66.拝謁
最上級の礼を解くと、少し見上げた先には玉座に座る国王陛下と王妃様。その近くに立つユアン王子殿下とローラ王女殿下。4人の最も高貴な視線が私に集まった。
「ディアナ嬢、会いたかったぞ」
陛下が紫の双眸を細める。
いきなり私か。
「お初にお目にかかり、光栄に存じます」
私は緊張で声が震えないようにお腹に力を入れた。存在感がすごくて圧倒される。
それにしても「会いたかった」とは、どういうことかしら。ユアン殿下の婚約者候補の中で、私だけ交流が無いから?
「面白いくらいにお前に似ているな。なるほど、これ程の美貌だ。隠したがるわけだな」
陛下はそう言ってお父様を見やる。
「私のお茶会でお会いして以来ですね。お顔立ちは辺境伯様にそっくりですけど、佇まいはエレアーナ様のように気品に溢れていますわ。『銀月姫』と呼ばれているのも納得です」
王妃様、すごい褒めてくる……そういえば、お茶会の時も優しそうな雰囲気だったわね。
「……ですが、ベリエ公爵令嬢と比べて可愛げがあるかというと、そうでもありませんわね」
王妃様が扇で口元を隠し、濃緑の目が弧を描いた。
この場の空気がピリついた気がした。
……どうやら私の思い過ごしみたいね。
陛下が紫の視線を一瞬だけ王妃様に投げた。口角は上がっているけど目は笑っていない。
王妃様があえてリリアの名前を出すということは、私に対する牽制かしら。リリアを王子妃にしたいと考えているようね。私もそれには賛成だけど、「可愛げがない」とはこれいかに。息子と会いもしないくせに婚約者候補の一人に居座っているからかしら? わかんないけど、まぁ王子との婚姻を避けているから、そう言われてもしょうがないか。
ふと当事者であるユアン殿下を見る。でもその綺麗な顔からは何を考えているのか読み取れなかった。
「王妃が言ったことは気にするな。だがこれを機に息子との交流を深めてほしいと思っている。そうだな……」
陛下が考える仕草をする。それを見たお父様は何やら身構えている様子だ。
「ディアナ嬢を王宮に招待しよう。ユアンと茶会をするのはどうだ?」
「……陛下、それは2人だけでですか?」
王妃様が声を硬くして尋ねた。
「ああ、そうだ。他の候補者たちは何度もユアンと会っているだろう?」
王妃様が桃色の唇を引き結んで黙り込む。
「どうだ、ディアナ嬢。ユアンと会ってくれるか」
紫の視線に射抜かれる。疑問形ではないのは、断る余地を与えないということかしら。
「……承知致しました」
陛下が口元を緩める。
「日程は追って伝えよう」
陛下は私に言った後、お父様に小さく笑みを向けた。
王妃様はユアン殿下の婚約相手にリリアを推している。陛下は婚約者候補たちを公平に見ていると思うけど、きっと私だけ殿下と会っていないからその席を設けようとしているだけよね。
その後、お父様やお母様、お兄様も陛下たちと言葉を交わし、拝謁が無事(?)終わった。
ホールの人混みに戻る途中、お母様が扇で口元を隠しながら表情を固くした私に言った。
「あなたが殿下との婚姻に乗り気でないことはわかっているわ。それでもあなたは婚約者候補の一人だから、殿下と会わないわけにはいかないのはわかるわね? むしろ今まで会わずにいられたことが不思議なくらいよ。でもそう身構えなくても大丈夫。王妃様の仰る通り、ベリエ公爵令嬢にほぼ決まっているでしょうから、形だけよ」
それを聞いて、私は少し胸を撫で下ろした。
「陛下の考えは違うようだがな」
難しい顔をして口を挟んだお父様にお母様は呆れたような表情で、「その理由もなんとなくわかりますわ」と言った。
お父様が怪訝な顔をする。
「わかっていないのはジュード様だけですよ」
お母様がため息混じりに言った後、「あちらにベリエ公爵夫人たちがいらっしゃるので少し探って来ますわ」と、中立派の夫人たちが集まっている場所に向かった。
お兄様がお母様の背中を見ながら、声を落として言った。
「母上が知っていて父上が知らない理由って何だろうね」
私はお父様を見上げた。眉間に薄っすらと皺が寄っている。
お父様に知らないことがあるなんて、私は驚きのあまりしばらく棒立ちになった。
「こんばんは、総長」
お母様が何を知っているのか悶々と考えていた私は、黒髪に金のメッシュを入れた男性が近づいてお父様に話しかけたことで我に返った。
あ……
次回は12/20(金)に投稿致します。




