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39.冒険者登録

気づくと私は狭くて薄暗い場所にいた。足元の金色の魔法陣が消えいていくと辺りはさらに暗くなった。


無事にギルドの路地裏に転移できたようね。幸いここには人もいないようだし、誰かに見られなくて良かった。でも魔力結構持ってかれたわー。雷魔法と同じくらいかも。帰りの分ちゃんと残しておかないとだわ。とりあえずMPポーション飲もっと。


ゴクゴクと全部飲んだ後、道の方に出ようと石造りの建物の角からそっと顔を出す。今はまだお昼には早い時間だけど、店の人たちの呼び込みの声があちこちで響き渡り、通りにはたくさんの人が行き交って賑わっていた。中にはこれから冒険者ギルドに向かおうとする冒険者たちの姿もあった。


私はそこに何食わぬ顔で交じる。


冒険者ギルドは3階建てで、石造りから砦のような重々しい雰囲気がある。周りの建物や家は煉瓦造りで暖かみがあるから余計に存在が際立っていた。


胸を踊らせながら開け放たれた分厚い木製の両開きの扉を潜り、少し混んだギルド内を物珍しげに見回す。中はとても広々としていた。


片側の壁一面は依頼ボードのようで、半分から右側は東のヘレネの森、左側は西のローレンの森での依頼に分かれている。依頼票はもう所々剥ぎ取られていてあと数枚しか残っていない。


この時間でもうこれだけしかないのか。朝早くから行かないと良い依頼から先に取られちゃうみたいね。


でも私の目当てとするAランク魔獣の討伐はローレンでもヘレネでもまだ何枚か残っていた。人手不足は確かなようね。


私はとりあえずまずは冒険者登録をしようと、奥にある登録用カウンターに進んだ。依頼受付の列は長いけど、登録の方は誰も並んでいなかった。


受付には若い女性職員がいた。ミヅキの姿の自分より少し年上の、胡桃色の髪をポニーテールにした大きな緑色の瞳の女性は私に気づくと、「おはようござ……」と挨拶の途中で私を見上げたまま笑顔で固まった。


初めて私を見ると相手がまず固まるのは日常茶飯事なのでもう慣れっこだ。ミヅキの姿でもこうなるとは予想はしていたけど、その場合相手はほとんど女性だから大丈夫。


「登録をしたい」


お父様を参考にクールな感じに演じる。男の演技でお兄様も思い浮かんだけど、この顔で甘やか系にすると女子がわんさか寄ってきそうだし、その点お父様みたいに近寄りがたい雰囲気にすれば遠巻きに見られる程度で済むはずだ。


「……」


あれ、まだ固まってる。


「……あの」


「……はっ! し、失礼しました! あまりにもかっこいいので見惚れてしまいました!」


「……どうも」


結構ストレートにものを言う人のようだ。


「登録ですよね! 今準備しますね!」


そう言ってあたふたと登録用紙とペンをカウンターに置いた。


「えっと、規約に目を通しましたらお名前など必要事項を記入して、終わりましたらこちらの台の上の左側に乗せてくださいね。記入した時点で規約に同意したことになりますので、よくお読みください。わからない箇所があれば教えてくださいね!」


緊張しているのか早口だ。でも言っていることは簡単なので私は頷いて規約を読んだ。


この国では庶民も文字を読み書きできる。神殿に併設されている手習い所で無料で文字と算術が学べるからだ。子どもだけでなく大人も受け入れているので、この国の識字率は他国と比べてとても高い。


規約の内容はギルド側の免責事項だ。依頼中は全て自己責任であることや、何らかの不都合が生じても責任を負わないというようなことが書いてあった。


ざっくりすると、手に入れた素材や荷物を依頼中に落としても怪我をして戻ってきても依頼達成できなくてもギルドに責任を問えないってことよね。その代わりかどうかわからないけど、もし死亡した場合の遺族の保障とかは付いているようだ。


読み終わったので次は必要事項を記入していく。


名前は「ミヅキ」、と。生年月日は年のところを3年足して記入して……あ、魔法属性も書かなきゃいけないのか。うーん、どうしようかな……「ディアナ」は火と風と土の3属性だけど、一般庶民は1属性がほとんどで稀に2属性がいるって話だもんね。1属性はちょっと心もとないから2属性にしようかな。攻撃力の高い火属性は必要だから、あとは「ディアナ」が使っていない水属性にしよう。


『ステータス』と心のなかで唱え自分のステータスを出すと、ささっと属性欄を火と水に変えた。一応、念のため。


ステータスをしまうと私は魔法属性の箇所に火属性と水属性と書き、次に「魔法使い」のところにチェックを入れた。帯剣しているけど、私は魔法メインで戦うからね。他には剣士や戦士、射手、槍使いの選択項目があった。


よし、できた。


私は受付の人に言われた通りに、カウンターに設置されてあるガラスのような透明の長方形の台の左側に用紙を乗せた。


「では、どちらの手でも構いませんので、手を台の右側に乗せてください! 偽造防止のため、魔力登録と指紋登録をしますので!」


ん? 魔力はわかるけど……指紋? あ、この魔道具ももしかして……


いやそれより偽造防止のためって、今私偽造だらけなんだけど……本当は12歳だし性別違うしステータス改ざんしてるし。引っかかっちゃったらどうしよう……でもこれをやらないと怪しまれるし冒険者にもなれない。うぅ……どうなるかわからないけど、やるしかない……!


何でもとりあえずやってみる精神で、まず私は遮断していた魔力を解放した。毎回敷地外に出る時は遮断するようにしていたので、路地裏に転移した後も癖ですぐ魔力を遮断していたのだ。まぁお父様とお兄様は外だけじゃなくて戦闘や鍛練以外は敷地内でも遮断しっぱなしだけども。


目の前の受付嬢は私の魔力に何の反応も示さないということは魔力感知はできないようだ。


恐る恐る右手を台に乗せると、ピカッと一瞬だけ白っぽく光り、すぐに消えた。すると、台の左側に置いていた用紙がシュルシュルシュル〜と縮み始め、免許証くらいの大きさに変わった。色も黒になってるし、材質まで変わっている。魔道具ってすご。


「はい、登録できました! これがあなたのギルドカードです……って、黒? え、てことは……Sランク!??」

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