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幕間(8)−2

「ノア様!!」


イヴァンの焦った声が聞こえる。


冷静に。僕ならやれる。


僕は物理攻撃耐性スキルと身体強化スキルを発動させ、襲い来る前足の鋭い爪を躱し、勢いよく一刀を前足に入れた。


魔力を纏わせたミスリルの剣によりグリフォンの前足は切断され、バランスを崩したところを両手で剣を振り下ろし首を切断した。


グリフォンの首と体が音を立てながら地面に倒れた。


心臓の鼓動が耳の奥から聞こえる。


「ノア様、お見事です。お怪我は?」


「……大丈夫」


深呼吸をして落ち着かせ、イヴァンに応えた。


「皆は怪我してない? 大丈夫なら殿下たちを助けよう」


僕は騎士団を見回しながら言った後、殿下たちに加勢した。


しばらくして殿下が最後の1体のとどめを刺し、ようやく一息つけたところで各自ポーションを飲み回復をはかった。毒を負った近衛騎士と王国騎士がいたので毒消し薬で無毒化し、そして手の空いた人から魔獣の素材を回収していった。


「殿下、お疲れ様です」


「ああ、ノアもご苦労だったな。まさかローレンヴォルフの群れが来るとは思わなかったが、この過分な人数が功を奏したな」


殿下がにやりと笑みを浮かべる。


「殿下のスキルのおかげもありますよ。ね、アンリ殿」


「……ん? ああ、そうだな」


アンリはどこか上の空だ。疲れたのだろうか。


「殿下、素材の回収を終えた後、ここでしばらく休息なさいますか?」


僕が尋ねると、殿下が「そうするか」と応えたので、僕はイヴァンに指示し、イヴァンは各副団長たちを集めた。


リュシアンが殿下の側に来た。


「リュシアン、どうだった? 魔獣相手はちょっと勝手が違っただろう?」


「そうですね、学ぶことが多かったです。でも殿下の近くで戦っていると自分が一段強くなったような気がしてしまいます」


リュシアンが苦笑すると、殿下が「だから皆私から離れないのか」と可笑しそうに言ったので、リュシアンが「いえ、護衛のためです」と生真面目に言った。


休息がてら会話をしていると、突如上空から多数の魔力を感知した。魔力感知のできる者――僕、殿下、アンリ、オルグレン副団長、リード副団長と他魔法師が空を見上げる。イヴァンたちヴィエルジュ騎士たちも不穏な気配を感じたのか空を見上げた。


魔獣の不快な咆哮が響き渡る。


「また飛行系か」


殿下が声を低くして言うと、近衛騎士たちが殿下の周りに集まってきた。


でも上空を飛ぶ十数体の魔獣たちは僕たちに目をくれず、森の外へ向かっていた。そしてドンっという衝撃音が次々と聞こえてくる。


「何をしているんだ?」


「……もしかして結界の外に出ようとしているのでしょうか」


「それはまずくないか? もし壊れたりすれば……」


僕は殿下の言葉の先を想像して、リード副団長にお願いした。


「リード副団長、魔法師たちで上空の魔獣を撃てますか?」


「やってみましょう」


上級魔法師6人が一斉に詠唱し、魔獣に向かってそれぞれ魔法を放った。体力値が回復した殿下がスキルを発動させているので威力が増している。


遠く離れた動く魔獣を魔法で撃ち落とそうとするのは至難の業だけど、何体か命中し、森のあちこちから落下音が聞こえてくる。他の場所からでも冒険者たちが撃っているのか魔法の閃光が森の端から見えた。


すると、上空を飛んでいるどの魔獣よりも大きな魔力をもった魔獣が空から近づいてくるのがわかった。


「何か来るぞ」


殿下が言うと、果たして現れたのは大型の魔獣、キメラだった。


「まずい、キメラだ!」


キメラはほぼSのAランク魔獣だ。今僕たちに向かって炎を吹かれたら……!


「ニール! ディルク! 急いで岩の壁を作るんだ!」


リード副団長が切羽詰まった声で指示をする。


2人が詠唱しているとキメラが僕たちに気づき、口を大きく開けるのが見えた。


皆が戦々恐々としている。


間に合うか!? 最悪殿下だけでも……!


最悪の光景が目に浮かんだ時、別の方角から火魔法が飛んできてキメラの翼に直撃した。


「え……」


攻撃? 一体どこから?


怒ったキメラが魔法が飛んできた方角に方向転換し、離れていった。


「……」


「……命拾いしたな」


殿下が息をついた。僕もいつの間にか止めていた息を吐き出した。


「ですが、キメラが向かっていったところにいる冒険者たちは大丈夫でしょうか。あの射程距離でキメラに命中させるのは並の魔法使いではありませんが」


リード副団長が心配そうな顔をしてその方角を見つめる。


「どうする、ノア」


僕は少し考えて応えた。


「僕たちはあの一撃で助かりました。冒険者たちがキメラと戦っているなら僕はヴィエルジュ騎士団を連れて彼らに加勢に行きたいと思いますが、殿下は王宮に戻られた方がよろしいかと。Sランク相当のキメラが出たのであれば殿下の身の安全を優先すべきです」


殿下が不服そうに眉根を寄せた。


「言いたいことはわかるが実戦に大いに役に立つ私を帰すだと? そもそも自分に危険が及ぶのは重々承知していることだ。私に何があってもヴィエルジュ家に責任を問わないことを条件にここにいる。それに自分の身は自分で守れるし、護衛も大勢連れているんだ、今更帰すなどと言うな」


「ですが……」


殿下のアメジストの瞳が僕を射抜く。しばらく見つめ返して僕ははぁ、とため息をついた。


「わかりました。では皆で行きましょう」


殿下がにやりと笑む。


殿下の頑として譲らない姿勢に僕は折れた。人の気も知らないで本当に強引な人だ。


「では殿下の護衛を引き続きお願いします」


僕は近衛騎士、魔法師、王国騎士の皆を見回して言った。


「ですがここから冒険者たちがいる場所まで1km以上離れています。事前に告知した討伐区域の近くに冒険者がいるのは解せないですが。それに道中また魔獣に遭遇しないとも限りませんよ」


他の者が頷いていた中、オルグレン副団長が懸念を述べた。ここにいる誰よりもがっしりとした体格なので迫力がある。


僕たちの予定している討伐区域の近くに冒険者がいるのには驚いたけど、でもそのおかげで命拾いしたのだ。


「魔力遮断の魔道具はまだいくつかあるので、起動しながら行けば問題ないかと」


「ほう、準備がよろしいですね。総長のご指示ですか?」


僕は値踏みするような紺碧の瞳を見上げた。


「……いえ、私が指示しました」


「そうですか。それは失礼を」


王国騎士団と行動を共にするのは今回が初めてだ。王国騎士団は彼らの総長の息子である僕を試す態度をとる。父上にまだ認めてもらえていない僕は父上の部下たちに実力を測られているのだ。


でもそれは当然のことと受け止め、卑屈にならず、僕は自分ができることをする。父上が与えてくれた機会を無駄にしたくないから。


魔力遮断の魔道具を起動しながら僕たちは冒険者たちとキメラがいる方へ向かった。


少し駆け足で目的の場所に進むにつれ、僕は見知った魔力を感じることに内心戸惑っていた。


まさか。そんなはずはない……


15分程で戦闘場所に着き、茂みから様子を見る。轟音と大きな魔力を感じた。


開けた場所で、僕と同い年くらいの見目の良い少年が一人、キメラと戦っていた。


……誰だ? 僕の思い違いか?


ちら、と隣のイヴァンと他のヴィエルジュ家騎士たちの様子を見ると、皆ただ目の前の戦闘に見入っていただけだった。


翼と尾が凍ったキメラが目にも留まらぬ速さで一人の少年に攻撃を仕掛けるタイミングを図っていた。


「彼一人だけですか? 仲間は全滅してしまったのでしょうか」


リュシアンが誰彼問わず尋ねる。


リード副団長の「まさか……」という呟きが聞こえた。誰か知っているのか?


セーヴィン副団長が殿下に話しかける。


「殿下、あの少年……」


「ああ、報告書で確認した容姿と一致するな」


殿下が興奮したように言う。


「殿下はあの少年が誰かご存知なのですか?」


アンリが尋ねると、殿下が「前に言っただろう? 彼があのSランク魔法使いだ。まさかここで会えるとは。残った甲斐があったな」と声を弾ませて言った。


それを聞いて僕の心は動揺で埋め尽くされた。


あの少年があのSランク魔法使い? でも何故ディアナと同じ魔力を感じるんだ? 彼とディアナは全くの別人なのに、一体どういうことだ?


動揺を悟られないよう必死に表情を取り繕いながら同じ思考を何度もぐるぐるさせていると、周りからどよめきが出た。


思考を中断して戦闘を見ると、一面に氷が張られ、キメラの背中に数本の氷柱が突き刺さっていた。


「無詠唱……!」


何人かが声を揃えた。


無詠唱だって? しかも氷魔法を使ったということは水属性持ち……ディアナは確か火風土のはず……ならディアナとは別人? でも何故あの少年はディアナと同じ魔力を……


僕の動揺と疑問が益々膨れ上がる。


「無詠唱で氷魔法が使えるのか。剣でも戦えるとは……」


オルグレン副団長が興味深そうに戦闘を見ている。脳裏に父上が浮かんでいるのだろう。あの少年の顔もどこか父上の面影を感じるのも影響しているかもしれない。


また胸の中に鉛ができたような気がした。


そして少年が剣でキメラの首を落とし、キメラが絶命した。


あの剣技……


ふと少年の持っている剣を見ると、僕は瞠目した。


あれは……ディアナの剣に似てないか? でもすぐ収納袋に入れたのか消えてしまって一瞬しか見えなかったから見間違いかもしれないけど……


すると、少年がこちらを見た。魔力感知ができることも僕の動揺と疑いがさらに増す。いや、でもディアナは水属性を持っていない。ステータスを見せてもらったからそれは確かだ。


少年は僕たちを魔獣だと思っているのか、臨戦態勢だ。どうするべきか考えなきゃいけないのにぐるぐると頭の中が回って他の思考ができない。


殿下が茂みから出ていった。皆が慌てて後に続く。


僕も動揺と問い質したい衝動を押し殺しながら茂みから出た。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

ミヅキがいる場所とノアたちがいる場所の距離が曖昧などのご意見がありましたので一部内容を修正しました。

また、ミヅキは最初ヴェルソー領方面の低ランク区域にいましたが、魔獣を討伐していく過程で徐々に反対側のシュツェ領方面に向かってしまっていました。よく考えているくせにたまにちょっと抜けてしまうところがあります。ミヅキがサンドイッチを食べた場所はシュツェ領側に近い場所です。描写がなかったのでそこも修正していきますのでよろしくお願いします。

あと文字数多くなってすみません(^_^;)

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― 新着の感想 ―
不躾とは承知していますが、感想を書かせて頂きます。 ミヅキ(ディアナ)と王子達が出会うのは話の展開上必要なのは解るのですが 討伐区域であったシュツェ領方面のCランク区域と、ミヅキがいたヴェルソー領方…
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