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57.パーティーの名前

私はヒュドラと戦っている4人パーティーの方へ向かった。男性のみのパーティーで、剣士2人と槍使いと魔法使いだ。年齢は皆20代といったところだ。


様子を見ていると、魔法使いの男性が後ろから魔法で援護し、前衛の3人は1人1首ずつ攻撃を分担しているようだ。毒を警戒してか誰も無闇にヒュドラに斬り掛からず襲ってくる長い首を連携しながら巧みに避けている。


3人に注意を引き付けてもらって魔法で倒す感じかしら。でも切断系の魔法は使えないとなると、火か氷で血を出させないようにした方が良さそうだけど……


魔法使いの男性は土魔法でヒュドラの頭上から岩を数個落とした。当たっているけど大きなダメージにはなっていない。そのあとも3つの首を固定しようと岩を落とすもヒュドラは岩を崩しながら這い出てくる。


鬱陶しいと思ったのかヒュドラの真ん中の首が魔法使いに向かって炎を吹いた。魔法使いは炎を避けるも右と左の首も続いて炎を吹いてきた。


あ、やばい。


前衛の人たちの魔法使いの名前を叫ぶ声が聞こえる。


私は魔法使いの目の前に襲い来る炎を氷の壁で防いだ。


突然氷が現れて呆然としている魔法使いに私は「大丈夫か」と声をかけた。魔法使いがぱっと振り返り、翠色の目を見開いた。


「君はSランクの……」


私はヒュドラの様子を見ながら魔法使いに話す。


「加勢しに来た。土魔法を使っていたが火魔法か氷魔法は使えるか?」


「火魔法は使えないけど、でも氷魔法もちょっとギリギリで……」


魔法使いは少し気まずそうに言う。


それは氷魔法を使える魔力がもう残っていないってことかしら? それともあまり使えない? 見た所Aランクではなさそうだし。


「……そうか。なら俺が火魔法でヒュドラの首を3つとも焼くから、君はヒュドラが動かないように胴体と足を土魔法で固定してくれ。今」


「わ、わかった」


私は彼が詠唱している時に前衛3人に声を上げた。


「合図をするまでヒュドラの注意を引き付けてくれ!」


突然現れた私に困惑顔の3人は、それでもこの状況を打開すべく指示に従って時折吹かれる炎を避けながらヒュドラを牽制する。


「『岩の牢獄(ロシェジョール)』!」


ヒュドラの足元の地面から岩が這い出てきて、ヒュドラの茶色く濁った四つ足や胴体が覆われた。ヒュドラが岩から抜け出そうと藻掻いている。


「下がって!」


3人がこちらに下がって来たと同時に私は上級魔法を3つの首に放った。


蒼焔(アスール)


蒼い炎が動き回る3つの首に命中し、瞬く間に頭部、首全体が蒼い炎で包まれた。ヒュドラの咆哮が響き渡る。


「無詠唱……」


背後で魔法使いの男性の呟きが聞こえた。


やっぱ驚くよね。でも私詠唱を全く覚えていないからフリができないのよ……ここはSランクならってことで納得してもらえれば。


3つの首が轟音をたてて倒れ込むと、私は水魔法ですぐに蒼い炎を消した。ヒュドラは未だミミズのようにうねっているけど起き上がる力はもうないようだ。


炎を消さないと私が討伐したことになっちゃうからね。焼け焦げてはいるけどまだ生きているからあとは彼らに任せよう。


「今なら切断しても血はあまり流れないと思うが、念の為鼻と口を布か何かで覆って」


私が剣士2人と槍使いに言うと、彼らは戸惑いながらも懐から布を取り出して言われた通りにしてからヒュドラのところへ駆け、うねる3つの首を同時に切断した。


ふう、終わった。あ、メアリーさんたちもバシリスクを倒せたみたい。


「はぁ、はぁ、ありがとう、助かったよ……」


魔力を結構消耗したのか息遣いが荒く、でもほっとした表情の魔法使いの男性に言われ、私も「倒せて良かったな」と返し、その場を立ち去ろうとした。


すると、茶髪の剣士がこちらに駆けてきた。


「礼がしたい。ヒュドラの素材のどれかでも良いか?」


えっ、素材くれるの? そんなの気にしなくて良いのに。ちょっと出しゃばった感もあるし!


「気にしなくて良い。勝手にやっただけだから。じゃあ」


私は踵を返して、次の場所へ向かうことにした。まだ自分では1体も倒していないからね。


「よぉ、ミヅキ! さっきは助かったぜ!」


入ってきた道に戻ろうとすると、ゲイルさんに呼び止められた。


「お疲れ」


「いやぁ、もう参ったぜぇ」


灰色髪の頭を掻きながらゲイルさんと他4人が私の方に近づく。剣士3人共、顔が土と血で薄汚れていた。


「まさか3体もAランク魔獣が来るとはなぁ。通りがかったAランクパーティーの「牙狼」にヒュドラをお願いしたらさらに上空からグリフォンだぜ。いやぁ、ミヅキも来てくれて良かった良かった!」


牙狼……? ああ、あのパーティーの名前のことね。


見るとヒュドラの素材を回収しているところだった。


「そういえばゲイルさんたちのパーティーは何て名前なんだ?」


ちょっと気になったので聞いてみた。


「ああ、言ってなかったか。俺らは『疾――」


「ダサすぎるから知らなくていいよ」


弓使いのイリスさんがゲイルさんの言葉を遮った。


「そうね、ゲイルがリーダーだから『ゲイルのパーティー』で通じるわ」


「おい、ダサいって言うなよ!」


「それよりミヅキくんは依頼は終わったの? 終わったなら王都で一緒に食事でもどうかしら?」


メアリーさんが華麗にゲイルさんをスルーする。パーティー名がダサいって益々気になるから聞いてみたいところだけど、私はまだ依頼を達成していないので一緒に食事には行けない。


「すまない、まだ依頼を終えていな――」


突如、体に重圧がかかった。冷や汗が吹き出る。


なに、この魔力は……禍々しさが今までの比じゃない……! ゲイルさんたちは……


目の前の5人の様子は変わらず、突然様子がおかしくなった私に不思議そうな目を向けているだけだ。


私は尋常じゃない魔力がする方向へ走った。背後から「あっ、おい!?」とゲイルさんの声が聞こえたけどお構い無しに走った。


走りながら探知魔法を出す。


私から500m程離れた所で、黒い点滅が一つ現れていた。

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