35.変身
お父様のテストが終わってお風呂で汗を流し昼食を摂った後、私は疲れたからとシェリーに言って自室にこもった。今日は大叔父様の授業がない日だから自由に過ごせる。
私はお風呂に入っているときも、昼食を食べているときも、終始ニヤニヤが止まらなかった。抑えようとしても、念願の冒険者になれることにウキウキが湧き出てきてつい顔に出てしまう。幸い食堂にはお母様しかおらず、きっとお母様は私がお父様に本気を出させたことに嬉しくてニヤついていると思っている。だってお母様から、「まさかディアナがあんなに強いなんて思わなかったわ」って笑って言われたからね。娘が全然お茶会などに出席しないで鍛錬ばかりしているのを少しも呆れもせず、むしろあなたの好きなようにやりなさいと、見守ってくれている。とってもありがたい。令嬢らしくなくて申し訳ないけど、全部終わったらちゃんと令嬢らしくするから、もう少し待ってて!
そして自室のソファでごろ寝しながら、冒険者になるためにやることを考える。
登録は15歳からだから、魔法で15歳に姿を変えないとね。あとはバレずにここからどうやって毎回抜け出してギルドに行くかだけど……
私は色々考えている間もさっきのテストのことが頭から離れなかった。
お父様のあの神速のスキル、ほぼ瞬間移動みたいなものだよね。似たようなの魔法創造スキルで創れないかな。あれならここから城下の冒険者ギルドまで、誰にも知られずに行けるんじゃない? 前に城下にお忍びで買い物をしたとき、冒険者ギルドの前を通ったことがあるからどこにあるかわかる。帰りもここに一瞬で戻れるしね。瞬間移動とはちょっと違うけど、ラノベとか漫画でよくある転移魔法はどうかな。
でも魔獣の討伐ってすぐには終わらないよね。運良く高ランクの魔獣に出会えれば良いんだけど、そう簡単にはいかないだろうし。アリバイ作りも十分にしていかないとだよね。
要は私の不在がバレなければ良いわけだから、もう一人の私を部屋に置いておけばいける気がする。某忍者漫画の影分身てやつ。私の影分身に私の代わりとして授業とか出てもらっても、その経験はオリジナルに還元されるようにすれば完璧! 完全に真似だけどね。
とりあえず今は、15歳に変身してお父様に確認してもらうのが先かな。
私は姿見の前に立った。
いつ見ても自分の美少女みに衝撃を受けるわ。未だに慣れないってどうよ。12年もこの顔として生きているのに。
この容姿じゃ冒険者やってるどころではないわね。私が男だったら依頼そっちのけでこの子の気を引こうと付きまとうわ。だからまずは目立たないように変えないとだ。
この銀月色の髪と夜明け色の青い瞳は目立つことこの上ないから、目立たないといえばやっぱ前世でありふれた色だった黒が良いかな。黒髪黒瞳。
15歳っていったら、お兄様より一つ上か。だからちょっと大人めにイメージして……
私は全身に魔力を張り巡らせた。足元に金色の魔法陣が現れると、全身が金色の光に包まれた。
しばらく目を閉じていると、光が収まっていくのが感覚でわかった。
恐る恐る目を開けると、鏡に黒髪黒瞳の超絶美女が映っていた。
「いや目立つ!!」
鏡を見た瞬間、思わず頭を抱えて叫んだ。
こんなのが冒険者やってたらいろんな意味で狙われるわ! だいたい冒険者って男の人が多いんだから!
……はっ! そうだ、男になれば良いじゃん! お父様だってあんな反則的な超絶美形なのに変装もせず普通に外歩いているじゃない! 男だからそれが可能なのよ!
そうと決まれば男に変身!
また金色の光に全身が包まれる。光が収まると、今度は黒髪黒瞳の美少年になった。
「おお、男だ……あ、声が低くなってる!」
イケボ声優みたいでちょっとときめく。私は胸を踊らせながら全身を眺めた。背が伸びて目線がだいぶ変わったことに面白く感じる。
なんかお父様を幼くさせて黒にした感じだ。髪型は元の私みたいなクセのある感じだけど。でも、うん、良いんじゃない? 性別違うし髪も瞳も全然違うから誰も「ディアナ」ってわからないわ。服装は冒険者っぽく動きやすそうな簡易なシャツに黒いパンツと焦げ茶色の革のブーツにしてみた。そしていつも使っている帯剣ベルトを付けお父様にもらった剣をさす。ふふ、どこからどう見ても男ね。美形すぎなところはあるけど、黒髪黒瞳ならそんな目立たないでしょう。よし、これをお父様に見せよう。男の姿にしたことに驚くかもね。ふふふ。
私は姿を元に戻し、お父様に会いたい旨をシェリーに伝えた。




