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幕間(5)―2

そしてディアナが魔法薬で金色の瞳を父上と同じ綺麗な青色に変えたとき、これでディアナは籠の鳥ではなくなると安心した。だからと言ってもう守る必要はないなんて思わなかった。銀月色の髪に庭に咲くアルバローザのような瞳はまさに銀月に舞うアルバの妖精姫で、むしろ異性からの好意的な視線から守らねばと思った。でも同時に複雑な気持ちにもなった。容姿が父上と同じになった。僕は母上と色が同じだから、単純にディアナは父上と同じにしたのだろうけど。


そんなディアナは魔法が好きだと言った。僕がやって見せた何てことない魔法に喜ぶ程だったからディアナは魔法を学ぶかと思ったのに、洗礼式を終えて護衛騎士と一緒に剣術の鍛錬をし始めたのには驚いた。でも外が暗くなるまで魔法の自主練をしているのを自室の窓から見た時は、やっぱりディアナは魔法の方が好きなのだと思った。


だから僕は剣技を磨くことに専念した。僕が剣で、ディアナが魔法。父上が一人でやっていることを僕とディアナの二人でやる。何も父上のようになれなくても良い。人には向き不向きがある。僕ができることで父上に認められればそれで良い。


今では護衛騎士のイヴァンと互角に戦えるまでになった。イヴァンはヴィエルジュ騎士団全体で3位の実力者だ。目標は1位の第1騎士団団長レイヴンに勝つこと。父上の右腕と言われる男に勝てば、父上は僕と本気で戦ってくれるかもしれない。


そう思っていたのに。


目の前で繰り広げられる父上とディアナの模擬戦闘。今日のは今までとどこか違った。戦闘時間もいつもより長いし、合間合間での父上からの指導もない。そして何より衝撃だったのは、ディアナが魔法と剣術の両方を使って戦っていることだった。比重は逆でも、それは父上と同じ戦い方だった。


いつの間に? 何故ディアナが? あいつから何も聞いていない。


僕が6歳の頃、自分に密かに護衛みたいな人が付いていることに気づいた。ある時知らない魔力が自分の近くに感じられたから思い切って話しかけたのがきっかけだ。後にそいつはヴィエルジュ家の影だと知った。


姿を現してくれたことはないけど話しかければ応えてくれた。聞けば、影の存在は代々ヴィエルジュ家の当主しか知らない機密だった。父上しか知らないことを、僕が知ってしまった時のあの気持ちは今でも覚えている。


僕が影の存在を知ってしまったことは当然父上に知られた。本当に重大な機密だったようで、子どもだった僕に魔法でできた誓約書を交わさせた。怒られるかと思いきや父上は複雑な表情をしていた。理由を聞くと、父上も僕と同じくらいの年の時に影に気づいたとのこと。執務室のどこかに底冷えした青い瞳を向けて「たるんでいるようだな」と父上が言った時の顔と声は子どもながらにとても恐ろしかった。


それ以来僕が知りたいことを僕に付く影――リドは教えてくれた。姿を現すのは僕が当主になってからということや、他家の動向、ディアナが影の存在に気づいていないことも。でもどうやらリドは、僕に教えても良い情報しか教えてくれなかったようだ。


僕が諦めたことをディアナがやっている。目の前の激しい戦闘を見ながら、今までに誰にも感じたことのない感情が心をもたげた。


殿下の側近兼友人として王宮に通うようになった間にディアナは着実に力をつけていた。あれならAランク魔獣も一人で倒せるレベルだ。まだ12歳なのに。


どうして父上のようになろうとするのかわからなかった。だってディアナは高位貴族であるヴィエルジュ家の令嬢で、殿下の婚約者候補で、父上のように類稀な容姿で、将来女性としての幸せが待っているはずなのに。


もしかして当主になりたいのだろうか。父上はどう考えているのだろう。


――模擬戦闘が終わった。拍手と歓声が観客から沸き起こる中、僕は一人呆然としていた。


父上が本気を出した。


神速のスキル。初めて見た。父上は滅多にスキルを使わないことで知られている。その父上がスキルを使った。しかもSランク魔獣との戦闘時にしか使わないスキルだ。周りの騎士たちも興奮している。


いつか父上に本気を出してもらえるよう、毎日欠かさず鍛錬をしていた。王宮に通ってからも殿下と手合わせしたり近衛騎士団長に稽古をしてもらったり休むことはなかった。


「お嬢様、すげぇな」


「ああ、あの総長と渡り合えているぞ」


「まだ12歳だよな? さすが総長の娘だ。総長にスキルを使わせるなんて」


「ここからじゃ聞こえないけど、団長の顔を見ればあれはお嬢様を褒めているな」


「いいなぁ、俺も団長に褒められたい……」


騎士たちの称賛の声が聞こえてくる。耳鳴りがした。


ディアナが足取り軽く屋敷に戻っていく。その背中を見て、僕は息苦しさと焦燥を覚えた。

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