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62.お父様にチクりました

お父様の執務室に案内されると、お父様はちょうど仕事に区切りをつけるところだった。


「ハインは扉の外で待っていて」


「待機はしなくて良い。ジェフリーたち王国騎士団と交流をしてきたらどうだ?」


書類を処理済の箱に入れながらそう提案するお父様に、ハインはにやりと微笑んだ。


「そうさせて頂きます。よろしくお願いする、ベッセマー殿」


ベッセマーさんは苦笑いを浮かべながら「お手柔らかに」と言って2人は退出した。


お手柔らかにって? あ、交流って手合わせのことか。ハイン、がんばって!


お父様はマホガニー製の棚にある防音の魔道具を作動させ、ソファに腰をおろした。


「座りなさい」


お父様に促され、私はお父様の向かい側に座った。


お父様は長い腕を組み、長い脚も組んで話を聞く姿勢だ。でも、お父様の瞳が真剣さを帯びて海の底のように濃くなっている。まるで今から話す内容が重大なことだと知っているかのように思えた。


「お時間をとって頂きありがとうございます。お話というのは……昨日の2時頃、ギルドマスターの呼び出しのためギルドの応接室にいたのですが、そこでシュタインボック公爵家の執事からある依頼を頼まれまして……」


お父様の眉間の溝が深まる。


「……それで?」


私は膝の上のスカートを握り締めた。


「……その依頼というのが、黒竜の討伐なんです」


「……」


あれ、あまり反応がないわね。もしかして想定内だった?


「私は断りましたが、もう一人のSランク冒険者のディーノさんは依頼を受けたようです。……あの、状況を最初から説明しても良いですか?」


「……ああ、そうだな」


私はお父様の様子を訝りながらも、昨日のギルドの応接室での出来事を細かく話した。


「あとこのことは他言無用だとも。破れば公爵家の力が及ぶと言っていました。冒険者ミヅキは架空の人物なので素性は調べられないだろうとこうしてお父様にお話ししていますが、ディーノさんは一般人です。会ったことがないので人となりはわからないのですが、ギルドマスターが言うには、彼は以前土竜を討伐してから依頼を受けなくなったそうです。なのに今回受けたということは……」


「金に目がくらんだか、あるいは別の事情か。……そいつのことはこちらで調べさせているから、ディアナは何もしないように」


調べさせ()()()


「……わかりました。でもお父様が動いたらシュタインボック家に怪しまれませんか?」


一般人であるミヅキとディーノさんが、領主貴族で辺境伯家であるヴィエルジュ家と繋がりがあるのかと不審に思われてしまう。


私の心配をよそにお父様は薄く笑った。


あ、大丈夫みたい。同じような怪しい笑みでも昨日の執事のとは大違いね。


「シュタインボック家とは今まで通りに接する。もうすぐ殿下の誕生パーティーがある。そこにシュタインボック家も出席するからディアナも振る舞いに気を付けるように」


「はい、肝に銘じます」


無意識に睨み付けないようにしないと。あ、あとあれも聞かなくちゃ。


「あの、お父様。魔法師団長って結界の解析ができるのですか?」


「ああ、魔法解析スキルがあるからな」


「え、なんですかそれ」


「あらゆる魔法をスキルで読み解くことができ、それを応用して新しい魔法を創ることもできるそうだ。画期的な魔道具を生み出すのもこのスキルがあるからだ。しかもその魔法を自分の物にもすることができるらしい。ディアナの魔法創造とあまり大差ないな」


お父様、淡々と説明してますけど、え、それもはやチートじゃん……


「シュタインボック家は理由を伏せて彼に頼んだと思うが、王都から北のランデル山脈までは遠い。魔法師団長は転移魔法が使えるわけではないから、急げと言われても無理がある。解析も魔法が上級のもの程時間がかかるようだ。だが念の為、魔法師団長には山脈の結界は解析のフリで良いと内密に伝えておく」


解析のフリ! それならあの胸糞悪い依頼を先延ばしにできるわね。ディーノさんも、結界に阻まれている間は黒竜に会うことすらできないし。


「ありがとうございます、お父様」


「この件に関しては私に任せてディアナは何事もなく今まで通りに過ごしなさい。またシュタインボック家の者が接触して来ても自分で行動しないように。それと、念の為毎回転移場所を変更しておくように」


転移場所の変更? なんでかしら。まぁお父様が言うことならいつものカフェの路地に転移するのはやめておこう。


「了解しました!」


私はビシッと挙手の敬礼をした。


それから私はお父様の執務室でお父様と久しぶりに一緒に昼食を摂るという至福の時間を過ごし、ハインが訓練場から戻ってきてから馬車で帰路についた。


馬車に揺られ、陽光が照らす街並みを窓から眺める。乗合馬車と違いうちの馬車は石畳を走っても快適な揺れだ。


魔法師団長がランデル山脈の結界の解析のフリをしてくれるなら、黒竜が討伐されることはないわよね。だって入れないんだもの。


それにしてもどんな結界なんだろう。魔獣の森の結界は金色だけど、ランデル山脈に張られている結界も金色なのかしら。だとしたら「女神の化身」たちは黒竜をランデル山脈に閉じ込めているということ? あ、でも黒竜は山脈から飛び立って姿を現したわね。ならその結界は黒竜自身で張った結界ってことになる。 どうして張る必要が? 神だから人間と境界を隔てるため、とか……? うーん……

次回は12/6(金)に投稿致します。

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