43.冒険者始動
翌朝。
よく晴れた春のまばゆい日差しが照らす自室で、私はディアナ2号に後を頼み冒険者ミヅキに変身した。
今日から冒険者活動を始めるわよ!
準備は万端だ。
昨日ギルドから自室に戻ってさっそくスキルで収納魔法を創った。空間に物をしまうやつ。中には剣とマントとお金とギルマスにもらった魔道具、各ポーションとか毒消しとか状態異常を治す薬とかも入れた。ギルマスがよく準備をしろって言ってたからね。あと小腹が空いたときのおやつも入れといた。これ大事。
2号も特に問題なかった。大叔父様との授業もいつも通りできていた。経験がオリジナルに還元されるから昨日の授業内容も頭に入っているし、誰とどんな会話をしたとかもまるで私が経験したかのように思い出せる。分身魔法って素晴らしい。
空間から紺色のマントを取り出し羽織る。
「じゃ、行ってくるね!」
『気を付けてねー!』
またギルドの路地裏に転移してギルマスに驚かれるのも面倒だから、ギルドから500mくらい離れたところにあるカフェの路地に転移をした。ブルーグレーを基調とした建物で、女性に人気のおしゃれなカフェだから覚えていたのだ。今は開店前で閑散としている。
路地を抜けて大通りに出る。街中に漂う屋台料理の匂いが鼻をくすぐる。朝食は食べてきたから今は大丈夫だけど、討伐が終わったらお腹空いているだろうし、あとで買い食いでもしようかな。
ギルドに向かって道を歩いていると、すれ違う女性たちから二度見され、皆頬をピンクに染めている。ただ女性たちは私に近寄りがたい雰囲気を感じてか、見てくるだけだ。
私、お父様の雰囲気の演技ができているんじゃない? このままこの調子を保とう。
ギルドに着くと、中は冒険者たちで混み合っていた。昨日より少し早めに来たからだ。
依頼ボードに残っているローレンの森でのAランク魔獣討伐の依頼票を剥ぎ取り、3つある受付窓口の1番人が少ない列に並んだ。
並んでいる間も冒険者たちの視線を感じた。新たなSランク冒険者に対する興味、羨望、疑心。どんな目であれ向けられることは昔から慣れっこだから特に気にならないけど、女性冒険者たちからの秋波というのは受けたことがなかったので、なんだか新鮮に感じた。
5分程経って、私の番が来た。カウンターに近づくと、受付の男性が私を見て少し驚いた顔をする。
でもすぐ爽やかな笑顔になり、「おはようございます。ギルドカードと依頼票をお預かりします」とこれまた爽やかな声で言った。
サラサラした青髪に茶褐色の瞳をもつ、仕事ができそうな顔つきだ。年齢は20代後半くらいかな。
私はズボンのポケットに手を入れ収納魔法で黒いギルドカードを取り出し、依頼票と一緒にカウンターに置いた。
「ローレンの森でのAランク魔獣討伐の依頼ですね。現状魔獣は活発化していますのでこちらはAランク以上の依頼となります。報酬はAランク魔獣1体で金貨1枚、期限は明日までです。お間違いないですか?」
「ああ」
「では依頼を登録しますので少々お待ち下さい」
そう言って男性職員がギルドカードと依頼票を透明の台の上に並べると、ピカッと白っぽく光った。もう終わったのかカードを私に返し、依頼票は手元のファイルにはさんで保管する。処理が早い。
「依頼を受け付けました。ローレンの森へは30分ごとに出ている無料の乗合馬車が西門から出ていますので、よろしければご利用ください。ではお気をつけて」
私は「ありがとう」とお礼を言って出口へと踵を返した。
私が依頼を受けるのが初めてなのを知って親切に教えてくれたけど、ローレンの森は行ったことがあるからこのまま転移で行くつもりだ。西門に近路地にでも向かおう。あ、でもその前に、一応薬屋行ってMPポーションを買い足しておいた方が良いかな。転移で魔力削っちゃうもんね。
私はギルドを出て隣の薬屋に向かった。
すると途中で2人の女性冒険者に行く手を阻まれた。
「ねぇ、私たちのパーティーに入らない?」
「魔法使いがもう一人ほしくて困ってるの」
ハリのある声で最初に声をかけてきたのは、背が高く焦げ茶色の髪を高い位置でポニーテールにし弓を担いでいる女性。もう一人は艶かしさを感じさせるような声の、水色の長い髪をした見た感じ魔法使いの色っぽい女性だ。2人から熱のこもった視線を感じる。
まさかパーティーメンバーに誘われるとは。でも私も魔法使いだから私を誘うより近接戦闘の人を誘えば……
ふと強い視線を感じた私はそちらに目を向けると、女性たちのやや離れたところで私を睨んでいる3人の剣士と戦士がいた。3人とも男性だ。
ああ、なるほど。この人たちがメンバーか。睨まれているし、修羅場になる予感……
「すまないが、俺はソロでやるからパーティーは組まない。他をあたってくれ」
「えー」
「ならローレンの森まで一緒に行きましょ?」
魔法使いの女性が2人を避けようとした私の腕をとり、問いかけておいて有無を言わさず西門の方へ歩き出した。
いや私ポーションを買いに行こうと……!
こういう時どうしたら良いのかわからない。友達が少ないという支障が出てるわ。ていうかお父様のように近寄りがたい雰囲気を出しているはずなのに、なんでこの人たちには効かないの?
……はっ、まさか肉食女子には効果がないとか!? ありえるわ! だってお父様は高位貴族だからそもそも一般庶民は近寄れないし、貴族女性は良くも悪くも控えめな人が多いからそれなりに効果はある。それに引き換え今私は庶民なのだ。効果がないのも頷ける。でも肉食女子の対処法がわからない。前世でもあまり友達いなかったし、今世の私の友達は公爵令嬢のリリアしかいないのだ。リリアは胸は大きいけど決して肉食系ではないし……ああ、困った。
同じ女子として無下にはできずそのままでいると、こちらの様子を見ていた男性3人に縋る思いで私は口パクで何度も「助けてくれ」と言った。
それに気づいて目を丸くした3人がお互い顔を見合わせ頷くと、灰色髪の剣士の男性が「おいメアリー、離してやれよ」と魔法使いの女性の手を私の腕からとってくれた。ふう、助かったわ。
「Sランクのお兄さんとは俺らが一緒に行くからお前たちは後ろからな」
「えー! なんでよー!」
結局一緒かい。はぁ、でも助けてくれたし一緒に行くくらい良いか。森に着いたら別行動になるし。この際だから乗合馬車にも乗ってみよう。ポーションを買いに行けないから魔力を温存しなきゃだし。
私は剣士と戦士3人の男性に挟まれて西門に向かった。普段うちの騎士団と鍛練しているからあまり抵抗はないけど、もうちょっと離れてほしい。そして女性2人は後ろから文句を言いながら付いてきた。
初めて乗った乗合馬車は、何人も冒険者を乗せるからとても窮屈で、道中この5人のパーティーから自己紹介を受けたけど馬車の揺れが酷すぎてあまり頭に入って来なかった。顔は覚えたけど名前とか自信ない。次回からは絶対森まで転移しようと誓った。




