52.いつフラグが立ちました?
黒っぽい葉の隙間から太陽の位置を見るにそろそろ正午になる頃だ。
オルトロスとワイバーンとガルーダを討伐し終え、どこかで休憩しようと開けた場所を探す。
ここが良いかな。
私は黒っぽい芝が生い茂ったテニスコート4面分くらいの広さの場所を見つけ、木陰に腰を下ろした。これだけ広いならいきなり魔獣が来ても対処できる。ちょっとシュツェ領側に近いけど。オルトロスがあちこち移動しながら攻撃してくるからいつの間にかこっち側に来ちゃったのよね。でも私は魔力感知ができるし、集団で動いている魔力が近くにいたら離れれば良いし、お腹空いたし。
収納魔法でサンドイッチを取り出し、豪快に頬張りながら私は黒緑色の芝を眺めた。
魔獣がいなかったらここでバーベキューでもできそうね。芝の色がちょっと不気味だけど。
サンドイッチを食べ終え水分補給をしていると、上空が何やら騒がしい。魔獣の鳴き声がたくさん響いている。
なんだろうと思い、両目に魔力を込め上空に向けて目を眇めると、飛行系の魔獣たちが結界に体当たりしているのが見えた。
範囲を広げて見ると、その現象は森のあちこちで起きているようだった。
え、何これ。 突進して結界を壊そうとしているの?
結界に触れたせいか中低ランク魔獣たちが少しダメージを受けているのが見えて私は目を瞠った。
結界にそんな効果があったなんて。でもどうして急に魔獣はこんな行動を? てかこの体当たりがずっと続くようじゃ結界の崩壊が早まる可能性もあるってことよね。それは大変だわ。まだ浄化魔法ができていないのに。
私はそうはさせないと、上空に向けて有効射程距離内にいる魔獣の翼めがけて『火炎』を放った。中級魔法でも私の場合普通より威力があるため中低ランクの翼程度なら一撃で消し炭になる。
翼にどんどん命中していき、飛行系の魔獣が地面に落下する音が轟く。
冒険者の皆さん、弱っている内にじゃんじゃん討伐していってください! 誰もいないかもだけど、もしいたら!
ところが、私の魔法が大型の魔獣の翼に当たったものの、落下せず咆哮をあげ怒った様子で私の方に向かってきた。
げっ、キメラじゃん! こいつホント倒しづらかったのにまた!
キメラは獅子の上半身と山羊の下半身、蛇の尾、竜の翼を持つ合成魔獣だ。大型で火属性魔法を使い強靭な体をしている上に素早い動きをする厄介な魔獣だ。Aランクだけど、実質AとSの間くらいだと思う。
キメラは魔法抵抗が高くて魔法だけだと倒すのに時間がかかるのよね。
私は収納魔法で愛用の剣を、抜き身の状態で取り出した。
まずは飛ばせないようにしなくちゃ。
キメラは上空から私を見つけると、口から炎を吹いてきた。初手で上空からのキメラの炎攻撃は前回と同じだ。そう来ると思い、私はそれを氷の壁を造り回避する。
そして身体強化で氷の壁に登りそこから上空へ飛び上がった。
両腕を振り上げキメラの獅子の首を切りつける。
ああ、ダメか!
オリハルコンの刃はよく切れるけど強靭なキメラの首を落とすまでとはいかなかった。
身体強化を使ってもこれだから単に私が非力なだけなのよね。ちなみに私は剣に魔力を纏わせていない。ほとんど魔法を使うから魔力がもったいなくて。
でもキメラが一瞬怯んだところを見逃さず、
『氷の息吹』
と、左手でキメラの翼と蛇の尾目掛けて魔法を放ち、地面に着地した。蛇の尾も凍らせたのは蛇の口から毒霧を吐かれるのを防ぐためだ。
翼が凍りついたため飛行能力を失ったキメラは落下し、その勢いで地面が割れた。
でも強靭な体は落下程度ではあまりダメージを受けない。着地した途端電光石火のように私の周りを駆け回った。首から黒っぽい血がしとどに流れているのに俊敏だ。
突進か炎か……ああ、『浮遊』使いたい……どうせSランクになったのなら3属性で登録すれば良かった。はぁ、仕方ない。結構魔力消費しちゃうけど。
『氷の海』
私は荒廃した芝生一面に氷を張った。氷が張るスピードは速く、俊敏なキメラも氷に前足を取られた。
キメラが氷を溶かそうと口から炎を吹く動作をする。
そうはさせまいと、私はすぐさまキメラの真上に青い魔法陣を出した。
『氷柱』
魔法陣から真下のキメラに向かって太くて尖った氷柱がドスドスと勢いよく落ちる。
お腹の底に響くようなキメラの叫びに一瞬怯むも、留めを刺しに足の裏に火魔法を纏わせながら剣を持つ手に力を入れて駆け抜け、先程斬りつけた同じ箇所に再度斬りつけた。
赤黒い血が飛ぶ。獰猛なキメラの首が冷たい地面に転がった。
ふう、この前よりかは短時間で倒せたわ。てか返り血を浴びちゃった。マントは防御魔法のおかげで汚れひとつないけど顔に少し付いてしまったから、後で水魔法でキレイにしよう。
持っていた剣を収納魔法でしまい、MPポーションを取り出しひとまず魔力を回復させた。
さて、素材を回収しなくちゃ……ん?
キメラを倒すのに夢中で気が付かなかったけど、この魔力の数……もしかしていつの間にか魔獣の大群に包囲されてる!? ……あれ、でも知っているような魔力も感じる……?
すると、50m程離れた向かいの茂みから物音がした。
ぱっと臨戦態勢に入ると、茂みから出てきた人たちに私は言葉を失った。
出てきたのはお兄様とユアン殿下たち討伐隊で、皆呆然と私を見ていた。
なっ、なんでっ!!??
ミヅキが休憩をとった場所の描写がなかったので修正しました。
よろしくお願いします。




