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幕間(8)−1

日が昇りきった頃に王宮を出発し馬で1時間かけて僕たちはローレンの森に到着した。


僕たちの護衛にヴィエルジュ騎士団8名、上級魔法師6名、近衛騎士7名、王国騎士10名の31名もいる。王国騎士の数が多いのは対魔獣戦のプロでもあるからだ。騎士は皆鎧を身に着けており、上級魔法師も階級を示す青紫色のローブを羽織っている。


今回各団に副団長が同行している。王国第1騎士団副団長のセオドリク・オルグレン伯爵、35歳。第1騎士団は主に王都周辺の警護をしている騎士団だ。魔法師団の副団長はアシュレイ・リード子爵、30歳。この人はあの魔法師団長の代わりに色々雑務をこなし、時には魔法師を連れて討伐にも赴くため経験豊富だ。そして近衛騎士団副団長のアラン・セーヴィン伯爵、32歳。殿下の護衛騎士だ。最後に、ヴィエルジュ騎士団からは僕の護衛騎士である第1騎士団の副団長イヴァン・マイヤー伯爵子息、29歳。


西門を抜けてからの道中、隣りにいたリュシアンが「俺は来月から近衛騎士だからこういう経験ができることは貴重なことだ。改めて同行できることに礼を言うよ」と、笑みを浮かべて言った。


近衛騎士団長の息子であるリュシアン・レーヴェは僕とアンリと同じ殿下の側近で、殿下の従兄でもある。王妃様がレーヴェ近衛騎士団長の姉だから。硬質的で端正な顔は一見近寄りがたい印象を受けるけど、一度懐に入れると面倒見の良い兄みたいな感じになる。実際3つ年上の17歳で今月学院を卒業し、近衛騎士団に入団するための試験に合格したため来月から近衛騎士として殿下付きの護衛に正式になる。


また近衛騎士は王宮と王族警護の騎士であるため、対魔獣より対人に特化した戦い方をする。でもここ最近というか20年くらい前から、「女神の化身」がいない状況の中万が一結界が破れた場合、魔獣が王都を襲うことを踏まえて対人戦だけでなく魔獣との戦い方も訓練している。


馬から降り、騎士に馬を預け森を見上げる。黒っぽい緑の(いびつ)な木々はそれだけで不気味さを醸し出している。


握り締めた手が冷たい。ディアナへの焦燥感からここに来たけど、邪な思いを抱えたままでは父上から与えられた課題は成し遂げられない。


僕は息を吐き出し、そして身を引き締めた。


「ノア様、収納袋はお持ちですか?」


護衛騎士のイヴァンが話しかけてきた。


「ちゃんと持っているよ」


家紋が刺繍された緑色の風竜のマントの中でウエストベルトに取り付けてあるポーチ型の収納袋に触れる。中にはポーションなどの回復薬と討伐に便利な魔道具、軽食などが入っている。


イヴァンが頷いた。


「では皆準備ができたようなので参りましょう」


あくまでも僕の魔獣討伐に殿下たちが同行する形なので、僕たちヴィエルジュ家が主導で行なう。なので先頭を僕含めたヴィエルジュ騎士団、真ん中を魔法師と近衛騎士で殿下・アンリ・リュシアンを挟む形で進み、殿(しんがり)を王国騎士が務める。


鬱蒼と茂る森の中、シュツェ領方面のCランク区域を目指す途中で現れた低級魔獣をヴィエルジュ騎士団が難なく討伐していった。僕も肩慣らしで討伐に加わったりした。森の外側に近いところには高ランク魔獣はまだいないようだった。


あらかじめギルドに僕たちの討伐ルートと区域を知らせておいたので、今日冒険者たちはこの辺りを避けて依頼を行っている。なので僕たち以外に人は見当たらなかった。


そろそろCランク区域に差し掛かろうという時、上空から禍々しい魔力の気配がした。甲高い魔獣の咆哮が聞こえる。


皆一斉に上を見上げるも、生い茂った葉で遮られ視界が悪い。おそらく大勢の魔力を感知して大型の飛行系魔獣がやってきたんだろう。魔力遮断ができる者とできない者がいるからだ。


「ノア様、あちらに抜けられます」


イヴァンが指した方向が陽の光で明るくなっていた。ここから50mくらいの距離だ。


僕は頷いて、後方の皆に手振りで向かう方向を示した。近衛騎士のセーヴィン副団長が収納袋から魔道具を取り出し起動すると、この場にいる全員の魔力が遮断された。この魔道具は起動した者を中心に半径50m以内にいる者の魔力を遮断できるけど、5分しかもたない。


急いで明るい場所に向かう。


辿り着いたそこは空が十分見える程の開けた場所だった。うちの騎士団の訓練場くらいの広さがある。


「ここで迎え討とう。魔獣を撹乱(かくらん)させている今のうちに配置についてください」


前衛は僕たちヴィエルジュ騎士団だ。北からさっきの大型の飛行系魔獣の魔力の気配がする。魔力が高いのでAランクかもしれない。


「殿下をお守りしろ!」


セーヴィン副団長が近衛騎士たちに指示する。殿下の周りに近衛騎士が並び、魔法師たちは殿下の後方に配置した。その後ろを王国騎士たちが魔法師たちを囲むように展開する。アンリは殿下の左側、リュシアンは殿下の右側にいる。


「スキルを使うから、魔法師の皆よろしく頼んだ」


殿下が後方を振り返って言った。


リード副団長が「ありがとうございます」と言うのが聞こえる。


殿下のスキルは「魔力増幅」。スキル発動中は殿下の半径10m以内にいる者の魔力を増幅させ魔法の威力を上げる特殊スキルだ。もちろん殿下自身の魔力も増幅する。効果時間は殿下の体力値に比例するけど、今の段階では10分程度と聞いている。陛下のスキルは公にされていないけど、殿下のスキルは実戦で大いに使えるもののため公開されている。ちなみに騎士の戦い方である剣に魔力を纏わせる場合もスキルの効果はある。なので殿下の近くにいる者――セーヴィン副団長、アンリ、リュシアン、近衛騎士2人と魔法師6人がスキルの対象者になっている。


「魔道具が切れるぞ! 皆引き締めよ!」


セーヴィン副団長が皆に聞こえるように声を出す。魔道具が切れたら魔獣にすぐ気づかれるので、もはや声を抑える必要がない。


そして魔道具の効果が切れ、皆の魔力が感知できるようになった。僕も遮断していた魔力を解放した。


すると魔獣の咆哮と翼がバサバサと鳴る音が北の上空から響き、それはすぐ僕たちの前に姿を現した。


「グリフォン!!」


Aランクの大物だ。まだこの辺りはDランク区域なのに本当にAランク魔獣がいるなんて。


グリフォンは鷲の前半身と獅子の後半身の姿をしており、体調はおよそ3mと大きい。そして翼を使って風属性魔法を放つ。


グリフォンは僕たちを見つけるとすぐ風魔法の攻撃を仕掛けてきた。暴風が吹き荒れる。


けれど魔道具が切れる直前、既に詠唱をしていた上級魔法師による『火炎(イグニス)』『水砲(ローバトレ)』の攻撃がグリフォンの攻撃とぶつかった。


殿下の増幅スキルの影響で魔法師たちの攻撃力が増し風魔法が押される形になっている。そして時間差での『崩落(ロシュヘレス)』の攻撃でグリフォンの頭上からゴツゴツした岩が数個なだれ落ちてくるも、グリフォンはそれを素早い動きで避け続ける。


グリフォンが上空にいる限り僕の出番は来ない。


「翼を狙って!」


リード副団長が魔法師たちに指示し、2人の魔法師が先程の3人による攻撃の合間に詠唱し終え、そして『火炎(イグニス)』のダブル攻撃でグリフォンの翼めがけて魔法を放った。


炎が片翼に命中し、落下するところを前衛のヴィエルジュ家の騎士が剣でグリフォンの前足を斬りつけようとするが避けられ、カウンターで鋭く尖った爪の攻撃を騎士に浴びせるが騎士もそれを躱す。


すると突然後方から別の魔獣の魔力を感知した。しかもかなりの数だ。


「後方から何か来るぞ!」


殿下も気づいたのか後衛にいる騎士たちに伝えると、獰猛な唸り声が後方の奥の茂みから聞こえた。


「ローレンヴォルフです!」


王国騎士団の一人が叫ぶ。ローレンヴォルフはローレンの森にしか出現しない狼の魔獣で、体長は1.5mで鈍色の鋼のような硬い毛並みに覆われているため刃が通りにくい上に動きが速く、しかも牙と爪には毒がある。群れて現れるため個体はCランクでも討伐には骨が折れる厄介な魔獣だ。


「なっ、8体もいるぞ!」


それを聞いて僕はすぐさま指示を出した。


「グリフォンは僕たちヴィエルジュ家が倒すので、皆さんはローレンヴォルフを……!」


言い終わらない内にグリフォンが獅子の脚力で前衛の騎士たちを飛び越え僕に向かってきた。

長くなりそうなので、2つに分けます。

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