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40.Sランク

受付嬢のアニメ声が響き渡り、カウンター周りにいた職員や冒険者たちが一斉に私を見た。その顔は皆驚愕に目が見開かれている。私も思わぬことに装っていたクールな雰囲気が崩れそうになる。


今Sランクって言った? え、私Sランクなの? 魔力値高いから? 魔力登録の時、何も考えず普通に魔力全解放しちゃったから? もう自分から目立つようなことしてどうすんのよ私!


「ちょちょっ、ちょっと待っててくださいね! 今ギルマス呼んで来ますから! そこ動かないでくださいね!」


私を押し留めるような手振りをしながら彼女は慌てて奥の階段を登っていった。甲高い声で言うものだから、何事だとギルド内がざわついてきた。


ギルマスって、ギルドマスター!? 呼ぶって、なんでそんな大事に!?


動物園のパンダのように周りから好奇な目でジロジロと見られ居心地の悪さを感じて待っていると、ざわめきから会話が拾えた。


「おい聞いたか。Sランクだってよ」


「ああ、しかもディーノさんと同じ初っ端からだ」


「あいつ帯剣しているってことは剣士か。なら体力値がバケモンってことだよな」


「Sランクに届く体力値って一体どれくらいなんだ?」


「ディーノさんは4万って噂だぜ」


「そんなにあんのかよ!」


「あーあ、顔がべらぼうに良くて最強って、反則じゃねぇか」


「あのヴィエルジュ家の総長様も顔がべらぼうに良くて最強だぞ」


「総長様はいいんだよ!」


「やだ、めちゃくちゃかっこいい! ねえ、私達のパーティーに誘おうよ!」


「はっ? 剣士なら俺がいるだろ!」


「これで現役Sランクが2人になったな。Aランクの者たちは助かるんじゃないか? ギルマスの負担も減るしよ」


「わかんないぞ? あいつももしディーノさんみたいに断ったら」


「おい、受付詰まってるぞ! 早くしろ!」


……剣士じゃなくて魔法使いなんだけど。そしてこんな大事になっているのは、私が2人目のSランクだからか。所々で「ディーノ」って名前が聞こえてくるけど、その人がもう一人のSランクっぽい。私の中で最強はお父様だから今までSランク冒険者のことなんて気にしたことなかったな。


1分が10倍くらいに感じていると、ドタドタと音を立てながら階段を駆け下りる音が聞こえた。


奥から獅子のような男が現れ、そして開口一番、「こいつだぁっ!!」と指を差された。


な、なに!?


訳がわからず顔をしかめていると、その人がカウンターを乗り越えて私の目の前に立ち、がっちりした腰に両手を当てて私を見下ろした。


周りがまたざわつく。


「ギルマスだ」


「ギルマスが来たぞ」


「今日はギルドにいたんだな」


この人がギルドマスター……


見上げる程背が高く、服を着ていても筋肉の盛り上がりがわかるたくましい体躯をしている。向かい合う距離は1mもない。魔力量は普通だけど歴戦の猛者のような強者オーラがある。浅黒い肌に短く切り込んだ橙に近い明るい茶髪に太めの眉、吊り上がり気味の目元と薄茶色の瞳からは獲物を逃さないような圧を感じた。


「やはりこの魔力だ! Sランクってのはお前か!」


声がでかい。


「……まあ」


「はぁ、はぁ、もうギルマスってば速いですよー!」


受付嬢が肩で息をしながら戻って来るのと同時に、ギルドマスターが私の肩をがしっと掴んだ。ちょっと力強いんですけど。


「歓迎する!! で、いつ行くんだ!?」


ちょ、ち、近い!


「行くってどこへ」


「Aランク魔獣の討伐に決まっているだろう!!」


さっき登録が終わったところなんだけど。 てか圧がすごい。


「まだ講習を受けてもらってませんよ! あ、これギルドカードです! まだあなたに渡していませんでしたね」


「俺にも見せろ」


ギルドマスターが私の肩から両手を離して、受付嬢から私のギルドカードをひったくった。


「名前はミヅキか。ふむふむ……ん? は? お前魔法使いなのか!? 魔法使いでSランクだと!? おいエリー! さっきはそんなこと言ってなかったじゃねぇか!」


ギルドマスターの野太い声がギルド内に響き渡り、さざ波のごとく「魔法使い!?」の驚愕の声が冒険者たちに伝播(でんぱん)した。


「黒のカードに気を取られててそんなとこ見てませんよー! それに帯剣しているから剣士だと思ってましたし! そもそも私が『Sランク判定出ました!』の『Sランk』のところでマスターがだぁーっと廊下を駆け抜けて行ったんですから、知っていても言う暇なんて絶対なかったですよ! ていうか『魔法使い』に何をそんなに興奮しているんです?」


受付嬢――エリーさんの言い分に、ちっ、とギルドマスターが舌打ちする。ガラ悪いなぁ、この人。


「お前はここに来てまだ半年程だから知らないのも無理ないが、Sランクの魔法使いなんて今まで一人もいなかったんだ。『今まで』っていうのは、冒険者ギルド400年の歴史でただの一人もって意味だ」


えっ、そうなの? なんで? お父様とか魔法師団長とか魔力オバケがいるじゃない。……あ、そうだ、冒険者は一般庶民の職業だった。一般的に庶民は魔力値があまり高くないし、属性も1つか2つだ。Sランクには届かなかったってことかな。


「え、すご! ……あれ? でもマスター、確か3人目の『女神の化身』様は元冒険者でしたよね? 結界を張れる凄い方なのにSランクではなかったのですか?」


私は「女神の化身」という言葉が出て少し緊張する。


「確かに魔力値も半端なかったらしいが、Aランクだったそうだ。まぁそれでも当時はAランクの魔法使いも珍しかったそうだが。つまり、お前はあの『女神の化身』よりも魔力値が相当やべぇってことだ。この俺が身震いするほどのな。あんなにぶるっと来たのは総長様を見たとき以来だぜ!」


再び私に向いて、ガハハと豪快に笑った。そして私の右肩にポンッと手を乗せる。


「じゃ、討伐に行くか!」


「だから講習がまだなんですってばー!」

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