72.L4再び
「え……辞退、ですか?」
「元々乗り気ではありませんでしたし、私にはやりたいことがあるのでお父様を説得して辞退させて頂きましたの」
私は驚きのあまり口がぽかんと開きそうになるのを慌てて扇で隠した。
「辞退なんてできるのですか?」
「うちの派閥にはレリア様がいますから。それに私、自分が殿下の横に立つよりも、殿下がノア様やアンリ様たちと並んでいるのを眺める方が好きと言いますか、創作意欲がわくと言いますか」
創作意欲? あ、やりたいことがあるって言ってたわね。それに繋がることかしら。
「『私達』ということはセシリア様もですか?」
「ええ。公平にということで候補に組み込まれはしましたけど、うちは少数派の擁護派ですし、王家と婚姻を結んでも権威がそこまで高くなるわけではないので、恐れ多くも父が陛下に辞退を申し出まして」
「そうなのですね」
あれ、でも前にリリアがフィシェ家は殿下との婚姻が結べるよう頑張っているって言ってたような……気が変わったのかしら。
「でも殿下と踊りたいとか思わないの? まだこの話、そこまで広まっていないでしょ?」
お兄様が2人に何気なく問う。
「自分を主役になんて考えていませんので」
「乗り気でない相手に時間を割いて頂くのは申し訳ないので」
「……2人共殿下に興味がないことがわかったよ」
私も辞退できないのかな。中立派にはリリアがいるんだし。
そう思ってお兄様をちらっと窺うと、察したお兄様がにこっと笑みをぶつけてきた。
……念のため王家のカードはまだとっておけ、って言っているようだわ。はぁ……
フィリア嬢とセシリア嬢はというと、お兄様の甘やかスマイルを見て頬を染めていた。
そこにリリアとアンリが戻ってきた。すると、フィリア嬢の水色の瞳が陽光に照らされた湖面のようにキラキラと輝き出した。殿下には興味はないけど、アンリにはあるのかしら。
「お前達、なかなか目立っているぞ」
後ろから凛とした低い声がして振り返ると、ユアン殿下がいた。2人の男性を伴っている。そして「揃ったわ!」とフィリア嬢の歓喜した呟きが聞こえた。
殿下の登場に皆が揃って頭を垂れる。
「領主貴族の子息令嬢が一箇所に集まっていたら注目の的だ。周りを見てみろ」
「ここに殿下とルカとリュシアンまで加わったらさらに注目が増しますが」
アンリがクールにツッコむ。
「ならエルンストも呼ぶか?」
殿下の面白がるような笑みにアンリが眉根を寄せた。シュタインボック家には近づきたくないから呼ばないでほしい。
殿下の背後にいる2人に目を向ける。宰相の息子のルカ・エスコルピオと、近衛騎士団長の息子のリュシアン・レーヴェだ。
2人とも成長して益々美形に磨きがかかっていた。エスコルピオ侯爵子息は甘いマスクと背中まで長い新緑色の髪を一つに結んでいるせいか、お兄様よりも中性的な印象がある。レーヴェ侯爵子息はがっしりした長身にキリッとした目元とすっきり通った鼻筋から全体的に硬質的だ。あれ、今ふと思い出したけどもしかしてローレンの森で殿下たちと一緒にいた?
すると、あちこちから令嬢たちの黄色い声が聞こえてきた。
あ! 今気づいたけど、ここに学院のL4が揃ってる! ちょっと4人さん、良い感じに並んでくれないかしら。あら、お兄様とアンリに挟まれている私が移動すればいけそうじゃない?
私はスススとフィリア嬢の隣に移動すると、お兄様とアンリが怪訝な顔をした。
これで2人の間に殿下がちょうど間にいるようになって、お兄様と被らないくらいの位置にエスコルピオ侯爵子息がいるから、これで良い感じに並んだわ。
私は煌びやかな男性陣を眺める。
うわ、ビジュ良すぎ……皆豪華な正装だから余計にだわ。殿下の背後にレーヴェ侯爵子息もいるから迫力もマシマシね。
一人納得していると、隣のフィリア嬢に右腕をツンツンとされた。そちらを見下ろすと、輝かしい宝石のような水色の瞳とキラキラした笑顔でコクリと頷かれた。
……あ、そうか。フィリア嬢はL4のファンなのか。お兄様やアンリが好きなのかと思ったら、推しってことだったのね。「眺めているのが好き」とか「自分を主役に考えていない」って、そういうことだったのね。なんでかわからないけど、ほっとしたわ。もしかして、学院にL4のファンクラブとかあったりするのかしら。
その時、令嬢たちの波が一気にお兄様たちの方に押し寄せて来た。
次回は1/8(水)に投稿致します。




