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50.ディアナ2号の午後(2)

その後もリリアから他の令嬢や令息の噂話を聞いていると、ノック音と共に「ご歓談中失礼致します」とシェリーの声が聞こえた。


「アンリ・ベリエ様がお見えになられております」


扉を開けてシェリーが伝えると、リリアがため息をついて「もう王宮からお戻りになったのね」と言って仕方なく立ち上がった。


「でもディアナとたくさん喋ってスッキリしたわ。突然押しかけたのに話をしてくれてありがとう、ディアナ。これ以上迷惑をかけないように大人しく帰るわ」


私は笑みを浮かべた。何故か憎めないのよね。勝手にスキルを知られたのに。


『下まで送るわ』


玄関ホールに降りると、そこにある高級感漂うソファにアンリとお兄様が並んで座っていた。王宮から一緒に来たのかな。それにしてもアンリと会うのは久しぶりだわ。イケメン度が増してる。お兄様と並ぶと相乗効果で背景にキラキラが舞っているように見える。


リリアがソファに近づく。私はリリアの後ろの方でその様子を見る。


「お兄さま。もうサボりませんから、お兄さまも怒らないでくださいね」


「……」


「……お兄さま? ぼうっとしてどうしました?」


なんだろう、アンリの様子が変だ。ん? 私を見てる……?


「……アンリ、僕の妹に久しぶりに会って見惚れるのは仕方ないけど、今は君の妹の話を聞かないと」


お兄様が苦笑してアンリを小突く。てか見惚れるって……さっきリリアが私とアンリとの婚約がどうのって話をしたせいか、妙に恥ずかしくなってきた。


「……え、あ……すまない。なんだ、リリア」


「はぁ、お兄さま、あからさま過ぎですわ……ちゃんと王子妃教育を受けますからもう怒らないでって言いました」


「ああ、わかれば良いんだ」


瞬間、リリアのこめかみに青筋が浮かんだ。


「そうだわ、お兄さま。ディアナの好きな異性のタイプ、聞きたくありません?」


『えっ』


なんか飛び火した。リリアの笑顔が怖い。


「なんだ急に」


アンリが訝しげな顔をする。


「僕も気になるな。でもここだけの話にしてね。一応ディアナは殿下の婚約者候補だから」


え、なんで私の好きなタイプを言う流れになってるの? 修学旅行の女子部屋みたいな感じになってるよ。まぁタイプくらい良いけども。


『そうですね……強くて、頭が良くて、背が高くて、物静かで、気遣いもできて、先回りして色々手を回したり、面倒見も良くて、怒る時はちゃんと怒ってくれて、あと周りから尊敬されるような人……って、あれ、ぽかんとしてどうしました? ちょっと多かったかしら』


「……ディアナ、それって父上じゃない?」


あ、そうかも。私ってファザコンだったわ。だってあんなハイスペ他にいないじゃない。お母様が羨ましいわ。


「……帰ろうか、リリア」


ため息をこぼし、何だかちょっとげんなりした様子でアンリがソファから立ち上がり扉に向かう。リリアが苦笑いを浮かべながら後を追った。


「え、ええ、そうですわね。なんだか申し訳ありません、お兄さま」


アンリは私とお兄様を振り返った。いつも通りの取り澄ました顔に戻っている。


「じゃあな、ノア、ディアナ。リリアが世話になった」


「またね、ディアナ」


ベリエ兄妹を見送った後、お兄様は息をついて私に言った。


「父上が凄すぎて他の異性に目が行かないことはわかるけど、色々妥協しないと将来結婚生活が上手くいかなくなると思うよ」


少し呆れたようにそう忠告してお兄様は階段を登っていった。


結婚かぁ。正直今それどころじゃないからあんまり考えられないのよね。私の好きなタイプに当てはまる人なんてお父様以外いないなんてことはわかってる。浄化が終われば私もちゃんと考えられるようになるのかな。


てか最近お兄様、周りに誰かいる時はそうでもないんだけど、私と2人になった時ちょっと素っ気ないのよね。私何かしたかしら。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


公爵家の馬車の中、リリアと向かい合って座り、窓の縁を支えに頬杖をつき外を眺める。昼間は晴れていたのに、今にも雨が降り出しそうな空だ。


「まさかディアナが辺境伯様のような人が好みだとは知らず……お兄さまに少し仕返しをするつもりが余計なことをしてしまいましたわ」


リリアが申し訳無さそうな顔をする。


ディアナの好きな異性のタイプについて、俺はどこか期待していた。でもまさか辺境伯のような人だとは。幸か不幸か該当する者は辺境伯しかいない。だが……


「……ディアナは俺を兄としてしか見ていない」


「ノアと区別させるために一人称と口調を変えましたものね」


「……」


リリアが幼い頃はただ単純な妹と思っていたが、いつの間にか周りをよく見るようになった。


「わたくし、ディアナには脱帽しましたわ。お兄さまも引く手数多なのに。でもお兄さまを身分と見た目でしか見ない令嬢に比べたらディアナは断然良いと思いますけど」


「……そうだな」


俺に群がる令嬢は次期公爵夫人の座を狙った打算的な者がほとんどだ。この顔が好きと言う令嬢も多くいた。だが絶世の美貌を持つ辺境伯と、豊穣の女神のように美しい辺境伯夫人に似たノアを常に見ているディアナには、周りからもてはやされるこの顔は大して役には立たない。


「こうなったらディアナに意識してもらうためにも、殿下の誕生パーティーでディアナにダンスを誘ってみてはどうですか? ディアナもわたくしと同じでその日が社交デビューですし。あ、事前に誘わないとダメですよ。『中々姿を見せない、銀月の君の愛娘』がついに公に姿を現すのですから、お近づきになりたい令息なんてその辺にうじゃうじゃいますわよ」


確かに俺のようにディアナに見惚れる者や気を引きたがる者が多くなる。久方ぶりに見たディアナは成長したからか以前にも増して輝いて見えた。佇まいも辺境伯夫人のように気品があった。まさに銀月姫と呼ばれるに相応しい。


いつからか少しずつ芽生えいていた感情が、あの瞬間露になった。


俺だけを見てほしい。


頬杖をついていた手で両目をおさえた。


リリアの助言に納得した俺は、後日ディアナにダンスの誘いの手紙を送り、了承の返事に胸が締め付けられた。

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