42.ミヅキの装備
「ま、とにかくSランクがまた現れて良かったぜ。俺が冒険者を引退して6年経つが、腕の立つ一般人は冒険者になるより王国騎士団に入ることを夢見ちまって中々Sランクが現れなかったんだ。ディーノが現れたのは4年前だったな確か」
ディーノって人、冒険者になったばかりなのか。じゃあまだ若いわよね。ベテランをイメージしてたわ。
一般人が王国騎士団に夢見るのはきっとあれかな。でも一応聞いてみるか。
「何故王国騎士団に入りたがるんだ?」
「あ? そりゃだっておめー、最強の総長様に憧れているからだろうが。あそこは試験に受かれば一般庶民でも入団できるからな。総長様の私兵のヴィエルジュ騎士団も試験に受かれば入れるが倍率と難易度的に王国騎士団のほうが受かる確率が高い。ヴィエルジュ騎士団は皇国との国境を守んなきゃならねぇから精鋭中の精鋭なんだ。ま、どっちの試験に落ちても何年も挑戦するやつもいるが、諦めたやつは冒険者になるってところだ」
やっぱりお父様だったわ。そりゃそうよね。冒険者たちの間でもお父様人気みたいだったし。
「よし、講習はこれで終わりだ。思ったより長くなったな。討伐はよく準備してから行けよ。隣の店にはポーションとかの回復薬、向かいの店には討伐や採取に便利な魔道具を売っているし、その隣には鍛冶屋があるから武器を研いでもらえる。装備はその隣の店で揃えられる。そんなマント一枚だけじゃ……って、ん!??」
ギルドマスターが私の紺色のマントを凝視し、ソファから身を起こし裾に触れた。
「お、おい……これってまさか、水竜のマントか?」
「すいりゅうのマント?」
いまいちピンと来ていない私に「お前が討伐したんじゃないのか」と言われた。
「いや……」
討伐? すいりゅうって……え、水竜!? このマント、水竜でできているの!? え、ちょ、お父様ー!?
私の心の中はお祭り騒ぎだけど、表情はクールさをなんとか保った。
ギルドマスターがソファに座り直す。
「自分で討伐したんじゃないなら、あ、お前商家のモンか。それも結構でけぇとこの。どーりで庶民のわりに品がいいと思ってたんだ」
私は目が泳がないよう必死に目に力を入れた。いくら庶民を装っても、12年培ってきたものはそう簡単には崩せないみたいだ。でも商家ならギリギリセーフよね?
「お、その目は図星か? だが金持ちなら納得だ。その剣もいいやつそうだしな。鞘の装飾も凝っているしよ。だが男が持つにしては細くないか? 何製だ?」
ギルドマスターの薄茶の瞳がキラリと光る。
え、何製? わからない。何も言われずお父様から贈られたからな。強度も高いし切れ味最高だから良い素材を使っているのだろうとは思ってたけど、でも知ろうともしないって、まずいな、私。
「まさかそれも知らないのか? それも親からの贈り物か? ったく、俺が見てやる。剣士だから剣のことはよく知っているんだ。ちょっと剣身を見せてみろ」
呆れた顔で言われ、私も気になったので剣を抜いて剣身を見せた。
ギルドマスターがぬっと顔を近づける。そしてみるみる内に表情が変わり、後ろに仰け反った。
「おい、これ、オリハルコンじゃねぇか! なんてモン持ってやがる! おっまえ相当な金持ちだな! 貴族に匹敵するぞ!」
オオオ、オリハルコン!?? 「ドラゴンの宝玉」とも言われている、あの!? え、ちょ、お父様ー!?(2回目)
なんとか顔の表情は保っているけど冷や汗が止まらない。ちょっとこれ、いくらするのよ……
「さすがにお前もビビっているようだな。それもそうだ。オリハルコンはドラゴンを討伐しないと手に入らない代物だ。なぜならドラゴンの死体から出てくるからな。ちなみに俺の剣もディーノの剣もオリハルコン製だぜ。ヴィエルジュ家の総長様が年に一度、王国騎士団や魔法師団を連れてドラゴンの討伐に行っているのは知っているか? あれはオリハルコンを手に入れるために行われているんだ。もちろん王家主導でな。手に入れたオリハルコンは軍の武器や防具に使ったり、友好国に売ったりしているらしいぞ」
年に一度、王国騎士団と魔法師団と一緒にドラゴンの討伐に行くのはこの前マクレイアー団長が言っていたから知っていたけど、理由がオリハルコンだとは知らなかった。今年はドラゴンが活発化しているかもしれないから行かないみたいだけど。
「お前が規格外だということがよくわかった」
規格外なのは私のお父様です、と思いながら剣を鞘にしまい、またソファに立てかけた。
「とりあえず、その剣とマントを盗まれないように気をつけろよ。まあSランクから盗むやつなんていないと思うが、念の為だ」
確かにこんな高価なものを持ってたら目をつけられちゃうかも。マントは防御魔法がかけられているっぽいから身につけておきたいけど、剣はどうすれば……あ、収納魔法を創れば良いのか。漫画とかアニメでもよく出てたわね。戻ったら創ろう。
「あ、そうだ。話が変わるが、もしSランク魔獣が現れたら、これで知らせてくれ」
ギルドマスターがテーブルの上に野球ボール程の黒い球を置いた。
「Sランク魔獣が低ランク区域に現れたらこの魔道具を地面に叩きつけてくれ。黒煙があがればSランク魔獣が現れたとわかり、冒険者たちは森から避難する。で、俺は上に報告をして応援を呼ぶからよ。万が一のためにな」
「わかった」
私は黒い球を受け取った。でも受け取ったは良いけど、入れ物を持ってきていないことに気づいた。
「何か袋とかあるか?」
「収納袋を持っているんじゃないのか。そんな高い装備を持っているからてっきりそれもあるかと思ったんだが、ないなら鍛冶屋の隣の魔道具の店で買えるぞ。値段ははるが商家のお前なら安いモンだろ」
いやそれならスキルで創りますね。
「じゃ、俺はそろそろ仕事に戻るわ。何か聞きたいことがあるなら今の内だぞ」
ちょっと気になることがあったので、ソファから立ち上がって伸びをするギルドマスターに聞くことにした。
「最初にわた……俺を見て何故『こいつだ』って言ったんだ? 初対面のはずだ」
「ああ、それな。書類とにらめっこしていたら外で突然ものすげぇ量の魔力を感じて思わず身震いしてな。まさかSランクの魔獣が街の中に現れたかと思ったがそんな禍々しくもない。総長様かとも思ったがあの方は約束もなく来ないし普段は魔力を遮断している。なら一体何だと外を確かめようとしたら、フッて消えたんだ。そんな膨大な魔力がなんで突然現れたのか疑問に思うだろ? そんで気になって気になって仕事に集中できずにいたところに、またでけぇ魔力を感じた。しかもギルド内でだ。はは、これは慌てるってもんよ。で、お前を見てあのでけぇ魔力を垂れ流しているから『こいつだぁっ!』ってなったわけだ。ガハハハ!」
その「ものすげぇ量の魔力」って私がここの路地裏に転移したときのやつだわ。はは、転移して来たなんて言えないわね。
でも確かに魔力感知ができる人にとってはびっくりするかも。往来でもギルド内でも特に何の問題もなかったから気にしていなかった。それくらい魔力感知できる人って珍しいんだけど、私の周りにはすでに4人いる。お父様、お兄様、グラエム、ベリエ公爵家のアンリ。そしてギルドマスターで5人目だ。
理由がわかったところで、今日はもう屋敷に戻ることにした。今のところディアナ2号から特に連絡がないから大丈夫だとは思うけど、屋敷の人たちにバレていないかちょっと心配だ。あとお腹空いたし、お金持ってきてなかったし。
「討伐は明日からやる」
「おう、よろしく頼むぜ!」
ギルドマスターが右手を差し出したので、私も「よろしく」と言って握手を交わした。
ギルドから出るとき他の冒険者たちの視線がすごかった。もうお昼だからさっきよりかは人が疎らだけど、さっきいた冒険者たちではない人たちがいるから噂が出回るのが速いなと思った。
私はまた転移するために、今度はギルドからだいぶ離れたところの路地裏まで歩いてから自室に転移をした。
長くなりました(^_^;)




