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70.内緒話

大ホールの中心で踊る貴族たちを眺める。


鮮やかな色とりどりのドレスが花開くように舞っている様はとても綺麗で、同時に前世では縁がなかった場所に自分が立っていることに不思議な気持ちになった。


「……ディアナ、疲れてないか?」


アンリが窺うような表情で尋ねてきた。


「大丈夫です」


「それなら……」


「あ、ダンスですね。では次の曲で踊りましょう」


「……ああ」


「お兄さま、少し良いかしら」


リリアがアンリの腕を引いて私達から少し離れたところに行くと、扇で口元を隠しながらアンリに何かを話している。


内緒話かしら。なら邪魔してはいけないわね。


「本当は殿下に何て言われたの?」


案の定、お兄様がこっそり尋ねてきた。


「お兄様、ここではなんですから庭園にでも」


「いや、雑音がある方が声が紛れるからここで良いよ」


そう言ってお兄様は私の顔のそばまで屈んだ。私は扇で口元を隠して何でもないことのように話した。


「一目惚れをしたようだ、と言われました……」


お兄様の目がわずかに見開かれた。


「……」


「でも安心してください。ただのリップサービスなので気にしていませんから」


「リップサービス?」


お兄様が目線を左上に向ける。


「初めて言われたことなのでさっきは少し動揺してしまいましたけど、あれは殿下の戯れだとわかりましたからもう大丈夫です」


必死に取り繕うとする私を見て苦笑をしたお兄様が声をさらに落として、「……ねぇ、僕思うんだけど」とさらに屈んで顔を寄せてきた。


「ディアナは王家との婚姻を避けているって話だったけど、ディアナが誰かと婚姻を結ぶ場合、その相手は王家よりも貴族の方がまずいと思う」


「え、どうしてですか?」


予想外のことに声が上擦った。


「静かに。ディアナの役目が無事終わった時、もしディアナの力が国中に露見された場合ディアナの婚姻相手が貴族だと均衡が崩れかねない。その貴族家が下手したら王家よりも力を持つことになる。何しろ属性があれだからね。ディアナに見合う家格は領主貴族の侯爵家以上だ。ディアナと結婚すれば、ディアナの属性に加えてヴィエルジュ家の軍事力が手に入る」


「それは……」


言われてみれば確かに。スキルは遺伝しないことがほとんどだけど、月属性はおそらく遺伝する。


「でも王家に嫁ぐのは、血縁的にはダメですよね?」


「候補者たちの中でディアナが最も今の王家と血が近いというだけだよ。法律でいとこ同士でも結婚できるから、はとこの子供同士の結婚なんて何の問題もないよ」


ぽろっと目から鱗が落ちた。


え、血縁関係ないの? 全然可能性低くないじゃん。


私が王家に嫁ぎたくないのは、異世界スローライフを送れないからという少し我が儘な部分と、私の能力が発覚した場合、王家にどう扱われるのかという懸念があるからだ。でもそれは貴族に嫁いだとしてもあり得ることだ。しかも貴族の場合はうちの軍事力というおまけ付き。


魔獣と黒竜の浄化はたぶん秘密裏にはできないから、その時は私の月属性が国中に露見する。結界が崩壊するのは殿下が成人を迎える年だ。確か婚約者もその時に決まるらしいから私になる可能性は高くなってしまう。


「ま、貴族だけじゃなく、ディアナの能力が知られたときの王家のディアナへの扱いとか、これ以上うちが力を持つわけにはいかないことも懸念しているから、父上もディアナが王家に嫁ぐのは乗り気じゃない。でもそうしたら、ディアナはどこにも嫁げないよね。もしかして父上は自領から婿養子を取るつもりなのかな」


「婿養子……え、自領からですか?」


「うん。うちがあの属性を独占する形にはなるけど、王家から制限をかけてもらえれば力の差はそんなに崩れないと思う。……だから必然的にアンリ殿は除外されるね」


「……なるほど。そうですね」


そうか、アンリは除外されるのか。そうだよね、次期公爵だもん。もし結婚するなら幼馴染のアンリが良いかなって漠然と思っていたけど、均衡が崩れるならアンリとは結婚できないし、婿養子も自領からなら無理だわ。


「……がっかりした?」


「え?」


「声が曇ったから」


「……」


そんなつもりはなかったけど。ただ……


「一番身近な人だったので、少し残念に思っただけです」


「そっか。色々言ったけど、でも僕はディアナを大切に想ってくれる人ならどこの誰でも良いと思っているよ。そこで生じる問題は父上と僕が何とかするし」


「……ありがとうございます」


私が誰かと結婚することで色々問題が起きるなら、もはや誰とも結婚しないということはできないかしら。それか月属性を欲しがる者達から逃れるために、結界が崩壊する前にあらかじめ自領から婿養子を取っちゃうとか。役目を果たした後は魔獣がいなくなるので冒険者業はできなくなるから、お婿さんと一緒に領地に戻って領地経営をするとかどうかしら。これって、私がイメージしていた異世界スローライフってやつじゃない?


お父様に相談しようと思った時、入口付近が一瞬ざわめいた。見ると、ユアン殿下が戻ってきたようだった。

少し内容を修正しました。

次回は1/3(金)に投稿致します。


皆様、良いお年をお迎えください(^^)

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― 新着の感想 ―
凄く好き……!貧乳設定だけ正直なんでわざわざつけた?と思ったけどディアナが幸せに楽しく冒険できることを夢見てる。 次回更新も楽しみです!
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