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73.レリア·シュツェ侯爵令嬢

私が女子側に移動してお兄様から離れたことで令嬢たちが押し寄せ、お兄様たち5人があっという間に令嬢たちに囲まれてしまった。お兄様の所に戻るには令嬢の何人かを押し退けなければ無理そうだ。


わぁ、もの凄い人気……って感心している場合ではないわね。お兄様と離れてしまったわ。でも一人になったわけじゃないし、リリアたちといれば大丈夫よね。


「……ディアナ様、鼻の下を伸ばした男たちがディアナ様を狙っていますので、目を合わせませんように」


セシリア嬢が注意を促した。全然大丈夫じゃなかったわ。


「お兄さまとノアさまがずっと睨みを利かせていたから、それがなくなった途端ね。もうお兄さまったら何をしているのかしら」


「あの、私だけではないと思いますけど……」


リリアもフィリア嬢もセシリア嬢もそれぞれタイプが違うけど皆美少女だ。磨き抜かれた気品も他の貴族令嬢とは違って、立てば芍薬(しゃくやく)なのだ。


「あら皆様、お揃いで」


カナリアみたいな声がした方向から、蜂蜜色の瞳をした華やか系美少女が取り巻きを連れて優雅に歩いてきた。レリア・シュツェ侯爵令嬢だ。薄い橙色に金糸で刺繍された花柄のプリンセスドレスがとてもよく似合っている。


「……ごきげんよう」


リリアが挨拶をすると、リリアとレリア嬢の間に火花が散ったように見えた。


お兄様たちと離れたタイミングでの登場。図っていたのかしら。


「何の御用かしら。ユアン殿下でしたらあちらですわよ」


「それくらいわかっていますわ。せっかく4人も婚約者候補が集まっているのですもの、わたくしも混ぜてくださらない?」


「あら、ご存知でないの? フィリアさまとセシリアさまは候補をご辞退されましたわ」


リリアは知っていたようだ。さすが情報通。


「まぁ……それならばライバルが減ったということですわね。リリア様はまだ候補のままなのかしら?」


「ふふ、それはレリアさまの方ではなくて? 殿下と踊られたの、確か一番最後でしたわね」


「……っ!」


レリア嬢の扇を持つ手がわずかに震えた。2人による扇越しの笑顔での言葉の応酬は、リリアのほうに軍配が上がったようだ。私は内心でリリアに拍手を送る。


レリア嬢が頬に手を当てる。


「わたくし、納得がいきませんの。リリア様ならまだしも、どうして残りの候補者が『女神の化身』の瞳を持たない令嬢なのかしら」


レリア嬢の矛先が私に向かった。


「女神の化身」の瞳じゃなくて「女神様」の瞳なら持ってます……でも私が殿下の婚約者候補である理由なんて、そんなの私が一番知りたいわ。てか私達初対面では?


私はふと、以前リリアがうちに遊びに来たとき、レリア嬢は私のことを舐めていると言っていたのを思い出した。


舐めれられたままなのは、令嬢としてもうちの家名的にも良くないわね。


私はこの殺伐とした雰囲気を変えるように、(おもむろ)に扇を閉じた。


「初めまして。ディアナ・ヴィエルジュです」


お母様直伝の慈しむような笑顔と完璧なカーテシーで挨拶をした。


フィリア嬢の口から「まぁ……」という感嘆の声が漏れた。私達の周りにいる令息たちの間でもうっとりするような空気感が漂っている。レリア嬢も社交界の華と呼ばれるお母様ばりの所作と気品にちょっと怯んだ様子だ。


これでレリア嬢も私のことを舐めるなんてことはしないかな。


「と、とにかく、ディアナ様はユアン様に色目を使わないでくださる? あの方の婚約者になるのはわたくしなのだから」


色目なんて使った覚えないんだけど!


「それを決めるのは王家であって、あなたではないわ」


リリアが少し怒ったような口調で言うと、レリア嬢は眉を吊り上げ顔を赤くした。今にも扇が折れそうだ。


「ふん。フィリア様、あなた、派閥の違う者たちと何故一緒にいますの? 今すぐ離れて同じ派閥の者たちと仲良くするべきですわ」


レリア嬢にそう言われ、フィリア嬢は困ったような笑みを浮かべた。


「ぼさっとしていないで、ほら、行きますわよ」


裾が大きく広がったドレスをひらりと翻して、レリア嬢は立ち去った。取り巻きのA子とB子もそそくさとレリア嬢の後を追う。


「やっと嵐が去ったわ」


リリアがため息をこぼす。


レリア嬢は漫画やラノベに出てくるような典型的な悪役令嬢のようだわ。確か私とリリアと同い年よね。


「まったく、公爵家のわたくしに先に声をかけるわ、殿下を名前呼びするわ、年上のフィリアさまに指図するわ……どうしてあんな無礼な人がわたくしと名前が一文字違いなのかしら。今すぐ改名してほしいわ」


リリアが静かに憤慨している。


「……同じ派閥の者として、謝罪致します。ご気分を害し、申し訳ございません」


フィリア嬢が頭を下げた。


「フィリアさまが謝ることではありませんわ。どうかお気になさらないで」


「ありがとうございます、リリア様。ですが、先程レリア様が仰ったように侵略派貴族は排他的です。彼らの目もありますから、私はこれで失礼致しますね。ディアナ様も、今日はお話ができて良かったです。では、ごきげんよう」


終始申し訳なさそうに、でも最後は可愛らしい微笑みで挨拶をした後、フィリア嬢は令息たちを避けながら人混みの中を分け入っていった。

次回は1/10(金)に投稿致します。

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