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幕間(9)

僕たちはSランク魔法使いに会った後、そのまま森を出た。飛行系魔獣の謎の行動やキメラという凶悪な魔獣が出てしまったこともあり、これ以上の討伐は危険と判断した。


王都に戻ろうと馬の準備をしている騎士たちを馬車停めの近くの木陰から眺めながら、僕は先程会った少年を反芻した。


あれはディアナだと思う。何故姿が違うのか、水属性も使えるのかは説明できないけど、魔力だけでなく剣術と無詠唱魔法の両方を使って戦闘できるのは父上とディアナしかいない。それに初対面なはずなのにチラチラと僕を気にする素振り。かすかに揺れ動く蒼穹の瞳。一般人を装っていても隠しきれない気品。おそらく殿下もあの佇まいから只者ではないと判断して敬称をつけて振る舞った。最後の方は親しみを込めて呼び捨てにしていたけど。


でも何故ディアナは冒険者をしているのだろう。父上の指示? いや父上がそんな突拍子もないことを指示するとも思えない。ではディアナが進んでやっている? でも何のために? 水属性も使えるということはディアナは元々四大属性全てを持っているということになる。ではあのステータスは? そもそもあの姿はどうやっているのだろう。性別も背の高さも見た目の年齢も声も違う。そんな魔法薬があるなんて聞いたこともない。


駄目だ、疑問が尽きない。本当はあの場でディアナに問い質したかった。でも僕でさえ知らないことを周りが知っているはずはないと思いぐっと堪えたけど、気になって仕方がない。


影なら知っていると思うけど、今まで黙っていたならリドに尋ねてもきっと教えてくれないだろう。もう父上に直接聞くしかない。以前から父上とディアナは何やらコソコソとしていたから、おそらく父上はこのことを知っているはず。戻ったら父上と会う約束をしないと。


……いや、もしあの場にディアナの影がいたなら、ディアナが僕たちと会ったことを父上に報告している可能性もある。父上の方から呼び出しがあるかもしれない。


「何か考え込んでいるようだが、先程の飛行系魔獣のことか?」


はっとして、木陰に腰掛けているユアン殿下を見た。うっすら笑みを浮かべている。


しまった。ぼうっとしすぎた。


「……ああ、うん。あの飛行系魔獣たちの行動は何なのかなって。今までそんな報告はなかったよね?」


一旦ディアナのことは置き、頭の隅で考えていたことを伝えた。ここには今僕たち側近しかいないため口調も砕ける。


アンリが眉根を寄せる。


「何かの前触れか?」


「結界の崩壊が早まるとか?」


リュシアンも話に交ざる。


「まだ3年はあるはずだ。だがこれまでに比べて早く黒竜が現れたのは前回の結界修復が不十分だったからと聞いた。あり得ない話ではない」


殿下が嘆息する。


魔獣の森付近に住む人々は徐々に南への避難を始めているけど、結界の崩壊が早まればほとんど避難できない内にスタンピードが起きてしまう。防御壁もまだ完成していない中起きれば混乱は必至だろう。


もしそうなれば、ローレンとヘレネの森に挟まれている王都が一番危ない。父上が王都を守るなら僕は領地を守らなければならない。僕だけでできるのだろうか。


脳裏にディアナの顔が浮かんだ。


「とりあえず戻ったら謁見だな。あとは個人的に父上にはSランク魔法使い殿に会えたことを自慢しよう」


殿下が綺麗な顔をニヤリとさせて言う。


「……陛下も興味があるらしいな」


アンリがぼそりと呟く。


「ああ、闘技大会を開催するくらいだからな。だが今日の報告を聞けば状況によっては延期にするかもわからないが、念の為準備は進めておくだろう。彼ともう一人のSランク冒険者も強制参加だそうだ。だから15歳以上は出場可能だぞ」


殿下が僕たちを見回す。出場しようと言いたげな表情だ。


「言っておくが、忖度は無しだ」


「俺は遠慮しておく」


アンリが言った。


「出ないのか? 真剣勝負なんだから私に遠慮する必要はないぞ」


アンリはそれには応えなかった。気のせいか、青藤の瞳がいつもより暗く見えた。


「俺は出ようかな」


リュシアンが手を挙げた。僕も続いて手を挙げる。腕試しにちょうど良い。僕のレベルが今どの辺りかわかる。幸いディアナは魔法枠だから僕とは当たらない。


「よし。ただ出場するには選抜試合が別にあるらしいから、まずそれに勝たないとな」


選抜試合があるのか。僕も殿下もリュシアンも剣術枠での出場だから負けていられない。それに(きた)る時のためにも、鍛練の量を増やそう。


馬の準備が整ったところで、僕たちは王都へ出発した。


帰り道、馬上で僕はまた考えに耽っていた。


討伐の許可をもらう際、父上に何か対策を講じてみろと言われていたのだ。


森で討伐をしている間、思ったより高ランク魔獣の低ランク区域での出現率が高いと感じた。それなら各森の低ランク区域に騎士団と魔法師団を何人か派遣して魔獣の数を減らしていくのはどうかと考えた。でもそれには少し問題がある。それをやると冒険者たちが収入を得られなくなってしまう。だからすぐ打ち消した。それがあって父上は森周辺の警備と冒険者の護衛という形で冒険者に配慮した方法を取っている。


あとは魔獣が嫌うという銀月草を低ランク区域と高ランク区域の境界に植えれば良いのではとも思ったけど、銀月草は月の光を十分に浴びないと育たないし効果もないらしいから木々が邪魔して効果を発揮できない。それか魔塔主に魔獣避けの魔道具を作ってもらうとか。でもそんなものを作れたらとっくの昔に作っているだろう。


色々考えたけど結局何も思い浮かばなかった上に飛行系魔獣の謎の行動という新たな問題ができてしまった。


陽が傾いてきた頃に王宮に到着し、殿下たちと共に陛下に謁見して討伐状況を報告した。もちろん飛行系魔獣の行動についても。


謁見の間には大臣などの重鎮も揃っていて、その中には父上もいた。


飛行系魔獣の報告の時あの場にいた全員が驚いていたのに対し、父上だけいつも通りの表情だった。単に普段からあまり表情を変えないからそう見えただけかもしれないけど。父上はもう既に影から飛行系魔獣のことと、それからディアナと僕についての報告を受けたのだろうか。


謁見を終えた後、僕たちは解散した。


帰りの馬車の中で影のリドに父上に話があることを伝えたら、「そのことについては明日の夜にだそうです」と言われたので、やっぱり父上は影から報告を受けたのだなと思った。


陽が沈み始めた頃、僕は屋敷に戻った。


疲れを感じながら晩餐の時間に食堂に行くと、ディアナがいた。


ディアナも僕たちが立ち去った後すぐ森から出たのだろうか。冒険者たちは森の入口近くにある停留所にある乗合馬車で王都に帰るらしいけど、馬車には誰もいなかった。僕たちが出発してから馬車に乗ったことになるのに随分と帰りが早い。まぁ僕は王宮に寄っていたからその間に屋敷に帰ってきたのかもしれないけど。


食事の間、ディアナはいつも通りの振る舞いを心がけていたようだけど、あまり僕の方を見ないようにしていたのはかえって不自然だった。

誤字がありましたので修正致しました。

ご報告ありがとうございます。

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