49.ディアナ2号の午後(1)
転移で自室に戻ると、2号がソファでくつろいでいた。
『おかえり』
「ただいまー。さっそくだけど、なんでリリアが来たの?」
私は聞きながら変身を解いて「ディアナ」に戻り、2号の隣に座った。
『あー、なんか息抜き的な?』
「息抜き? 私またリリアとアンリが喧嘩でもしたのかと思ってた」
『まぁでもそんな感じかな。リリアが王子妃教育を何度かすっぽかしていたのがアンリにバレて、めちゃくちゃ怒られたから、その愚痴?』
愚痴かい。でもアンリがめちゃくちゃ怒っているのはなんか想像できないな。艷やかイケメンだし。てかリリア、王子妃教育を受けているのか。そりゃそうだよね。ユアン殿下の最も有力な婚約者候補だもん。私は可能性低すぎて全くそんな教育を受けていないけどね。
「ところで、さっきリリアたちって言ってなかった? 他に誰か来てたの?」
『私が話すより、分身魔法を解いた方が早いと思う』
「確かに」
2号にじゃあまたねと手を挙げて分身魔法を解いた。
その瞬間、今日一日2号が経験した出来事が頭の中に流れてきた。
「ふむふむ……えっ」
☆☆ミヅキが討伐に出ている間のディアナ2号☆☆
「はぁ、もうお兄さまったらひどすぎだわ。わたくしだって頑張ってるんだから、たまにサボるくらい良いじゃない、ねぇ」
『大変なのね、王子妃教育って』
自室のソファで向かい合って座りお茶を飲む。突然来たと思ったらリリアの愚痴が始まった。
「他人事だと思っているようだけど、ディアナも殿下の婚約者候補なのよ? なんで教育受けてないの」
『だって5人の中で一番可能性低いし』
「そんなのずるいわ。ディアナ以外皆受けているのよ。しかもあなた招待されても全っ然お茶会とか行かないから他の候補者たちに舐められているわよ。特にレリア嬢に」
『レリア嬢……ああ、シュツェ侯爵令嬢ね』
なんで彼女に舐められているのかしら。まだ会ったこともないのに。
「彼女には気を付けてね。昔から殿下が大好きで婚約者の座を狙っているから。他の候補を蹴落とそうと必死よ」
『そうなんだ』
「ほんと他人事ね。まぁその方がお兄さまにとっては良いけど」
最後のひと言は声が小さすぎてよく聞こえなかった。
「はぁ、このままだと殿下の婚約者候補は実質わたくしかレリア嬢だわ。他の2人も家は婚約者になれるよう頑張っているけど本人たちはあまりその気がないみたいだし」
……フィリア嬢は今もお兄様狙いなのかしら。
お茶会に出ない私に、こうしてリリアは他の令嬢たちのことを教えてくれる。それがあるから私はお茶会に出なくてもいっかってなっているのは黙っていよう。
『レリア嬢に負けないように頑張ってね』
「大丈夫。『女神の化身』の瞳を持っているくせに大したスキルを持っていないから、あの女には絶対負けないわ。昔の雪辱を果たすんだから」
『え、レリア嬢も『女神の化身』の瞳を持っているの?』
「そうよ。3人目と同じ蜂蜜色」
シュツェ侯爵家は3人目の「女神の化身」の血筋だから、リリアみたいに同じ色の瞳を持っていてもおかしくない。だから候補に選ばれたのかな。5歳のときに出席した王妃様のお茶会にレリア嬢は欠席したからまだ会ったことないけど、もし会ったら特殊なスキルに気をつけなければならないわね。
あれ、でもリリアはレリア嬢は大したスキルは持っていないって言ってたわね。じゃあそんなに警戒しなくても良いのかな。でもなんでそんなことを知っているのかしら。
『大したスキルはないってなんでわかったの? レリア嬢が明かしたの?』
スキルは秘されることが多いって聞いたから不思議に思って尋ねると、ばつが悪そうな、申し訳無さそうな顔をした。
「ディアナに前から言おう言おうと思っても中々言い出せないことがあって……」
『え、何?』
桃色の瞳がせわしなく泳いでいる。なんだろう、気になる。
「じ、実は……わたくし、相手のスキルがわかるスキルを持っているの」
相手のスキルがわかるスキル……?
『……えっ』
え、すご。さすが「女神の化身」の血筋だわ。でも今普通に自分のスキル明かしちゃったけど、良いのかしら。
『ああ、それでレリア嬢のスキルを知っているのね』
「……」
『リリア?』
浮かない顔をしている。そしてちらちらと私を窺うような視線……まさか。
『……もしかして、私のスキルも?』
「……っ、ごめんなさい! つい興味で……」
げっ!
『それはいつ?』
「……王妃様のお茶会で初めて会った時。ほら、一緒にソファでお話したでしょう?」
私は思わず天を仰いだ。
あの時か! 全然気づかなかった! 魔力を遮断していてもスキルがわかるなんて、チートスキルだわ。ステータス改ざんしていて本当に良かった!
「ディアナに身体強化だけってちょっと意外に思ったけど、ノアは物理攻撃耐性スキルを持ってるし、さすがヴィエルジュ家って思ったわ。あ、決してディアナがすごくないって言っているわけじゃないからね」
『お兄様のまで知っているのね』
「わたくしの体力的にあの時は2人が限界だったから、あの美貌の銀月の君の子共たちはどんなスキルを持っているんだろうって、わたくしもお兄さまも興味があって」
アンリも知っているのか。でもまぁ、知られたスキルは別に特殊でもないから良いんだけど。はぁ……
私はティーカップに手を伸ばした。
「言い訳になるけど、まだ幼かったし、ちゃんと分別がつかなくて興味本位でスキル使っちゃたけど、今はもう誰のスキルも見ていないわ。8歳のときかしら、ここにお兄さまと遊びに来た時、たまたま辺境伯様もいらしててご挨拶した時があったでしょう? あの時わたくし、辺境伯様のスキルを見ようとしたの。弾かれちゃったけど」
『え!!』
衝撃的な事実だ。驚きすぎてお茶をこぼしそうになったわ。てかスキルを弾く? もしやそういうスキルをお父様はお持ちなのかしら。
『勇気あるわね。お父様に気づかれたんじゃない?』
「今でも忘れないわ、あの氷のような冷たい眼差し……子どもに対して容赦なさすぎよ。他人のスキルを見ようとしたわたくしが悪いのだけど。そのことがお父さまに知られてしまって、使う相手を間違うなって怒られてしまったわ。あとお父さまはお兄さまとディアナの婚約を辺境伯様に打診しているから、辺境伯様の心象を悪くするなとも言われたわ」
あの時にそんな殺伐とした雰囲気あったかな。いやそれよりも。
『待って、私とアンリが婚約?』
「ええ、そうよ。殿下の婚約者候補だからそれを理由に断られているけれどね。でもお兄さまは満更でもないわよ。ふふふ、ディアナの将来は公爵夫人かしらね。もしそうなったら、わたくしと姉妹になるわ! そのためにも、わたくしは殿下の婚約者にならないとね。そう思ったら地獄の王子妃教育も頑張れそうだわ」
えぇぇ……私がアンリと……? あまり想像がつかないな。私にとってアンリはもう一人の兄みたいな存在だし。でも貴族令嬢は家のために将来誰かと結婚しなくちゃだから、もしするなら幼い頃から親しくしているアンリが良いかもだけど……でも私は今のところ家族以外で男の人はアンリくらいしか交流がないからそう思っているだけかもしれない。やっぱり他の貴族ともっと交流を持つべきなのかしら。殿下の誕生パーティーで交流を広げてみようかな。私にできるかわからないけど。
主な登場人物の名前が似ている点について明記しておきます。
登場人物の名前は英語圏の名前を参考にはしておりますが、ルナヴィアの言語を考えたときにちょっと特性を入れたいと思ったため、名前の語尾に「ア」の音を使っております。似ているため読みづらくて申し訳ありませんが、ご理解頂けると嬉しいです(^^)




