51.お兄様たちがローレンの森に行くようです
私が冒険者活動を始めて1週間程経ったある日、冒険者たちの間でお兄様とユアン殿下たちがローレンの森に魔獣の討伐に行くという噂が流れた。まさかと思っていたその日にお父様からの手紙でその噂が本当だと知らされた。
お兄様が討伐に行くのはヴィエルジュ家の次期当主として騎士団を率いていく経験を積ませるためだとか。そこはすごく理解できるわ。次期当主はお兄様しかいないし。……殿下たちも行くのはちょっと解せないけど。
メンバーを見て思い出したんだけど、アンリにダンスに誘われたのよね。初めてアンリから手紙が届いたと思ったら殿下の誕生パーティーでのダンスに誘われるとは予想外だったわ。でも私のエスコート役はお兄様だからお兄様にアンリと踊っても大丈夫なのか一応聞いたら、クスリと笑って「殿下の後なら問題ないよ。ただし、一度だけだからね」とか「この際だからアンリ以外とも踊ったら」とも言われた。私のファザコンぶりが心配らしい。
てか私って殿下とも踊らないとなのか。きっと婚約者候補だからよね。はぁ、気が重いけど殿下に恥をかかせないようにダンスの練習をしなくちゃ。アンリと踊るのはなんだか気恥ずかしいけど、手紙を読んだ後すぐOKの返事を出した。
それはさておき。
お父様の手紙にはもう一つ衝撃的なことが書いてあった。なんと剣術と魔法の闘技大会に私も出場しなければならないということ。なんでやねんって思わずお父様の手紙にツッコミを入れてしまったわ。史上初のSランク魔法使いになって陛下と魔法師団長に興味を持たれてしまったせいなんだとか。登録時の自分に戻りたい。
優勝すれば褒美をもらえるみたいだけど、目立つことは極力避けたい。ただでさえSランクになっちゃって目立っているからね。出たくないけど、王命らしいので出るしかない。優勝は狙わず程々にして負けようかしら。
そしてその2日後の今日。とうとうお兄様たちの魔獣討伐の日がやってきた。お兄様は私より早く起きてもう王宮に行っちゃったみたい。お見送りしたかったけど、前日の晩餐で頑張ってと伝えられたから良しとしよう。
お父様の手紙にも書いてあったけど、お兄様たちとの遭遇を恐れるなら私が行かなければ良い話だ。でも思ったより高ランク魔獣が低ランク区域に多くいて冒険者たちが大変そうにしているのよね。森は広いし、お父様から教えられたお兄様たちが行う討伐区域に近づかなければ遭遇しないんじゃないかな。
大丈夫でしょと自分に言い聞かせて、いつものようにディアナ2号に後をお願いし私は冒険者ミヅキに変身した。この姿にももう慣れたわ。背が伸びて手足も長くなったから剣の扱いに最初戸惑ったけどそれももう慣れたし。
収納魔法で紺色のマントを取り出して羽織り、ブルーホーンディアの魔石のピアスを両耳につけ、指輪も左中指にはめた。
この魔石の色は青から金色に変わっている。お店で受け取ってから、私が魔石に魔法を付与したのだ。付与スキルはないけど魔法創造スキルで「魔法付与の魔法」を創ってみたら出来たのだ。うふふ。
何の魔法を付与したのかというと、それは転移魔法だ。乗合馬車を回避するために2回転移しなくちゃいけないからね。1回分をこのピアスと指輪で賄うということだ。あとこれはMPポーションの節約も兼ねているのよ。1日に何本も飲むと中毒を起こしちゃうから。
さてそれでは、いつものカフェの路地に転移しますか。
セレーネギルドでいつものAランク魔獣の討伐依頼を受ける際、受付のお兄さんに「本日は王族の方々が討伐に行かれますので討伐区域には立ち入らないようお願いします。区域はあちらのボードに張ってありますのでご確認を」と伝えられた。言われるまでもなく近づかないので大丈夫ですよ。
ギルドを出て、西門近くの人気のない路地からピアスと指輪を使って森の中に転移をした。
えーっと確かお兄様たちはシュツェ領方面のCランク区域で討伐するから、私は反対側のヴェルソー領方面でやろうかな。そうすれば会わないものね。冒険者たちが多そうだけど、しょうがない。
私はスキルで創った探知魔法を発動した。
ふふふ、これがあればどこに魔獣がいるか一目瞭然なのよ。いちいち探すのが面倒になってこれも創っていたのだ。
Aランク魔獣はAランクのギルドカードと同じ色の金色に点滅するようにしている。その他の魔獣のランクもギルドカードの色で分けている。こうしてみると金色の点滅が元々のAランク区域よりも外側に分布していることがわかる。
どこが一番近いかな。あ、これにしよう。
私は今いるところから300m程先にいる金色の点滅に向かって歩き出した。もちろん魔力遮断をしながら。
長くなりました(^_^;)




