺がスキルを使っているのがわかって怒っているのか? だがそれはもう今更だろう。


俺はジュードが一瞬ディアナ嬢の方に目を向けるのを見逃さなかった。


口元が緩む。


ああ、なるほど……俺に聞かれていたらまずい内容を話していないか気がかりなのだな。益々興味が湧いた。


ユアンとの交流を目的に茶会に誘ったのが功を奏したようだ。ユアンに探らせるとしよう。

次回は1/20(月)に投稿致します。

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