53.お兄様にバレたようです
なんでお兄様たちがここにいるの!?
あ! そうだ、ここはお兄様たちの討伐区域に近い所だった! ああ、私のバカ! 私が見つけるより先にお兄様たちに見つかってしまうなんて! 逃げて良いかな。てかめちゃくちゃ逃げたい……! いや待って、今の私は冒険者の身分だわ。こんな大勢の貴族たちを目の前に何もせず逃げて良いの? 逃げたら捕まる? 怖そうな騎士もいるし、捕まるかな? ああ、もうどうすれば……
頭の中をぐるぐるさせながらふとお兄様を見ると、お兄様は私を見て何やら動揺している様子だ。上手く隠せているつもりでしょうけど、妹の私にはわかる。何をそんなに動揺しているのかし、ら……
…………
冷や汗が一気に吹き出てきた。
今ここに来たわけじゃないとすると、私の戦闘が見られて……
さあーっと血の気が引いた。
私が「ディアナ」と同じ魔力なのがお兄様にバレたかもしれない……! いや、魔力だけじゃない。なんかもう色々バレた……! やばい、本当に逃げたい……てかここで呑気に休憩してキメラと戦ってた自分を殴りたい……!
「驚かせてすまない」
凛とした声にはっとする。
私は一歩近づいてきたアメジストみたいに瞳をキラキラさせているプラチナブロンドの高貴な美少年を見やる。
ユアン殿下……よね? 7年? いや8年ぶりかしら。うわぁ、こんな麗しいイケメンに育っちゃって。て、感心している場合じゃない。早く魔力を遮断しないと!
私が慌てて魔力を遮断すると、殿下の眉がピクッと動いた。うわ、殿下も魔力感知できるっぽい。
「……いきなり貴族が目の前に現れたら動揺するのも無理はない。だが私は君に会えてとても嬉しい、Sランク魔法使いのミヅキ殿。私はこの国の王子、ユアン・ドュ・ルナヴィアだ。よろしく」
よろしくされてしまった! 私も挨拶を返した方が良いのかな。てか直答して良いの……?
私の様子を察したのか殿下は「ああ、直答を許す」と微笑んで言ってくれた。
「……ミヅキです。お目にかかれて光栄です」
わざわざ一般庶民っぽい演技をしなくても今は心が落ち着かないのでぎこちない感じになった。
「君の戦闘を見ていた。一人で戦っていたようだが、パーティーは組んでいないのか?」
やっぱり見られていたのか……
「はい……失礼ですが、王子殿下たちは何故こちらに?」
ここは討伐区域からはギリギリ外れているはず。
「上空に飛行系の魔獣が多く飛んでいただろう? 魔法師たちが撃っていたんだが、キメラが現れてな。攻撃されそうなところを別の方角からの魔法で助かったんだ。助けてくれた冒険者たちに加勢しようとここに来たら君一人で、しかも噂のSランク魔法使い殿だった。代表して礼を言う」
何やってんのよ私! いや殿下たちが助かって良かったけども!
唯一私が助かっているのはディアナとしてヴィエルジュ家以外の人と会う時は必ず魔力遮断をしていたことね。そのおかげで今私の正体を疑っているのはお兄様だけだし。ここにいるヴィエルジュ騎士団は魔力感知はできなかったはず。はぁ、あの時助言してくれたお父様に感謝だわ。でも……ああ、お父様、言いつけを破ってすみません……油断してはいけないっていつも気をつけていたのに、色々急いてしまった。
「礼を言われるほどのことではありませんので、お気になさらず。むしろ殿下方の討伐区域に近づいてしまい申し訳ありませんでした。……では俺はこれで失礼します」
早くこの場を離れたい。
「おい、無礼だろう」
踵を返そうとしたところでアンリに咎められる。
殿下がアンリを制した。
「いや、君が近くにいたおかげで私たちは助かったのだから君こそ気にしないでくれ。引き止めて悪かったな。ではミヅキ、また会おう」
そう言って殿下はお兄様たちと大勢の護衛を引き連れて、茂みの中へ帰っていった。
去り際、お兄様がちらっと私を一瞥した。その翡翠の瞳には何とも言えない感情が見えて、私は内心ため息をついた。
はぁ、もう帰ろう……
キメラの素材を回収する気が起きなかったけど、この素材が冒険者たちの装備になることを考えたら回収した方が良いと思い直した。
私は殿下たちの魔力や気配を感じなくなってから収納魔法でキメラをしまい、転移で王都に戻った。




