47.寄り道
屋台で串焼きを買い食いした後、私は宝石店に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
身なりの良い壮年の男性店主は、客が冒険者でも態度を変えない。ここの宝石店は一般庶民も手に入りやすいくらい比較的安価なものを主に取り扱っているけど、加工技術は貴族が買うような高級な宝石に引けを取らないことで城下では有名なお店だ。なんでも業者を間に介さず買付も加工も全てこのお店が行っているからだとか。以前シェリーにこういうお店があると教えてくれていたのを覚えていた。
ガラスケースの中に色とりどりの宝石が輝きを放って並んでいる。こうして眺めていると、確かにうちにあるような宝石にも負けず劣らずの加工だ。
「お手にとってご覧になりたい時はお申し付けください」
ガラスケース越しに店主が恭しくそう言うと、私はマントの中に手を入れてそこから収納魔法でブルーホーンディアの角を1本取り出した。大きくて重たいので床に杖のように立たせた状態で店主に見せた。
「この魔石の加工はできるか? 装飾品にしたいのだが」
男性店主は一瞬驚いた後、まじまじと青い角を眺めた。
「これは……もしやブルーホーンディアの角ですか? こんな立派なものは初めて目にしました。これを装飾品にしたいと?」
「ああ、ピアスと指輪にできるか?」
「もちろん、可能ですよ。デザインなどは決めておられますか?」
「紙があれば描こう」
そう言うと店主は紙とペンを用意してくれた。
お母様の礼儀作法の授業の中に刺繍のレッスンがあるので絵を描くのは慣れている。私はピアスと指輪の絵を描きながら店主に説明した。
「ピアスはドロップカットで4cmくらい。留め具やこのチェーンの素材は銀で。指輪はオーバルカットで石座やリングが銀であればデザインは任せる。それと予算は気にしなくて良い」
店主は暫くの間私が描いた絵を真剣な目で眺めた後、「承りました」と了承した。
左手の中指のサイズを測った後、私は加工に必要な部分だけ角をオリハルコンの剣でさくっと斬り店主に渡した。礼儀正しい店主が目を点にしていたのがちょっと面白かった。
1週間程で完成するとのことだったので1週間後の同じ時間にまた来店すると約束し、私は店を後にした。
用事が済んだのでそろそろ屋敷に帰ろうと、ひと目につかない場所を探す。もう転移分の魔力は回復した。
あ、念の為2号に連絡しとこうかな。
〈2号、今から部屋に戻っても大丈夫?〉
……あれ、応答がない。聞こえなかったのかな?
〈おーい、ディアナ2号〉
《はいはいごめん! 今リリアとお茶してて。で、何?》
〈え、リリアとお茶?〉
そんな約束はなかったはず。
《急に来たのよ》
あら、またアンリと喧嘩でもしたのかしら。って、それよりも……
〈来たって、どこでお茶してるの?〉
《私の部屋》
〈えっ、帰れないじゃん! てか危な! 連絡して良かったぁ〉
《そっちは終わったの? こっちはまだだからあと30分くらい時間潰してて》
〈えー〉
はぁ、30分も何しよう……って、あ!
〈ねぇ、ちゃんと魔力遮断してる?〉
相手は「女神の化身」を輩出したベリエ家のリリアだ。友達だけど、私は今でも家族以外と会う時は魔力を遮断し続けている。
《大丈夫、してるよ》
〈よかった。じゃあリリアが帰ったら教えてね〉
《はーい》
2号と念話を終え、ぶらぶらと街を歩く。
王都セレーネは二重の分厚い塀に囲まれ、主要な南門と魔獣の森に続く西門と東門がある。最近ではさらに塀を外側に増やすのか王都の周りはどこも工事中だ。そして王宮を囲むように堀と高い城壁があり、その周りは貴族の邸宅でさらに囲まれている。その貴族街も外側は高い塀で囲まれ、南には立派な石門がある。その石門からまっすぐ王都の南門まで伸びた幅広の長い道がセレーネ通りという主な通りになっている。その通りに冒険者ギルドや商業ギルド、さっき寄った宝石店、飲食店などが並び一番賑わっている通りだ。そしてその通りのちょうど真ん中を中心に東西に伸びるもう一つ大きな通りがある。小さいけど他にもたくさん通りがあり、上から王都を見れば碁盤の目のようになっている。
十字路の一角にある広場のベンチで待っていようかと思ったけど、人がたくさんいて座る場所もどこも空いていなかった。仕方なく私はセレーネ通りを逸れ、広場から100mほど東に進んだ。ルナ神殿の尖塔がふと目に入ったからだ。
私は神殿で時間を潰そうと決めた。
2話続けて投稿します。




